スタンリー・ヘイスティングズシリーズ(パーネル・ホール)

ユーモアミステリーは好きだ.日本の作家なら赤川次郎なんかをガシガシ読んでいる(この人は多作すぎて作品をフォローできない).で,海外の作家ならこの人,パーネル・ホールのスタンリー・ヘイスティングズシリーズが好きだ.このシリーズ正式名称というものが存在しないので,人によっては「お人よし探偵」スタンリー・ヘイスティングズシリーズとか「控え目探偵」スタンリー・ヘイスティングズシリーズとか調査員スタンリー・ヘイスティングズシリーズとか,まぁいろいろ言われている.

私がこのシリーズの存在に気づいたのは,第3作か第4作が店頭に並んだ頃だった.最初に手にとったきっかけは題名の軽妙さと表紙の絵のせいだ.どんな表紙かというと,tintin(タンタンである.ティンティンと読まないように.ベルギーのジョルジュ・ルミによる漫画である.たぶん,名前を知らなくても見たことはあるだろう)の絵に似た感じのとっつきやすいイラストなのだ.友人が教えてくれたところによると,実際,イラストを書いた人はタンタンを意識して描いたのだそうそうな.このイラストを描いている人というのが江口寿史氏なのだ.

手に取った理由が表紙なら,読んでみようかと思った理由は「ヘイスティングズ」という名前である.クリスティなら昔から読んでたから,なんとなく心惹かれたのだ(もちろんアーサー・ヘイスティングズ大尉はスタンリーとは関係がない)中身を読み始めてすぐに気に入った.

そもそも主人公のスタンリー・ヘイスティングズが良い.本当は俳優になりたかったけどだめで,小説家として身を立てようとしたけれど,そうそううまくはいかず,生活費を稼がなければならないというときに紹介されたのがローゼンバーグ・アンド・ストーン弁護士事務所の仕事.その仕事のために私立探偵のライセンスも持っているし,いちおう自営業なのだが,内実はローゼンバーグ弁護士事務所の下請け.ここでe.s.ガードナーを思い浮かべてポール・ドレイクみたいなものだと思ってはいけない.ペリー・メイスンとは違って弁護士リチャード・ローゼンバーグは民事訴訟専門なのである.「道路に段差ができていたおかげで転んで怪我したから金払え」というような裁判ばかりであり,自然とスタンリーの仕事の内容も「道路の段差がなるたけ凶悪に見えるように写真をとる」とか「被害者の話を聞いて,弁護を任せるという契約書にサインをしてもらう」とかいうものばかりなのである.

万事に対して控え目かつお人よしで,元来の平和主義者なため,銃だって持ち歩いたりしない,そんなスタンリーが生活のために走り回る姿は,いつ読んでも自分とダブってしまって,どうしても応援してしまう(苦笑).

平和主義者のスタンリーであるが,第1作で殺人事件にぶちあたってからは殺人事件に付きまとわれている(笑).したがって,いやいやだったりしょうがなかったり見捨てられなかったりで事件解決のために奔走する羽目になるのだ.しばしば,緊張のあまり笑い出してしまって「大丈夫か?」と言われてる姿など,「ああ,普通の人だなぁ」となんだか安心してしまう.

「お人よし」とされるスタンリーであるが,周り中をお人よしにさせる特技があるように思う.特に割を食ってるのがマコーリフ部長刑事だろう.

このシリーズで面白いなぁと思うのは,警察はちゃんと有能だし,スタンリーは基本的にドジだしで,誰が真相を解き明かすか分からないことである.スタンリーの考えはまったく間違っていて,警察にちゃっかり利用されただけってときもある.

しばしば不完全燃焼な読後感ではあるのだが,軽妙な文章が読む気をそそる.はやいとこ次を訳してほしいシリーズである.

第3作の「お人好しでもいい」という題名を見ると,どうしても「たくましく育ってほしい」と繋げたくなってしまう私は変ですか.

Parnell Hall Mysteries(作者公式サイト)

《スタンリー・ヘイスティングズ シリーズ 作品リスト》

  1. HM(153)-1『探偵になりたい』(原題 Detective
  2. HM(153)-2『犯人にされたくない 』(原題Murder
  3. HM(153)-3『お人好しでもいい』(原題 Favor
  4. HM(153)-4『絞殺魔に会いたい』(原題 Strangler)
  5. HM(153)-5『依頼人がほしい』(原題 Client
  6. HM(153)-6『陪審員はつらい』(原題 Juror)
  7. HM(153)-7『撃たれると痛い』(原題 Shot)
  8. HM(153)-8『俳優は楽じゃない』(原題 Actor)
  9. HM(153)-9『脅迫なんか怖くない』(原題 Blackmail)
  10. HM(153)-10『脚本家はしんどい』(原題 Movie)
  11. HM(153)-11『裁判はわからない』(原題 Trial)
  12. HM(153)-12『罠から逃げたい』(原題 Scam)
  13. HM(153)-15『サスペンスは嫌い』(原題 Suspence)
  14. 休暇はほしくない』(表紙のイラストが変わって残念)(原題Cozy
  15. Manslaughter

日時: 2001年9月29日 | 感想 > 本 |

コメント (3)

はじめまして。
「探偵になりたい」を読み終わって、この作家は良いなぁと思って検索したらこのサイトに辿りつきました。
共感できる人がいて良かったです・・・(安堵)
このサイトをまだ全然見ていないので、他に読んだ本がかぶっているかも・・・、と思いつつ見てみます。
ちょくちょく来てみますので、よろしくお願いしますね。

こんにちは.

スタンリー・ヘイスティングズシリーズは『休暇はほしくない』以降をまだ読んでいないんですよ.
スタンリーは超人的でも才能がある感じでもないんだけど,一生懸命で人の良いところが好きです.あと,子供と遊んだとか奥さんに買い物頼まれたとか妙に生活感があるところが可笑しかったりします.

久々に読もうかな.

こんばんわ。
また来ました!
ひと通り見てみたんですが、けっこう一緒だったりして嬉しいです。

が・・・!
困ったことが一つあります。
コメントの返信を頂いたようなのですが、その返信の見方が分かりません。
私のコメントも見れないので、まー、どうしましょう。
困った時の、スタンリー頼み。
ということで再びここに書きました。すみません・・・。

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