そもそも,なんで夏目漱石を読みたくなったかというと,文鳥を飼いたくて飼いたくて仕方なくなったからである.そう,『文鳥』が読みたくなったのである.昔々に子供向けの活字のでかい本で読んだことがあるはずだと思いだし,なぜかうちに並んでいた漱石全集を引っ張り出した.
そもそも漱石が文鳥を飼ったのは,(鈴木)三重吉氏が勧めたからで,冒頭はずいぶんやる気がなさそうである.
しかしねえ,さすが文豪と呼ばれた男は違ったよ.よう見とるわ.
私は次の下りが一番好き.(全集は,全部カナが振ってあったが,HTMLだと煩わしいのでかなり割愛)
文鳥の眼は真黒である。瞼の周囲(まわり)に細い淡紅色(ときいろ)の絹糸を縫いつけたような筋が入っている。眼をぱちつかせるたびに絹糸が急に寄って一本になる。と思うとまた丸くなる。籠を箱から出すや否や、文鳥は白い首をちょっと傾(かたぶ)けながらこの黒い眼を移して始めて自分の顔を見た。そうしてちちと鳴いた。
くぅ~.吹くべや~,なまら鼻血吹くべや~!!
他にも,遠くから自分の顔を覗(のぞ)き込んだ
とか,嘴の色を見ると紫を薄く混ぜた紅(べに)のようである。その紅がしだいに流れて、粟(あわ)をつつく口尖(くちさき)の辺(あたり)は白い
とか,もうたまんない.
それで,最後まで読んでいきますと――漱石,絞め殺したくなります.ほんとに.
ということを,勤務先で切々と語り,同意を求めようと思って「漱石に殺意を抱きました」と訴えたところ,何故か吹き出されました.