第三の男

突如,私はまたも第三の男づいてる.

私が「第三の男」というタイトルをはじめて知ったのは映画音楽を特集したFM放送でである.かの有名なテーマ音楽はアントン・カラスによるチターの曲で「ハリー・ライムのテーマ」という.

はじめてその曲を聴いたとき,私は「この映画は喜劇に相違ない」と思ったものだが,まったく違った.いや,あの曲でこの映画がどんなものか予想がついたらその人はエスパーである.あの曲が哀愁を帯びてきこえてくるのは映画を見た後ではあるまいか.アントン・カラスという人はこの映画で有名になりすぎてチター界ではつまはじき状態になってしまったそうだ.皮肉なことだ.

もちろん,映画史に名を残す名作だけに,名場面・名台詞は多い.「スイスが作ったのはなんだ? ハト時計だけだ」という台詞の大観覧車の場面,地下水道での追跡,そしてラストシーン.

私なんぞが語る前にすでに語り尽くされている.「名画はいつみても面白い」という言葉を私に実感させたのは「風と共に去りぬ」だが,それはこの映画にも言える.

近ごろ日本では某映画教材のナレーターとして知れ渡ってしまったオーソン・ウェルズ,そしてジョセフ・コットン.ジョセフ・コットンという名優は出演作も多いらしい.たしか,ヒッチの映画にも出ていたと思う.いや,それより驚いたのはゴジラかなんかの怪獣映画にも出ていると言う事実である.

さて,この映画で私が気に入っていたのはホリーのファンだという警官.なんだかんだと笑顔でまとわりつくこの人物をホリーはうっとうしく思っていたのだが,ホリーが善良なだけの一市民でいられなくなるきっかけとなる,そういうキー・パーソンである.

さて,ハリーの恋人(名前忘れた)にホリーは恋心を抱く.一時はいい感じになるのだが,結局のところ,女性はハリーを選ぶ(というのも変だが).それが有名な長い長いラストシーンに現れる(こいつがまた哀愁を帯びつつかっこいい)わけだが私にははじめて観た頃ホリーが気の毒でしかたがなかった.なぜ,分かってくれないんだろう,ホリーにはホリーの事情があった.なのになぜ分かってくれないんだろう,と.

でも,このごろつらつら思い返すと,この女性が決然としているように思われてきた.たとえ何をしていようとも,ハリーは自分に優しかった.わたしはハリーを愛していた.その態度を貫きとおしたのがあの木の葉がまいちる通りでのラストシーン.

あの場面を考えた人はすごい.私なら言葉を出してしまう.けど,そんな場面にはならず,けっきょく,それゆえにあの場面は語り種になったのだ.

第三の男

日時: 1998年5月 7日 | 感想 > TV/映画 |

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