遠い神話の世界に伝えられた者

ガチャガチャという走行音にキィキィという嫌な音が交じり始めている。

「もっと速く走れないのか!」

「無理だって!もうこれ以上アクセル踏み込めないよ!うわ!」

ウォーカーマシンを運転していた若い赤毛の青年は慌ててハンドルをきり、その隣に乗っていた黒髪の男もろとも運転席の側壁にしたたかに頭をぶつけた。

そのウォーカーマシンの足元に飛来した弾が地面をえぐった。

「っ……、だから、ホバギーにしようって言ったんだ!」

「ホバギーだったら、最初に当たった段階でおだぶつだよ!」

「ホバギーだったら、もうとうに振り切ってただろ!」

その間にも、二人の乗るウォーカーマシンを二機のウォーカーマシンが追ってくる。

「なんなんだよ、あいつら!この辺りはブレイカーなんていやしないって、言ってたのに!」

赤毛の青年が後ろを振り返った時、

「おい、前、前!」

「え?」

遅かった。

眼前にあった岩山に、中古のウォーカーマシンは正面からぶつかって、そのまま傾いて崩れた。

「てててて……」

這々の体で二人が運転席からはい出すと、岩山の上を陣取ったブレイカーらしき男が二人。手に持った銃はピタリとこちらを向いている。

青年とその相棒は、そろそろと手を上げた。

「どうしよう……」

小声でささやく青年に、相棒はため息をつきながらこれまた小声でささやいた。

「祈れ」

ブレイカーはニヤリと笑い、

「出すもん出せば、命は助けてやっても――」

突然、怪訝な顔をして、視線をめぐらす。

低い動力音。彼方からやってくるのは、

「何だ、ありゃ」

「ホバギーだ。……おい!撃ってくるぞ!」

ブレイカー二人が慌てて銃口をそちらに向けた。

ホバギーに乗った男がライフルを構えているのが肉眼でも分かる。男は狙いをすまして、引き金を引き……

「外すかーーーー!!!」

青年たちは思わず二人ともども同時に叫び、ブレイカーはホバギーめがけて撃ちまくった。

が、ホバギーは速度も落とさず、真っ直ぐに飛んできて、正確に頭上を飛び抜ける。

刹那。

「チェストォォォォォォォ!!!」

気合い声を上げて、人間が落下してきた。地面に男が着地した瞬間、ブレイカーの一人がバッタリと倒れた。残る一人が慌てる間もなく、声を立てる間もなく。

ズ。

斬り抜けた白刃がもう一人も倒していた。

そこへ、旋回した無人のホバギーが戻ってくる。

片手に細い片刃の剣をひっさげた男は、戻ってきたホバギーに飛び乗ると、その場に着地させた。

「大丈夫か」

赤髪の青年も黒髪の青年も、声をかけられたものの、口をパクパクさせている。

新たに現れた銀髪の男は、眉根をよせて、もう一度訊いた。

「大丈夫か」

「あ、ああ……」

先に立ち直ったのは、黒髪の青年だ。

「ならばいい」

銀髪の男は頷くと、横倒しになっているウォーカーマシンを指さした。

「それがお前たちの物か」

「ああ、そうだ」

「そうか」

それだけ言うと、銀髪の男はホバギーから容器を下ろしてきて、ブレイカーが乗ってきたウォーカーマシンから遠慮なくガソリンを移している。

青年たちは顔を見合わせた。

「助かったよ、ありがとう」

銀髪の男は、黙って頷いた。背の高い男だった。

「あんた、この辺りに住んでるのかい?」

「ああ」

途端に、赤毛の青年は目を輝かせ、黒髪の青年がヒューと口笛を吹いた。

「こんなところに人が住んでたなんて!協力してもらえないかな?」

「いないと聞いてたブレイカーの次は、いないと聞いてた住人か。幸先いいんだか悪いんだか」

銀髪の男は怪訝な顔をした。

「そもそも、お前たちは何をしに来た。わざわざ来るような土地でもあるまい」

「えっと、そうだな、どっから話そうか……」

赤毛の青年はポリッと鼻の頭を掻くと、こんな辺鄙な場所に住んでちゃ知らないかもしれないけれ、と口火を切った。

「テレビって知ってるかい?別の大陸だか月の民だかがもたらした物なんだけど、箱に写真を送れるんだ。しかも、動く写真を!」

「……ああ、知っている」

赤毛の青年は人なつっこそうな笑みを浮かべた。黒髪の青年は一歩引いたところで煙草に火を点けた。話は相棒に任せたらしい。

