カフカは『変身』しか読んだことがなくて,『変身』にはずいぶん空恐ろしい気分にさせられた(あれの空恐ろしさというか悲しさというのは,グレゴールの家族が結局のところ不幸ではなかったことではなかろうか).だので,カフカは「物寂しい灰色の混じった青」というイメージがあった.
ところが,この『カフカ寓話集』を読んで,「この人,実は面白い人だったんじゃねえか?」と思い直したのである.そうだなあ,ユーモアたっぷりで面白可笑しいってんじゃないんだけど,大真面目に変なこと考えてそうなんだよなあ.「こういう状況とこういう人物を配したら,物語はどこに向かうんだろう」という実験を繰り返していたんじゃないだろうか.案外,書いてみて,「ああ,こうなったか」と思ってたかもしれない.
『カフカ寓話集』とはあるんだけど,これは勝手に訳者が付けただけで,特に「寓話」というわけではない.物語の断片が多く,草稿や覚書の類が多い.それだけに,わずか数ページや1ページ足らずのものもあって,すんなり読める.
収録作品
気に入ったものには★をつけています.
- 皇帝の使者(★)
不思議な話だ,本当に.使者はいつか到来するのだろうか. - ジャッカルとアラビア人
- ある学会報告
- ロビンソン・クルーソー
- サンチョ・パンサをめぐる真実
- アレクサンドロス大王
- 新しい弁護士
なんだって,軍馬が弁護士なんだ. - ポセイドン(★)
読み出した途端,吹き出した. - アブラハム
- メシアの到来(★)
案外,皮肉屋だったのかもなあ. - こうのとり(★)
いやいや,普通,そんなふうに誓約書書かせないよ!書かせても意味ないよ!でも,あくまで大人しいヒナが好き. - 貂
- 使者
意味のないことを叫ぶ者だけの世界ってどんなだろう.なんとなく,ニーチェを思い出した.なんというか,「ほとんどの人は意味をもつことを言わない」という見方をしてそうなんで,ニーチェ. - 小さな寓話
- 獣(★)
カフカ,猫好きだったんじゃないかなあ.この尻尾の動きは猫だよなあ. - だだっ子
- 柩
この後,どうなるんだよ!! - 掟の問題
- 一枚の古文書
- 走り過ぎる者たち
可能性はいろいろ考えられる. - よくある事故
- 十一人の息子
人物創造に勤しんでみました,と言わんばかりの作品だな. - 兄弟殺し
物語の構想だったんじゃないだろうか.肉付けしたら面白そう. - 中庭の門
不条理だ. - 隣人
いろいろ考えすぎ. - 巣穴
「地中に巣穴を作る小動物の気分になってみました」って感じの話だよなあ.これこそ,想像実験しているような気がする. - 最初の悩み
悩みは増大する,それは真実だと思う. - ちいさな女
「私」の視点で見ているからだろうけど,女が嫌で嫌で仕方が無くなった.といっても,女はそんなに非難されるような真似もしてはいないんだろう.誇り故に. - 断食芸人
結局,断食芸人の言うことなんて,誰も注意を払っちゃくれなかったんだ. - 歌姫ヨゼフォーネ、あるいは二十日鼠族(★)
この語り手,すんごく,冷静だ.「当人は選ばれた者のつもりであったにせよ」というところには,ある種,真実がないか?
Tweet 日時: 2008年9月23日 | 感想 > 本 |
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