ピーター卿シリーズ(ドロシー・L・ セイヤーズ)

ピーター卿物を読もうと思ったのは,コリン・デクスターのせいだ.どの作品だったか忘れたが,「なんて名前の人?ピーター卿?」「モースよ」というような会話があって,そういえばセイヤーズは綺麗な色の背表紙の文庫が出てたなぁと思い出して,読んでみようと思ったのだ.

このシリーズはネロ・ウルフ物の次に読んだ物だから,おしゃべりはおしゃべりだけど,アーチーとは違ったタイプのおしゃべりだよなぁと思ったものだ.そうだね,アーチーは斜に構えている感じがする.ピーター卿は悪戯好きの妖精みたいな感じだ.いや,まあ,30代越えている男性に「妖精」という形容が合うとは思えないけど,うまい言葉が見つからないのだ.

1作1作狙いというか型が違っているので,いろいろ読んでみるといいだろう.よく「ハリエット・ヴェインとの恋愛を横糸に」と紹介されてるんだけど,そんなにそんなに恋愛がどうこうってわけじゃない.そもそも,ハリエットが出てくるのは『毒を食らわば』『死体をどうぞ』『学寮祭の夜』(とたぶん『忙しい蜜月旅行』)だけ,そのうち恋愛が「横糸」と呼べるほどの作品はハリエットのほうの目を通して事件が進む『学寮祭の夜』ぐらいなのだ.どう考えても紹介のしかたが間違ってると思うんだけどなぁ.

ピーター卿の周りの人も面白く,有能無比の従者マーヴィン・バンター(仕える者というより保護者みたいです,この人)や,石橋を叩いても渡らない慎重居士のチャールズ・パーカー(スコットランドヤードの主任警部にしてピーター卿の親友.この名前をみて密かに「チャーリー・パーカーだ!」と喜び,おもわず「オン・サヴォイ」をBGMにしてしまった),他のことはちっとも理解できないが金の動きだけはなぜか理解できているフレディ・アーバスノット,ピーターの上を行く母上,妹のメアリー(「人でなしのお兄様」って台詞が出てくるところが好きです)などなど.

ピーター卿物を読んでて強く思った事.デクスターは絶対セイヤーズ作品好きに違いない.うん.

《ピーター卿 シリーズ 作品リスト》

  1. 創元推理文庫『誰の死体?
    (原題 Whose Body?

    英国貴族への敬称について解説もいろいろ付いていたんだけど,さっぱり分からなかった(勉強の必要があるなぁ).バンター,パーカー,アーバスノットなど以降もちらちら出てくる人物が登場する.

  2. 創元推理文庫『雲なす証言
    (原題 Clouds of Witness

    よりによって第一容疑者がピーターの兄(現・公爵)なので,貴族を裁判にかける際の手続きも興味深い.

  3. 創元推理文庫『不自然な死
    (原題 Unnatural Death

    『不自然な死』は最初に心に残った作品である.被害者の老女が知性を持ったもっとしっかりした人で,やるべきことを奨められる通りにやっておきさえすれば殺されずに済んだ,という皮肉ゆえにだ.

  4. 創元推理文庫『ベローナ・クラブの不愉快な事件
    (原作 The Unpleasantness at the Bellona Club
  5. 創元推理文庫『毒を食らわば
    (原作 Strong Poison

    ハリエット・ヴェイン初登場.

  6. 創元推理文庫『五匹の赤い鰊
    (原作 The Five Red Herrings

    面白くなってきたのが『五匹の赤い鰊』.これはメモを取ったり行ったり来たりしながらじっくり読む人にお勧め.最後の,警察や検事たちと行った犯行の再現の場面が面白かった.

  7. 創元推理文庫『死体をどうぞ
    (原題 Have His Carcase

    ハリエット再登場.波打ち際を散歩していたハリエットが死体を発見.そりゃもう笑いながら読んだ.かなりユーモア利いている.夢見がちな被害者が大変可哀相.ピーターが即興リストを作るまで血のことが分からなかった.

  8. 創元推理文庫『殺人は広告する
    (原題 Murder Must Advertise

    作者は次作の『ナイン・テーラーズ』に気合を入れていて,こっちはそのつなぎであり,失敗作としているらしい.でも,冒険物として軽く読める.私は好きだ.

  9. 創元推理文庫『ナイン・テイラーズ
    (原作 The Nine Tailors

    トリックが有名なんだそうだが,私は知らなかったからどういうのだろうとどんどん読み進めていって最後には「こんな死に方はしたくない」と,想像過多にも耳や鼻から血を流して死んで行く自分を思い浮かべてしまい,空恐ろしくなった.

  10. 創元推理文庫『学寮祭の夜
    (原題 Gaudy Night

    犯行理由が空恐ろしい.でも,恐ろしいという感情よりも不愉快であり,怒りさえ覚えたのは,たぶん僕が「ノーベル賞もらえるなら悪魔に魂を売ってもいい」と言い放った友人に賛同したこともある人間だからだろう.

  11. HPB(413)『忙しい蜜月旅行
    (原題 Busman's Honeymoon
  12. 創元推理文庫『ピーター卿の事件溥―シャーロック・ホームズのライヴァルたち

    収録作品は「鏡の映像」「ピーター・ウィムジー卿の奇妙な失踪」「盗まれた胃袋」「完全アリバイ」「銅の指を持つ男の悲惨な話」「幽霊に憑かれた巡査」「不和の種,小さな村のメロドラマ」の7編.

  13. 創元推理文庫『顔のない男 ― ピーター卿の事件簿 2

    収録作品は,「顔のない男」「因業じじいの遺言」「ジョーカーの使い道」「趣味の問題」「白のクイーン」「証拠に歯向かって」「歩く塔」のピーター卿物7編+実際に起こった犯罪について考察した「ジュリア・ウォレス殺し」と評論「探偵小説論」.

日時: 2001年11月28日 | 感想 > 本 |

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