西郷札(松本清張)

清張さんの時代小説短編集.時代は江戸時代初期から明治時代にわたっている.

この本を読んで感心したことが2つ.

1つは,たとえ短編であっても,人の一生を書くことができると言うことと.無駄に文を費やすことばかりが「書く」と言うことではないのだ.主題を書くにあたっての「適切な分量」について考え込んでしまった.

2つ目は,歴史の狭間に「あったかもしれない物語」を想像し,創造する力量.この短編集を読んでから,新聞の小さな記事の裏にどんな人間模様があったのだろう,と思うようになった.

新潮文庫『西郷札』収録作品

西郷札
くるま宿
病気の娘のために働く車夫が実は……という物.彼はちゃんと時代の流れという物を見つめられた人なのだと思う.一角の人物なのだから,高官を望めばできたのかもしれない.まあ,関わるのが嫌だったのだとも思うが.
梟示抄
啾々吟
同じ日に生まれた,家柄の違う三人の男の三様の人生.でも,嘉門の末路は家柄よりも性格のせいなんじゃないかと思う.語り手たる慶一郎が私はもっとも好きだ.もし,嘉門を救うことができたら……と,思わずにいられない.
戦国権謀
権妻
酒井の刃傷
なんか,こういう人,ものすごく嫌い.侍の美学は好きなんだけど,押しつけるのはダメだ.そんなことを思うに,「選んでそう生きる」のではなく,「そう生きざるを得ない」「そう生きることが正しい」とされていた当時はやはり生きにくい時代だったのだろう.
二代の殉死
面貌
松平忠輝というと,『長七郎江戸日記』に飛んでしまうし,やはり「悲運の貴公子」というイメージがあるので,こういう話は意外だった.
恋情
噂始末
奥さん,可哀相.(いや,旦那も可哀相なんだが)
白梅の香
二転三転して,さらになんとなく,終わりの一文に可笑しさを感じるので,この話が一番好き.

2005/2 読書開始 - 読了

日時: 2005年4月17日 | 感想 > 本 |

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