ポルナレフはご存知の通りフランス人です.終始,母国語をしゃべらないアブドゥルと違ってたまにフランス語の単語を口にします.――のわりに「OK」とか「グッド・アイディアだぜ!」などと言っちゃってるのがふと気になりまして,ちょっと考えてみました.
ここに書いてあることを鵜呑みにしてはいけません.筆者はリエゾンもエリジオンもアンシェヌマンもよく分かってない人間です(読めねーよ,フランス語!).誰か,フランス語に詳しい人,教えてください.
使われているフランス語
まずは,使われている言葉から.
- Merci. / Merci beaucoup.
- 栄えある初登場フランス語は「メルシー・ボークー」です.[銀の戦車-2] もちろん,「ありがとう」.ちなみに最初に口にしたのはアブドゥル.わざわざポルナレフにあわせてフランス語を使ってくれています.優しいなぁ(違う). ちなみにこの言葉は後々までわりと出てきます.
- Monsieur
- 続けて出てきたのが「ムッシュー」.[銀の戦車-2] これもアブドゥルが使ったのが先.ポルナレフ自身が使ったのは「Monsieur Joster」[暗青の月-1]と呼びかけた一回きり.
- Bravo!
- ゲームでさんざん聞いた「ブラボー」というボイスだけど,ふと思いました.「これフランス語か?」 ポルナレフ自身が使った最初のそれらしい台詞[銀の戦車-3]なんだけど――やっぱイタリア語でした.と言っても,フランスでも外来語扱いで使われてるみたいです.
- Oui.
- 「はい」という肯定の答え.――ではあるのだが,実はフランス語だと否定文に対する肯定の答えは「si」である.なんてややこしい言語なんだ! さて,これも出てくるのは一度きり.甲冑が無くなったから今度クロス・ファイヤー・ハリケーンを食らったらやばいんじゃないか? と言うアブドゥルに対して「ウィ,ごもっとも!」と言ったきり.[銀の戦車-3]
- Non.
- 「いいえ,いや」という否定の答え.「ノンノンノンノンノンノン」と6回続けて言ってます.[銀の戦車-3]
- chéri / chérie
- 「シェリ」なんて使ってないやんとおっしゃるかもしれませんが,彼の名前が「ミッシエル・ポルナレフ」から取られている以上,その妹「シェリー」の名前が「シェリーにくちづけ」から取られているのは自明でしょう.で,この「シェリ」なんですが,固有名詞ではないのですよ.「愛しい人」という意味.英語なら「daring」です.語尾に「e」がつく方は女性形.「審判その3」の副題は「愛しのシェリー」ですが,フランス語にしたら「シェリ・シェリー」[審判]
- Tres Bien!
- 「非常に良い,結構」の意.髭剃りが気持ちよかったら使ってみましょう.「トレビアンだよ,ト・レ・ビ・ア・ン!」[アヌビス神-3]
Chariot D'argent!
彼が「シルバー……チャリオッツ!!!」と叫ぶのに全く疑問を抱いてなかったんですが,これ,英語ですね.じゃあ,フランス語だとどうなるんでしょう.
「チャリオッツ」は古代ギリシャ・ローマの二輪戦車です.日本語の読みにするときは「チャリオット」とすることが多いと思うんだけど,なぜかジョジョでは一貫して「チャリオッツ」ですね.複数形? どんなものかイメージが湧かなければ映画『ベン・ハー』を見ましょう.あ,そういえば二部でジョセフがワムウとチャリオット戦を演じてますね.
それはともかく.この英語自体,どうもフランス語系の単語らしいです.で,フランス語で「Chariot」というと,今でも普通に使う単語らしく,「荷車」とか「ワゴン」とかの意味ですが……たぶん,上記の戦車の意味もあるんでしょう.
それで,「銀」のほうですが,これは「argent」.だから「銀の戦車」は「Chariot D'argent」でしょうか(英語で言うなら‘Chariot of Silver’).発音を無理矢理表記すれば「シャリョ・ダジャン」
- Chariot argenté
- もとの名前のように「シルバー」の部分を形容詞的に使えばこうですかね.発音は(たぶん)「シャリョタジャンテ」(リエゾンするのか?)
ま,スタンド名は固有名詞なんだから「シルバーチャリオッツ」は「シルバーチャリオッツ」なんでしょうけど.
これぐらいは言ってくれても良かったかな
間投詞的なものなら言ってくれても良かったかな,ってことで.
- D'accord!
- 個人的に非常に使って欲しかった表現.「OK」の意味だと思えば結構,通じる.省略形の「D'ac!」でも可.「分かったか!」「いいか!」と吼え気味に言ってる場面でも合うでしょうし,「分かった」「了解」「OK」と言っている場面でも合います.でも,実はOKも外来語扱いで流通(?)しているみたいです.「分かったか,このトンチキ!」的に使って欲しかった.
- Pas d'accord!
- 上記の否定形です.「いやだ」ですね.これは使って欲しかったと言うよりも,この表現を見たときに「ポルナレフ水筒を攻撃しろ」「いやだぜ!」の場面を思い出したので.
