銀嶺の果て

三船さんデビュー作で,見てみたかったんだけど,あるんかいなーと思ったら,あっさりTSUTAYAにDVDあった.

タイトルシーン観ていて妙にゴジラを思い出すと思ったら音楽伊福部さんだった.あはは.癖って出るもんだね.ただ,よく分からないのは三船さんが出演者トップに来ていたこと.どう考えても主人公は志村さんだろう.「新版」って書いてあったから入れ替えたのかなあと疑っている.

2010.5.25追記:山本嘉次郎監督の『カツドオヤ人類学』(養徳社・昭和26年7月15日発行)を読んでいたら,谷口君は監督に昇進して、第二囘作品『銀嶺の果て』を三船敏郎を主役(これも初主演である)として作つた。という文章があって,うーんと唸ってしまった.あれ主役だったの??ただ,山本監督,続けてそのときの三船君の相手が若山君である。と書いていて,さらにうーんと唸ってしまった.だって,劇中,この二人の絡みは全くない.それどころか直接しゃべる台詞は「あのラジオ聴けるのかい?」ぐらいしかなかったように思う.

志村さんは強盗犯のリーダー,小杉さんが「おっさん」と呼ばれるちと小心者な感じの仲間,で三船さんが若い悪党.三船さん,無意味に裸な場面があって,ちゃんと服着て出てこいと思った.寒いだろ,どう考えても.ああ,でも,温泉で正体ばれて宿の者を脅している場面は表情がくるくる変わって良かったな.

銀行強盗が雪山に逃げ込む話,と言えばそれで終わりなんだけど,銀行強盗場面はざっくりあっさり潔く切ってあって,観せたいとこだけになっていて良いなあと思う.脚本黒澤さんだけど,初期の頃は語らずに済ませる部分がけっこうあって,シャープなところが私は気に入っている.

遊びもあるけどね.冒頭の二人の会話のとぼけた感じとか,木曽節歌ってる酔っ払いの宴会とかが楽しい.

銀行強盗犯は三人なんだけど,正直,なんだってこの三人が組んだのか全然分からない.特に江島と高杉はどう考えてもウマが合わなそうなもんだから.そりゃあ江島は骨の髄まで悪人で,「感謝」という言葉も知らない人間だけど,正直農林小屋での高杉の台詞で苛立つのはよく分かるよ.余計なことばっかしてくれた挙げ句にそれか!と自分も思ったもん.

江島って気持ちいいぐらい悪人だよなあ.分かんない鬱屈した感じの悪人じゃなくて,ストレートに分かりやすく悪人.私は何故か鳩を埋めている光景を見る江島の「もったいねぇ,焼いて食やいいのに」って台詞が好きで――いや,好きって訳じゃないんだけど,その発想は無かったなあというか,単純に金銭欲だけじゃん,江島って.だからかなあ.気持ち悪さが無いんだよなあ.

野尻さんと江島との言動,ひいては顛末の違いって,年の違いのせいもあるんじゃないかなあ.つまり,若々しく力漲り自分頼りに行動していくことに疑問を抱かない江島と,さまざまな経験をし人の情だって分かってはおりそろそろ落ち着きたい気もしている野尻とで.ああ,もしかしたら小屋に書いてあって江島が「なんじゃこりゃ」と一蹴するドイツ語の文句「Berg-steiger - Kraftprotzen? Nein! Die Besten unter ihnen sind Stillglückliche Menschen.」ていうのは江島と野尻を暗示しているのかもしれないなあ.このドイツ語,ドイツ人に見せたら「よく分からん」と言われた代物なので,少々怪しいけれど,「登山家とは力誇示する者なりしや? 否! 彼が最善の者は,静謐に幸福を識る者なり」ぐらいの意味だと思う.

ああ,ちなみに「Rosenmorgen」なる言葉も聞いたことないと言われた.それでも私はこの言葉が好きだ.劇中に印象的に出てくる台詞で,クライマーな本田さんが山を眺めながら溜息をつくように言うのだ.白黒映画なんだけど,私にはストンと腑に落ちた.私が住んでいる富山という場所は,平野から3000m級の北アルプスが見えるところなんですがね,この山々が雪を纏う頃,晴れた夕方のごくわずかな時間帯に夕焼けの陽の光が雪に溶けてピンクに染まるんですわ.だから,この映画を見ていてローゼン・モルゲン(薔薇色の朝)と言われたときに,白黒の映像を見ながら辺りのピンクの様が浮かぶようだった.里から見上げる光景でさえ綺麗なんだから,それが我が身全てを囲んでいたら,魅了されずにいられないだろうと.

もう一つ印象的で重要なのは『My old Kentucky Home』.音楽って力を持ってると思う.野尻が心動かされたのは多分この音楽のせいだと.

銀嶺の果て [DVD]

日時: 2010年3月28日 | 感想 > TV/映画 |

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