「電気紙芝居って言うヤツもいるんだけどさ、僕は新しい可能性がある、と思ったわけ」

「そうだな」

銀髪の男がなぜか感慨深げな顔をしつつ、重々しく頷いたので、赤毛の青年はますます嬉しそうな顔をした。

「でも、そこに流す物がなきゃ始まらない。そこで、だ。僕とこいつとは刺激的な材料探して冒険に出ることにした!」

「……もっと堅実なところから始めた方が良くはないか」

そうかなあ、と赤毛の青年がトーンダウンする。

「でもね、けっこう重要なもんを追ってるんだよ」

「重要?」

「この辺りに住んでるなら聞いたことあるだろう?」

「何をだ」

「怪物だよ、怪物。伝説の怪物!」

「……」

銀髪の男が胡散くさそうな顔をしたのを、赤毛の青年は不思議そうな顔で見た。

「え?聞いたことない?」

「ないな」

「そうかなあ。少なくとも、ここのまわりのオアシスじゃ有名な話なのに。……何か不審な物も見たことない?」

銀髪の男は無表情に首を振った。

「どんな物かも知らぬ物を見たかどうかと言われても答えようがない」

「こいつはね、民俗学者だか伝承学者だかの間でも有名な、ずいぶんと古い話だってことだ」

煙草を一本吸い終わった黒髪の青年が口を挟んだ。

「伝え聞くところじゃ、その怪物ってのは、身の丈五〇メートルは優にあるという巨人で、雲を突くような巨大な剣を持っているってんだ」

途端に、銀髪の男が固まったような気がして、赤髪の青年は目を輝かせた。

「もしかして、心当たりある?」

「いや、まったく」

即座に否定されて、がっかりしたような顔をしたものの、青年はめげなかった。

「その巨人は、この辺りに何人たりとも近づくことを許さず、侵入する者があると、どこからともなくやってきて、こう名乗る『我が名はサンデー・モーニング、イミダスの剣なり!』」

「なんだそれは」

「いや、僕もそれは知らないけど」

「その名前については、地域によって色々で、今、こいつが言ったのは西の辺りで、北の方じゃ……なんだっけ」

「サンザー・ソンボーン。南が、ザンガー・ランダース」

「……なんで全部違うんだ」

「さあ……言語学者の話では、それぞれの地域の訛りが入っちゃってるんじゃないかってことだったけど」

「ふるってるのが東だな」

「うん。東だと、ゴンザレス・ザ・グレート」

「……もはや跡形もないな」

「でも、僕は一番好きだな。強そうで」

赤髪の青年は、そこで腰に下げていた袋の中から、メモ帳らしきものを取り出した。

「それで、そのゴンザレスが居るおかげで、ここは人っ子一人通らなくなったって話でね」

「……」

「ま、ここで、別な側面があってさ。さっき『イミダスの剣』って言っただろ?」

「……そうだったな……」

「これには別バージョンがあって、それによると……」

青年はメモ帳をパラパラとめくって、ピタリと止める。

「あった、これこれ。『厄を祓う剣』」

「……悪くないな」

「そう。縁起良さそうでしょ。それで、祠を建てて祀ろうって話が……って、どこ行くの?」

「帰る」

短く言うと、銀髪の男はガソリンをホバギーに積み込んで、飛び去ってしまった。

「え?え?――なんか、悪いこと言った?」

「呆れたんだろ。ほら、手伝えよ。こんなとこで立ち往生ってことになるぞ」

黒髪の青年は、横倒しになったウォーカーマシンの運転席に潜り込んだ。

赤髪の青年は、俺は負けないぞー、と過剰な情熱を込めて無駄に大きな叫びを上げてから、素直に黒髪の青年を手伝いに戻った。

平成一九年一月三日 初稿

補足説明

これ,かなり本気で心配してるんだけど.

基本的にアースクレイドルって秘密基地なのに,あんなに名乗っちゃダメでしょ.多分ね,ゼンガーを派遣して,その戦闘をモニターしながら,

メイガス
アレはなんとかならなかったのか?
アンサズ
直りませんでした!!
スリサズ
あんまいじくって,壊れたら役にたたないっしょ.
ウルズ
メイガス,アレは初期不良ではなく仕様です.メーカー保証の対象になりません.

とか言っていたに違いないよ.気の毒に.