- mon ami / mes amie
- 日本語にすれば「我が友よ」です.Mon amiが単数,Mes amiが複数です.リエゾンするので,発音は「モナミ」に「メザミ」.日本ではこういう呼びかけが普通じゃないんで妙な感じですが.どうもフランス人は「モナミ」を連発するという思い込みが筆者にはあります.
- C'est une bonne idée.
- 「グッド・アイディアだぜ」という台詞が気になってたんでフランス語にしてみました.
- règres chevaleresques
- 別に使って欲しかったわけじゃなくて「銀の戦車」第3話目の副題「騎士の掟」の意.
- Au revoir
- 知っている人も多いとは思いますが「さようなら」です.これはCD文庫では最後に言ってます.「au」が前置詞で「revoir」が「再会」の意.この辺はヨーロッパ言語は一緒なんですかね.ドイツ語も「Auf wiedersehen」だし.あ,中国語もか.「左様なら」というのはすごく日本人的発想の別れの挨拶なのかも.カタカナで表記すると「オールヴォワール」と書かれることが多いんですが,私の耳には「オヴァー」にしか聞こえません.この時の口の開き具合を見ていると物を言いたそうなニワトリみたいです.
- Tout, tout, pour ma chérie
- これが何かと言いますと,ミッシエル・ポルナレフのヒット曲「シェリーにくちづけ」の原題なのです.1969年5月フランスで発表され,日本でのヒットは1971年.この題名の意味は英語にした方がピンと来るでしょう.「All, All, For My Daring」です.「みんなみんな愛しい人に」ぐらいの意味ですか.邦題が「シェリーにくちづけ」などというなんとも穏やかな物なのでバラードかと思いきや,そうじゃない.vivaceぐらいの速さで「トゥ・トゥ・ポ・マ・シェリ,マ・シェリ」と軽快に始まる曲です.歌詞もすごくて,名前も知らない女性を勝手に「愛しい人」呼ばわりして「みんなみんな君にあげる」とか言いやがる(笑).私なら絶対にしない.
なんかあんまりやるとポルナレフらしくないです.人の台詞なんて物は多分に癖(※)ですから別にポルナレフが必ずフランス語の間投詞を挟まなくちゃいけないわけじゃないでしょう.
※例えば筆者は生っ粋の日本人ですが,「Danke」と言ってしまう癖があります.
Cafe Deux Magot
え〜と,ポルナレフとは離れますが渋谷に行ってきたときにBunkamuraの『Les Deux Magots』に行ってきたので,この話題を.
ドゥ・マゴといえば第4部の舞台,杜王町にあるカフェ.「Deux」が「2」の意味で,「Magot」が「(中国製・日本製の)置物の人形」の意味(複数形は s がつく).だから,「Deux Magots」で「2体の人形」.
でも,こんな意味よりももっと重要なのは「ドゥ・マゴ」というカフェがパリにあること.サンジェルマン・デ・プレ教会の隣にあるパリの「ドゥ・マゴ」は,サルトルやボーボワールが通ったカフェとして有名.
渋谷の Bunkamura や横浜のクイーンズスクエアに支店があるので興味があったら行ってみたらどうだろう? 筆者は渋谷のドゥ・マゴにしか行ってないが,渋い色を基調とした落ち着いた店内は雰囲気があって実に良かった.タルト・タタンがおすすめ.
(どうでもいいんだが,いま「2たい」を変換しようとしたら「2対」としか出なかった.これは「2つい」と読むんじゃないのか?)
フランス語の発音についてですが,ご存知の通りフランス語では「h」が発音されません.自動車メーカー「ホンダ」はフランスでも有名なのに「オンダ」としか読んでもらえません.フランス人が英語を勉強すると頻繁に出てくる「have」が発音できなくて結構苦労するらしいです.(まあ,ごまかしちゃうそうですけど)
あと,「r」の発音.巻き舌なんてよく言われますが,フランス語の「r」は喉をホロホロと鳴らす音で,あまり強い発音ではありません.筆者には「は行」の発音に聞こえます(強いて言うならですが).
さて,三部中,彼らはきっと英語で会話していると思うんですが,日本人が日本語訛りの英語をしゃべるように,フランス人はフランス語訛りの英語をしゃべります.いや,ホントに.私はフランス人が英語をしゃべっているのを聞いたことがあるんですが,その方は擬一次元導体の大家とも言える方で,世界各国に行っておられると思われるんですが,しゃべる英語はやっぱりフランス語訛り.単語の発音がフランス語なのですよ.例えば,(無理矢理カタカナで書くと)「ドキュメント」じゃなくて「ドキュマン」.あと,数字やアルファベットがフランス語読み.アクシス,アクシスとおっしゃるので「軸(axis)がどうしたんだ?」と思っていたら,「AsF6」の聞き違いでした.(フランス語の発音を無理矢理書けば「ア・エス・エフ・シス」)
まぁ,実際,数字と言うのはとっさに出てこないもんではあります.ポルナレフが数字を言う場面というのはいくつかありますが(例えば「アヌビス−1」),きっとフランス語で言っていたに違いないと思う今日このごろ.