Heil_Deutschreich!

シュトロハイム周辺のドイツ的話題ということで.ご存知の通り,ジョジョにドイツ語は1箇所しか出てこないので(たぶん),自然,「Vive la France!」とはコンテンツの性格が違います.

まず,軽く

イタリア語では「JOJO」が「ヨヨ」になってしまうことから第5部の題名が密かに「GIOGIO」になっていたのは知られた事実ですが,実はドイツ語も事情は同じ.もともとのドイツ語に「ジャ」「ジュ」「ジョ」系の発音はなく,「J」は「ヤ」「ユ」「ヨ」系の発音です.

発音記号で「j」と書くと「ヤ」「ユ」「ヨ」系の発音を示すのはおそらく言語学がドイツで発展したからではないかと思う.

だから,「Jonathan」は「ヨナタン」であり,「Joseph」は「ヨーゼフ」(しばしば話題になるジョセフの綴りですが,ドイツでは Joseph も Josef も一般的なようで,どちらも辞書にあります).

ちなみに「Jojo」という単語は辞書に載ってます.読みは「ヨーヨー」,意味はまんまのヨーヨーです.あの紐が付いたオモチャ(笑).

もっとも,(英語系などの)外来語だと「J」を「ジャ」「ジュ」「ジョ」系の発音で読むんですがね.

シュトロハイム登場

シュトロハイムはフルネームが「ルドル・フォン・シュトロハイム」.たぶん,綴りは Rudol von Stroheim.

ルドルという名前は一般的でない(と思う).長い間,私は「ルドルフ」だと思っていた.そっちのほうが一般的だったのでそう思いこんでしまったというのはある.後ろの「フォン」に「フ」が紛れてしまったのではないかと邪推している.「Rudolf」は語源的には「Ruhm(ルーム=名声)」+「Wolf(ヴォルフ=狼)」らしい.「名声高き狼」ぐらいの意味だろうか.

「von」は姓の前につけて貴族であることを表す.(元来は出身地を表していた単語である.このあたりは,貴族の呼称は何処も同じという感がある) 彼は貴族であることになってしまうのだが,ちょっとこれだと妙な事がある.その理由は後述.

「Stroheim」という苗字はもともとどんな意味だったのだろうか.これは分からなかった.「Stroh(シュトロー)」が「藁」の意味で「Heim(ハイム)」が「家」だと考えれば「藁の家」さんということになるが?

彼の名前は Erich von Stroheim (エーリッヒ・フォン・シュトロハイム)から取ったのではないかと私は考えている.無声映画時代からの俳優である.監督作品もある.荒木氏は映画も好きなようだし,あり得ることではなかろうか?

シュトロハイムの所属問題

実は,このページを作ったのは以下のことが引っかかったからである.

発端は彼の階級はドイツ語でなんというかという問題であった.彼がいつのまにか「少佐」から「大佐」になっていること(死人扱いになって二階級特進でもしたのか?/笑)よりも重要なことに私ははたと気づいた.それは,彼の所属である.

ナチス政権下のドイツでは「軍」と呼べるものが2つあるのである.

1つは帝国元帥(Reichsmarschall ライヒスマーシャル)ヘルマン・ゲーリングを頂点とする国防軍(Wehrmacht ヴェーアマハト)であり,もう1つは親衛隊全国指導者(Reichsführer-SS ライヒスフューラー・エスエス)ハインリヒ・ヒムラーを頂点とする武装親衛隊(Waffen-SS ヴァッフェン・エスエス)である.

SSとは親衛隊を表す Schutzstaffel(シュッツシュタッフェル)の略である.

シュトロハイムはどちらに属していたのだろうか.

まず,武装親衛隊であると思われる痕跡をあげていく.ひとつめは彼の服装.名高い SS の黒服のように見えるし,なんといっても徽章に「SS」の文字が見られるのである.(単行本6巻・104ページ左下のコマ等) また,彼の部隊が柱の男を調べていた理由のうち,単行本9巻『謎のナチス軍人』の巻で語られる,「ヒトラーはどうしても不老不死の究極パワーが必要であった」というものこれも証拠といえる.というのは,これはヒトラー個人の為という性格が極めて強い理由であり,国防軍が動いていると考えるよりも,もともとがヒトラー個人の護衛部隊から発達しているSSが動いていると考えたほうが妥当だからだ.さらに極めつけは単行本12巻『リサリサ,JOJOを結ぶ絆』の巻彼自身の台詞「このシュトロハイムとナチス親衛隊が相手だ!!」である.

