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フェルマーの最終定理ピュタゴラスに始まり,
ワイルズが証明するまで
フェルマーの最終定理のことを始めて知ったのは中学校のときで,兄が持っていた本からだった.その本は,数学の本でもなんでもなく雑学クイズのような文庫本だった.でも,なんだかとてつもないものらしいということは分かった.その後,この問題は「谷山=志村予想」を証明すれば証明したことになるということも聞き知った.
しかし,私が生きている間に誰かが解くとは思っていなかった.さほど重要な問題とは思えなかったので,それに時間を割く人間が居るとは思えなかったからだ.
だが,高校のとき,新聞に「証明された」という記事が載ったときは興奮した.しばらくして証明に欠陥が見つかったという記事が載って落胆したが,またしばらくして今度こそ完全に証明された,と知った.何百年もの間解かれなかった問題が解かれた時間に生きていることを不思議には思ったが,それ以上の興味は湧かなかった.
したがって,この本を読んだのは筆者の第2作『暗号解読』が面白かったから,というのが大きな理由である.
最初,数学者の厳密さは並外れたものであるということをさんざん強調してあって,少々むっとしたものだが,どうやらこれはゲーデルの出現への前ふりであったように思う.
そう,フェルマーの最終定理を扱ったものではあるが,この本は数学の歴史それ自体を書いたものだ.フェルマーの最終定理の証明法についてはそれほど書かれていない.したがって,この本を理解することは難しくはない.読者はおそらく,フェルマーの最終定理が証明されたことよりも「谷山=志村予想」が証明されたことのほうが重要な意味があると分かるだろう.
とはいえ,扱うのは数学の歴史である.数学に興味がある人にしか面白いものではない.(私自身について言えば,学生時代に敗れ去った想いが浮かんできて,ちょっと読み進むのが辛かった)だが,数学に興味があるのなら,お勧めといえる.