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ある夜,電話が掛かってきた

1月終わりのことだ。夜,携帯が鳴った。これは珍しいことだ。私の携帯は鳴らないものと決まっているのだ。

相手は誰だろうと一応考えてはみるが、そんな時間にかけてくるヤツは1人しか知らない。だから、相手の予想はついた。

果たして、予想通りだった。
「もしもし、toschです」
「おう、どうしたんだ?」
「Sousuiさんってさ、土日休みなんだよね?広島来ない?」
「帰んのか?」
「遊びたい気分なんだよ」
そういう tosch の声はやけに幸せそうだ。

はっきり言って、広島に行って何か見るべきものがあるのかは疑問である。私にはとっさに見たいものが思い浮かばない。しかし、toschに会うというのは魅力的であった。だから、正直言って心引かれたのだが、toschは2月最初の土日を希望し、私はその日は都合が悪かった。そこで、その日はもうちょっと考える、ということにして電話が切れた。

それは2月1日のことだった

2月1日またも夜に電話が掛かってきた。toschだった。やはり今週帰る、と言う。残念だが仕方が無い。でも、僕としても遊びたいなぁという気分に傾いてきていたので、toschが広島から帰った頃、札幌に遊びに行くのはどうだろう、と言った。

「えー、でも、何にも食べさせてあげらんないよ?」
「…お前、実家でメシを食わせてくれるつもりだったのか?俺は今、1人暮らしじゃねーんだ、メシには飢えてねーよ!!」」
「そう?」
「ああ、でもどっか旅行 行きたいなあ」
「行きたいねぇ」
「今、俺、無性にイギリスに行きたくてさ」
これは、はっきり言って単なる願望であった。具体的計画は無い。私はもう10年ぐらい「イギリス(かドイツ)に行きたい」と言っていながら実行に移したことは無かった。だから、この時も「ただ言ってみただけ」だった。だが、しかし。
「イギリス?いいねぇ。行こうよ、イギリス。3月なら私,暇だからさぁ」
あっさりそう来るかァ!?
「って、パスポート持ってんの?!」
「持ってるよ〜」
正直に言おう。toschがパスポートを持っているなんぞ意外だった。どこに行ったんだか見当もつかない。実はいいとこのお嬢様で毎年家族旅行をしていたのか――という予想は打ち消してあまりある。

勢いでイギリスに行くことが決まってしまい、電話を切ってから、「どこに行ったんだか聞けばよかった」と思った。

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