toschが読んだというし,TVにもなっていて,ミステリチャンネルでも人気のある番組だと聞いたので読んでみた.
フロストって人の名前だったのね.この人の名前が「ジャック」と言うのでニヤリとしてしまった.このジャック・フロストというのが主人公のイギリスはデンドン(これは架空の街)の警部.紹介文にボロクソに書いてあるからやな人なのかと思ったら,その逆でいい人だった.そりゃ,下品だし,だらしないし,この人の部下になったら書類作成の遅れのせいで残業手当をもらい損ねる可能性もあるけど,良い人なのだ.むしろ,不平タラタラの部下(『クリスマス~』ではクライヴ刑事,『~日和』ではウェブスター刑事,『夜の~』はギルモア部長刑事)のほうがやな感じだと思う.
普段,軽口を叩きつづけるけれども,フロストは世間の底辺を生きている人に対して優しいのだ.こらえきれずに罪を犯してしまった人に対しては優しいのだ.勇猛果敢というわけではないけど,決して臆病ではない.懸命に頼まれると「なんで俺が」と思いつつも断りきれない人なのだ.だから,エリートコースに乗ってるような人,上昇指向の塊のような人には嫌がられるけど,好いている部下も多い.『~日和』の最後の方から少し引用する.
「(略)だが,ひとつ問題がある.おれがお巡りだってことだ.まあ,お巡りとしちゃ,たぶん,それほど出来のいいほうじゃないだろう.(略)だが,そんなおれにも,これだけは言える.おれは捏造された証拠を黙って見逃すために,お巡りになったんじゃない.死んじまったやつに,たとえそいつがけちな悪党だったとしても,犯してもいない人殺しの罪が着せられるの黙認するために,お巡りになったんじゃない.(略)」
(略)
「それが警部の流儀なんですね.(略)」
「まあ,そんなとこかな」フロストは申し訳なさそうに,低い声でつぶやくように言った.「おれはいつだって,望まれないとこに顔を出しちまうんだよ」
話の展開のほうなんだが,これがまた,いろんな事件が1度に起きてたくさん人が出てきてそうとう混乱する.毎日,昼休みにちょっとづつ読んで居た私は人の名前だの事件だのが分からなくなってしまって,フロストと一緒に「そいつは誰だっけ?」状態に陥っていた.この「たくさん起きた事件」が実は関連があってそれがだんだん明らかになって行くのが面白い.フロストがこれを解決できるのは推理力よりも運の良さのせいだったりする(笑).
ジャック・フロスト警部のシリーズはまだ3作しか邦訳がないけど,続きも訳してほしい.分厚いけど(しかも,だんだん分厚さが増していく!)会話がテンポ良くてお勧めである.
ちなみに,中表紙にある紹介文は若干ウソだ.(笑)
《ジャック・フロスト警部シリーズ作品リスト》
- 創元推理文庫 Mウ-8-1『クリスマスのフロスト』(原題 Frost at Christmas)
- 創元推理文庫 Mウ-8-2『フロスト日和』(原題 A Touch of Frost)
- 創元推理文庫 Mウ-8-3『夜のフロスト』(原題 Night Frost)
- Hard Frost
- Winter Frost
- 夜明けのフロスト(光文社文庫のクリスマスにちなんだ,他作家含むアンソロジーで,フロスト物は表題作のみ)