小野・岩崎・井上が寄ると……

雫石YHの朝.陽射しがレースのカーテンを通して入ってくる.ああ,今日もいい天気.回り中に広がる稲穂が金色にゆれている.窓を開けるとほろよく冷えたいい空気が流れ込んでくる.

朝食を食べる.今日は小岩井農場に行くことにしていたのだが,いっしょに朝食を食べていた御仁も歩いて農場に行くと言うので(とちゅう,自転車を借りるつもりだとは言っていたけど)いっしょに行きましょう,と誘う.

ところがだ,ほんとに,いっしょに歩いてるだけ.(笑)

もっとさぁ,会話を楽しむとかないのかね,君は.(苦笑)

タダもくもくと歩くのだ.男性のペースにあわせて歩くのは荷物も多かったしつらかったよ.(その人はもう一泊するというので荷物もたいして持っていなかった)

まぁ,これは私の判断ミスだとあきらめましょう.

彼が自転車を借りに行くなり,私は行く車,行く車に親指をたてて手を上げてぶんぶん振った.まったくもってヒッチハイクなぞ4,5年ぶりだ.数台無視されたが,気のいいおばさん2人組みの車が拾ってくれた.

どうにか小岩井農場の「まきば園」に着いた.

実はこの時点で私の財布の中身は空に着々と近づいており,今日お金を下ろさねば宿泊できないのが確定していた.

しかし,しかしだ.今日は日曜日.

このド田舎でキャッシュサービスをやっているような郵便局があるのだろうか.ちょうど,郵便局が出張しておったので(というか,この頃よくある観光地で切手とかはがきとかを売るやつ)訊いてみた.案の定,「盛岡まで出ればあるんですがね……」ということだった.くそ,許すマジ,ド田舎!

しかも,ここから小岩井駅までのバスというのが11時22分を最後に15時17分までないといきている.私は昨日の雫石YHですっかり懲りていたため,田沢湖駅には日の落ちないうちに着いていなければならないのだと確信していた.

――ま,なんとかなるだろう.(さんざん考えてそれかい!)

さて,まきば園で即,アイスクリームを食べる.たしかにうまい.でもさぁ,北海道から出てきてわざわざ食べるようなもんだろうか.はなはだ疑問である.

ま,まぁ,気を取りなおして羊を触りにいく.顔の黒いのと白いのがいっぱいいた.羊の瞳って蛸みたいだよね,虹彩が四角くてさ.

羊館でお土産を買って,それから体験工房を眺める.人々が並んで一生懸命小ビンを振っているという間抜けな光景が展開されていた.どうやら,バターを作っているらしい.へぇ,バターって人力でできるんだ~.やってみたかったものの,バターの量は多いのにその日のうちに消費しなければいけないというのであきらめた.

次は馬ゾーンに行く.馬に乗るのなんて――よく考えたら始めてじゃないや.大学でも乗った.なんか狭い馬場を一周するので500円ぐらい取られた.これは暴利だと思う.しかも,終わり近くで突然「お疲れ様でしたぁ」と声をかけられたのでそっちを見たら勝手に写真を取られた.これがまた勝手に現像されてまきば園入り口で売られていると来る.1300円なり.暴利だ!

さて,牛の乳しぼりショーと言うのが始まったので眺めていると,牛がやってきた.これがまた「小岩井スタービーチバーブオリンピアード」などというやたら長ったらしい名前である.司会のおねえさんが「ぜひね,覚えて帰ってくださいね~」などと言っていたのだが……覚えられるか!

そういえば,名前で思い出したんだが,馬小屋に「小岩井太郎」という名前の馬がいた.もっと考えようは無かったのだろうか.……ま,競馬馬もたいした名前ついてないし,馬の名前なんてそんなもんなのかもしれない.

さて,ここでまきば園を出る.小岩井農場案内バスというのが11:30に出るのでそれに乗ろうと思ったのである.そういえば,このとき,さんざん「岩手山がどうのこうの」と言っていたが,どうやら噴火しただかおそれがあるだかで騒いでいたらしい.まったく知らなかったよ.

あ,そうそう.「小岩井」というのはもともと地名なのだと私は思っていたのだが,違うのだそうだ.創業者が「小野義真」「岩崎彌之助」「井上勝」の3人だったので頭文字を取ったのだそうだ.ここで誰を先にするかで揉めていたら笑える.

さて,案内バスに乗ると,車で来ていなくても労せずして乳業工場を見に行ける(金はかかるが.ただし,金曜日は乳牛工場は休み).しかし,ごく小さいものだったし,工事中だったりして大した物は見られなかった.

これだったら,札幌で雪印の工場を見に行ったときのほうが見がいがあった.まぁ,農場をグルリ1回りできたので良しとしよう.

さて,ここで私の金は切れた.昼飯さえ食えない.よって,盛岡を目指すべく出発することにする.途中の売店で小岩井駅への道を訊いたところ,いかにも「歩いて行くつもりか」という顔をされた.しゃぁないやん.

といっても,歩いていくというのが上策で無いのは良く分かっていたので,ヒッチハイクを試みる.……と,最初の1台目のおっちゃんにしてからがプ!とクラクションを一回鳴らして去っていった.

「なんかお前に迷惑かけたか,ボケ!」

人がまわりにいないのをいいことに思わず声に出していた……朝の時も思ったんだが,この辺ってヒッチハイクが許容されていないようだ.これが北海道ならまだマシなのに.

だが,捨てる神あれば救う神はある.売店で店員さんとのやり取りを訊いていたおっちゃんというのがいて,この人がすぐにワゴン車でやってきて拾ってくれた.感謝である.

まぁ,この人も「悪いけど,いつもだったら停まらなかった.たまたま聞いてたから停まったけど」という話だったので,やっぱりこの辺ではあんまりヒッチハイクというのが通用しないらしい.

ヒッチハイクにも礼儀はある.乗せてもらう代わりに話題を提供するのである.(そういえば,toschは乗せてもらった上におもいっきり寝てしまったと語っていたことがあるが,これは恩知らずと言うものである)

で,私が盛岡へお金を下ろすために行くことを知ったおっちゃんは,そっちに行くから盛岡まで乗せて行ってやる,と言ってくれた.願ったり,かなったりである.しかも,郵便局にまで横付けしてくれた.さんざん感謝したものである.

さて,首尾良く金を仕入れた私ではあったが,疲れていたし,さっさと田沢湖に行ってしまうことにした.日のあるうちに田沢湖駅につけたが,昨日の事がよっぽど痛かったのであろう,「迷った」などと思う前に人に聞き,バスにもちゃんと乗ってわりと早いうちにユースホステルに着いた.

ここのヘルパーさんはあまりおしゃべりが好きでないようで,ひたすら『炎立つ』を読んでいるような人だった.

が,このときの他の宿泊者が痛快な人たちばかりで,ほんとうに夜も更けるまで話しこんでしまった.こんなに会話が弾んだ宿泊も珍しい.Iさん,Aさん,K君,ありがとう,楽しかったです.

それから,YH のおとなしいゴールデンレトリバー(食事をしてると眺めに来る.別に欲しがっているわけではない)にもうまい食事にも感謝,感謝.

日時: 1999年9月26日 | 旅行記 |

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