夏への扉(ロバート・A・ハインライン)

ロバート・A・ハインラインの名作にして偉大なる猫小説の呼び声高いこのSFは,いつかは読もうと思い続けていた小説である.しかし,そういう小説はえてして「いつかはいつかは」と先延ばしになるもので,結局,私も思ってから20年ばかり経ってしまった.

きっかけは,『クオ・ワディス』だったのだ.あれで審判者(アルビテル)ペトロニウスが気に入って,『夏への扉』に出てくる猫の名前の元ネタと知り,それで,再び廊下前読書開始.

ああ,こんなに楽観的で希望に満ちた小説なら,早く読めばよかったなあ.もちろんだとも,リッキイ.それこそ,ぼくの望みなんだで笑っちゃったけど.あんた今いくつだと思わず突っ込んだ.

コールドスリープと保険会社というのが面白い.確かに実用化するとそういう制度がいるだろうなあ.無一文になりたくて入る人はいないだろうから.コールドスリープってのは,技術的な意味ばかりでなくて,経済的・社会的にもリスキーな代物だなあ.

あと,特許制度がちょっぴり分かっているといいかもしれない.(書かれた時はまだ期間が17年だったみたい)

いやな奴も出てくるけど,いい人もたくさん出てくる.その最たる人がサットンさんだな.普通さ,信じないよ.でも,いろいろと骨を折ってくれたし,お金も貸してくれるんだから.この人が偉いなと思うのは「人が良い」「なんでも信じる」という性格であるというのではなく,冷静に理知的に,半信半疑だけどもそれでも主人公の人柄が好きだからという理由で力を貸してくれるところ.もし言われたとおりにならなかったとしても,自分の選択に恨み事は言わなかったと思う.

マイルズも,結局のところはいい人だったんじゃないかな.もちろん,ベスのせいもあっただろうけど,もっと話を良くしていたらこんな仕打ちはしなかったんじゃないかと思われてならない.その点では,主人公側にも「分かってくれるだろう」で済ませてきた甘えはあったんじゃないだろうか.

この話の中に,なんどひとに騙されようとも,なんど痛い目をみようとも,結局は人間を信用しなければなにもできないではないか.という件があって,本当にそのとおりだよなあとしみじみと思った.大きなことになればなるほど,人を信じないと何もできない.自己の権利を絶対に他人に渡したくないばっかりに,他人とトラブルばかり起こして何もできない人ってのを時々見かけるんだけど,そうなってしまったら,それは本当には「権利」としての価値が無いのだろうなあ.

読書開始 2009.2.25 - 終了 3.4

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

日時: 2009年3月 4日 | 感想 > 本 |

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