こんなにはっきりしているのになぜ武装親衛隊だと断じることができないのか.それは,シュトロハイムが1943年スターリングラード戦線で名誉の戦死を遂げているからである.

スターリングラードに関わったドイツ軍といえば,攻め入り,その結果,ソ連軍に包囲されついには壊滅する第6軍,第6軍と共に攻めた第4軍,第6軍を救出するために動いた第11軍,第6軍へ補給するために飛んだ空軍が有名だが,これらはすべて国防軍ではなかろうか.誰か詳しい人,教えてプリーズ.

余談だが,スターリングラードは完全泥沼化していた戦場であり,ドイツ軍はこの細長い都市を完全に制圧したと言えるような状態にはならなかった.それどころか,ドイツの不可侵性が揺らいだ戦いであり,以降,ドイツ軍が敗走を重ねることになる戦いなのである.つまり,ドイツ側から見ればスターリングラードでの戦闘は栄光とも勝利とも程遠い.ゆえに,「名誉の戦死」と言う表現は引っ掛かりを覚える.

2007.10.22追記

上記の問題が一気に解決するメールをいただきました.

軍事について検索していたらここにたどり着いたので、私見を。。。

ブラウ以降、43年冬までの南方軍集団の戦いををスターリングラード戦線とするならば、そこには第三次ハリコフ戦も含まれていると思います。

であれば、そこにはパウルハウサーのSS師団がありましたので、ハリコフ戦での戦死ということであればつじつまが合いますよ。

ハリコフ戦はドイツの大勝利でしたから、これなら名誉の戦死でも問題ないでしょうし。

映画にも度々なっているスターリングラードは一般の人にもある程度名前が知れているでしょうが、ハリコフと言っても一般の人は分からないでしょうから、あえてスターリングラードとしたのかもしれませんね。

矛盾しないっしょ?

それで,最後までナチスドイツの「世界一ィィィィ!!」を信じて逝ったんだろうなあ.

ジョジョに出てくるドイツ語は?

最初に「ジョジョには1箇所しかドイツ語が出てこない」と書いておいたら,どこに出てくるかと訊かれたので書いておく.

それはシュトロハイムが自殺(?)に使った手榴弾に書いてある文字である.が,ハイライトが入っているのと,手榴弾が曲線を描いているせいで一部しか見えないのとでちゃんとは読み取れない.文字列は3行ある.

1行目には「VOR GE?RA」と読み取れる.(「?」はハイライトのホワイトで読めないところ) これはたぶん「vor Gebrauch(フォア・ゲブラウヒ)」(注)である. vor は英語の forにも通ずる単語で,「〜のため」などの意味である. Gebrauch は「使用」の意味である. 2つで「使用のためには」という意味になる.これは,何かの使用法を記すときの決り文句である.たとえば,「Vor Gebrauch gut schütteln!(フォア・ゲブラウヒ・グート・シュッテルン)」で「良く振ってお使い下さい」となる.

(注)ドイツ語では名詞はすべて大文字ではじめる.

2行目は「SPRENG?AP」である.これはおそらく「Sprengkapsel(シュプレングカプゼル)」,つまり「雷管」のだろう.

こういった長い単語はドイツ語では普通である.連語にして新しい単語を作っていくのが一般的だからである.

そして,最後の行が「enset?en」なのだが,これが分からない.「enset」という文字列から始まる単語が見つからないのである.たぶん,前の行から続いている単語なのではなかろうか.Sprengkapsel という単語に冠詞がついていないところをみると,もうちょっと長い文章なのかもしれない.(「vor Gebrauch (冠詞)」までが1行目じゃないかということ)

上述の2行から推測すると,全体で「雷管を抜いて使え」という意味だと思うのだが.

2007.10.22追記

手榴弾についてもメールをいただきました.

後,手榴弾についてなのですが、漫画での現物が分からないので断言できませんが、恐らく柄付手榴弾なんですよね?

24年型柄付手榴弾には、実際なにやら書いてあるものがあります。

>弾頭部に下記の様な使用法をステンシルした物も生産されていた。
>VOR GEBRAUCH
>SPRENGLAPSEL
>EINSETZEN

http://steiner.web.fc2.com/uni/w/a007/a09/a-009.html↑とのことです。

まさにコレ.3行目の「EN...」じゃなくて「EIN...」だったんですね.どうりで辞書にないはずやわ.

EINSETZENは「填め込む」とか「入れる」の意味です.あら?雷管って入れる物だったのか.ごめん.7年もウソさらしとった.

しかし,ちゃんと調べて描いとるもんやね.どんな資料をどうやって収集するのかなあ.