どこかの公園のベンチである。
眼の前には一条の噴水が、夕暮の青空高く高くあがっては落ち、あがっては落ちしている。
その噴水の音を聞きながら、私は二三枚の夕刊を拡げ散らしている。そうして、どの新聞を見ても、私が探している記事が見当らないことがわかると、私はニッタリと冷笑しながら、ゴシャゴシャに重ねて押し丸めた。
私が探している記事というのは今から一箇月ばかり前、郊外の或る空家の中で、私に絞め殺された可哀相な下町娘の死体に関する報道であった。
私は、その娘と深い恋仲になっていたものであるが、或る夕方のこと、その娘が私に会いに来た時の桃割れと振袖姿が、あんまり美し過ぎたので、私は息苦しさに堪えられなくなって、彼女を郊外の××踏切り附近の離れ家に連れ込んだ。そうして驚き怪しんでいる娘を、イキナリ一思いに絞め殺して、やっと重荷を
それから私は、その娘の
「振袖娘の縊死」
といったような標題を予期しながら……。そうして、そんな記事がどこにも発見されない事をたしかめると、その空家の上空に当る青い青い大気の色を見上げながら、ニヤリと一つ冷笑をするのが、やはり一つの習慣のようになってしまったのであった。
今もそうであった。私は二三枚の新聞紙をゴシャゴシャに丸めて、ベンチの下へ投げ込むと、バットを一本口に
それはやはり同じ日付けの夕刊の社会面であったが、誰かこのベンチに腰をかけた人が棄てて行ったものらしい。そのまん中の処に
空家の怪死体
××踏切附近の廃屋の中で
死後約一個月を経た半骸骨
会社員らしい若い背広男
私はこの新聞記事を掴むと、夢中で公園を飛び出した。そうしてどこをどうして来たものか、××踏切り附近の思い出深い廃家の前に来て、茫然と突っ立っていた。
私はやがて、片手に掴んだままの新聞紙に気が付くと、慌てて前後を見まわした。そうして誰も通っていないのを見澄ますと、思い切って表の
空家の中は殆んど真暗であった。その中を探り探り娘の死体を吊るしておいた奥の八畳の
「……………」
……それは
バンドを
私は驚きの余り気が遠くなって来た。マッチの燃えさしを取り落しながら……これは警察当局のトリックじゃないか……といったような疑いをチラリと頭の片隅に浮かめかけたようであったが、その瞬間に、思いもかけない私の
それは私が絞め殺した彼女の声に相違なかった。
「オホホホホホホ……あたしの思いが、おわかりになって……」