出張カバンは近々必要になるので,どうあっても入手せねばならん.
秋田は一泊だったので,通勤に使っている手提げに荷物を放り込んでいった(旅の荷物は少ない方だ).
が,今回は,連れもいるし,連泊になるし,書類の出し入れも多いし,ビジネスホテルでもなかった.荷物持ってうろうろしなければならないし,書類を出すときに着替えが顔をのぞかせ兼ねないのはさすがにちょっとまずいか,と観念したのである.
ちなみに,今までは,キャスター付きのカバンだったが,持ち歩くとなると,ちょっと仕事っぽくなくてやめた方がいいか,とも思ったのだった.
ほんとに,気心の知れない連れというのは気を遣って参る.
まあ,愚痴はともかくとしてだ.
Webでの情報収集の結果,「これが出張カバンとしてお薦め!」などと書いてあったのを鵜呑みにし(根が単純なので),表参道くんだりに出向く.
目的地が近くなってみて,地図を家に置いてきたことに気づいた.
ふぅむ.まあ,A1の出口から出て,なんとなくまっすぐ行って,なんとなく左に入ったところだったから,何とかなるだろ.
地下鉄の駅を出てみると――なんだ,ここは.ブランドの店ばっかだぞ?
気を取り直して,歩き出す.
途中,河合楽器店を見つけ,ふらりと入って,思わず,『展覧会の絵』の楽譜を買いそうになった.
いかん,いかん.今は家にピアノはないんだから.
誘惑を振り切って,また歩き出す.
曲がるところは――えーと,「東京なんとか」だったな.
歩いていくと,「東京なんとか教会」というのが角にあった.おお,これだったような気がする.
曲がってみると,住宅地にしか見えず,少々不安になるが,さほども行かないうちに,鞄屋を見つけた.奥まっていて,表通りからは死角になっていたのだ.
これだ,これだ,と入っていき,眺めていると,若いあんちゃんが「よろしければ,中の詰め物を取り出してご覧に入れますよ」と話しかけてくる.2回話しかけられたとき,面倒になって,出張カバンを探しているのだと告げたところ,さほど押しつけがましくもなく,いろいろと説明をしてくれ,いくつかカバンを並べてくれた.礼儀正しく,過不足ない.好感度,大だ.
すまん,あんちゃん,初め,避けてた.許せ.
とりあえず,一番気に入った物の型番を控えてもらった.
それから,テクテク渋谷のLOFTに行く.なぜって,そこでも扱っているというから.
が,一番欲しい型がない.型違いはあったんだが.もし,先に他のを見ていなかったら,買ったであろうというぐらいにはよい品だ.
ここで,ひどく思い悩む.
私は商品券を持っていたのだ.
LOFTで買えば,かなり安くあがる.が,一番欲しい物ではない.
表参道から渋谷まで歩いただけで,疲れてしまった私は,とりあえず,喫茶店に入って,大いに悩む.ちなみに,注文の品が目の前に並んだ頃には,眠くて参った.
時間をかけて,本を読みながら,紅茶を飲んで,立ち上がって決めた.
もどろ.
秋の夕日はとうに暮れ,暗くなってから再来した私を,さすがにあんちゃんは覚えていたらしく,いらっしゃいましたね,と言いたげに目配せするので,型番を書いた紙を見せ,これください,と呟いた.
EINS/アインス オーバーナイターM
吉田カバン