「良い日本語文章」に餓えていた頃,内田百閒の文章が良いと新聞の書評で読んだので,早速,図書館で借りてきた.
......B5版のごっつい全集を電車で立ち読みするのは大変だということが分かった......
もとい.
これ,短編集なのですね.短編も短編,3,4ページほどで終わってしまうものがほとんど.長編だと思っていたものだから,つながりに分からなくて混乱しました.
「文章が良い」とはとりたてて強く思ったわけではないのですが,醸し出す雰囲気がなんとも幻想的で,奇妙に高揚しました.
この作品はきっと,大正・昭和初期でなければ書けないのだけど,それにしては感覚が新しい.「怪談」というには端正すぎる.「幻想」というよりは「幻燈」のような気がします.
この仮名遣い,この漢字遣い,それが嬉しくて仕方がなかった私には,最近の文庫版が新仮名・新漢字だと聞いて,とてもじゃないが許せないと思いました.
でも,白状すると,読めなかった漢字もある.どうしても送り仮名と思い浮かべた読みが合わないのだ.
以前読んだ,埴谷雄高氏の『死霊』は曖昧な物を徹底的なまでに突き詰めて表現しようとしたものだという印象を受けたのに対して,百閒作品は曖昧な物を曖昧な物としてそのままありのままに置いている.百閒作品の真髄は「気配」なのだろうなと思う.
講談社『内田百閒全集』第一卷《冥途》収録作品
気に入ったものには★をつけています.
- 花火
- 山東京傳
- 盡頭子
- 烏
- 件(★)
不安な出だしに比べてとぼけたオチが良い. - 木靈
- 流木
- 蜥蜴
- 道連
- 柳藻
- 支那人
- 短夜
- 石疊
- 疱瘡神
- 白子
- 波止場
- 豹(★)
結局のところ,楽しい話ではなかろうか. - 冥途
講談社『内田百閒全集』第一卷《旅順入城式》収録作品
- 昇天
- 山高帽子(★)
全集本の後ろにあった解題の中の芥川龍之介の書簡を読むとよけいに空恐ろしくなる. - 遊就館
- 影
- 映像
- 猫
- 狹莚
- 旅順入場式
- 大宴會
- 大尉殺し
- 遣唐使(★)
猫の毛を吹き散らした樣な雨が,ふはりふはりと降って來た.
という一文に猛烈に感動した. - 菊
- 鯉
- 五位鷺
- 銀杏
- 女出入
- 矮人
- 流渦
- 坂
- 水鳥(★)
鳥好きなら読め!と思うが,彼の戯れていたのは本当に水鳥であろうか? - 雪
- 波頭
- 殘照
- 先行者
- 春心
- 秋陽炎
- 蘭陵王入陣曲
- 木蓮
- 藤の花