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......三船敏郎って二枚目だったんだ......
この映画は観る気なかったんです.
黒澤映画はむつかしそうというイメージがあったので,今回の黒澤映画特集も時代劇なら耐えられるかなと思って,時代劇だけ拾うつもりだったんです.
で,『羅生門』観たんですが,その後,席を立つ人がいない.時刻確かめたらすぐに次の『醜聞』が始まる.あ,だったら観ようかなー.
で,冒頭の言になるわけなんですが.
いや,びっくりした.石原裕次郎については若い頃を観ても私はどうもピンとこなくて,なんで国民的スターだったのかよく分からないんですが,三船敏郎は間違いなく二枚目だわ.
なんで今まで気づかなかったかって,だって,三船敏郎の名前知ったの,Wizardryだったもん(ここからして間違ってる).最上級クラスのモンスター(つってもSamuraiだが)にMifuneと出てくるんで,友人に「なんでMifuneなの?」と訊いたのが中学生の頃だ.
「知らない?三船敏郎.俳優の」「いや」「えー?!知らないの?!」「知らないよ.で,なんで一俳優がモンスターなんだ!」
メリケン人の考えることはよく分からない.(Wizは米国製)
その後,初めて三船敏郎を観たのは,よりによって『レッド・サン』だった.まさによりによって!侍が出てくる西部劇だったよ.チャールズ・ブロンソン,アラン・ドロン,三船敏郎ってメンツだったよ.なんてこったい!
で,次がこないだ観た『七人の侍』と『羅生門』とくらあ.ひげ面半裸.分かるか,二枚目だなんて!後で気づいたけど,『醜聞』と『羅生門』って同じ頃に撮ってるんだね.ひゃー,ほんと分からんわ.
でもね,観てて思ったんだけど,三船さんって三船さんにしかなれないんだなあ.志村さんは誰にでもなれるけど.あ,別にけなしてるわけじゃないんだよ.タイプの違いだと思う.三船さんみたい人がいないと華がないし,志村さんみたい人もいないと芝居を成り立たせるのが困難だ.
それで,この『醜聞』なんですがね,世界的声楽家と新進気鋭の画家がでっちあげの恋愛記事を書かれて訴訟を起こす話,と言うと小難しそうなんですが,そんなことない,そんなことない.人情もあれば笑いがあちこちにあって展開もさくさく行くし面白い.
画家の青江とカストリ雑誌社長の堀の言い分をマスコミがインタビューしているところなんかも,青江が動くたびに記者もカメラも動くのとか,マイクの集音部に手を置いた青江の手を誰かが動かしてるのとか.
あるいは西條も原告に名を連ねると訊いたとたん,蛭田がバイクのクラクション鳴らして自分で分かんないとことか.
モデルと青江が喫茶店にいる場面とか.
もうね,面白いんだ.
モデルさん好きだなあ.モデルしてる場面で裸体書かない青江の理屈をさらっと見抜いちゃってるとこ(この時の青江の仕草がまたいい),前日の喫茶店の場面で青江からケーキ守ってるとことか,「もうからかわないから」とか(こんときの青江のケーキヤケ食いっぷりもいい),蛭田のマネとかさ.
西條美也子役は山口淑子です.李香蘭!声楽家の役ですんで歌も歌ってますけー,へえ.
青江は反骨精神旺盛な好青年という感じなんだけれど,蛭田の娘を観て速攻気に入りましたーって感じなところが笑った.そのまま頻繁に出入りするようになってね.山で絵を描いていたとき後ろから見ていた三人にはぶっきらぼうだったのに,子供とか弱い者にはすんなり優しい笑顔を見せるんですわな.
そうだ,青江は器用すぎます.バイク乗りなんだけど,エプロン付けて料理もすればクリスマスの時に足踏みオルガン弾いたりもする.モデルさんには「スキャンダルの素質がないもの」と言われてるけど,ごく自然に女性の隣に座ったり,蛭田の娘が珍しく泣いてもう来ないでと言ったときの「ごめんよ」というあの辺りとか,天然たらしな気がちょっとする(笑).青江氏って金に困っている様子がない......どころか中の上ぐらいに見えるんだけど,収入はどうしてるんだ?
アメリカで観てて,ちょっぴりハラハラ(?)したのが,この話,占領下だって分かってんのかしらん,ってことだった.道路標識に英語書いてあることに疑問を抱かないのか,とか,その道路標識が付いている棒に「米軍憲兵司令部」って書いてあるのが分かってんのか,とか.わっかんねえだろうなあ.
青江がバイクにクリスマスツリー乗せて走ってくるとこがウケてた.クリスマスパーティもおもしろがってた.まあ,これは日本人としてみても面白いとこだ.それでもってね,蛭田がこの明るいパーティーの部屋に入っていけない,っていうとこね,あれはすごく分かりやすかっただろうな,と思う.泣くべ.いっしょに泣くべ.次の蛍の光を歌っている場面はアメリカ人には分かりにくかったかもしれないが.
この話の一番好きな台詞はですね,青江の「おやじィ,人生は涙ぐましいなあ!」ってところだ.この青江・蛭田の酔っぱらい二人組の場面,好きだなあ.「神様は太っ腹だなあ(ひょろろろろーひょろろろろー)」「メリークリスマス,エブリバディ!」この酔っぱらいめ!
それでも,蛭田は抜けられない.正義の善人になれない.結局,蛭田が勇気を出せたのは本当に土壇場になったときだったんだけど,それはもう大事な物がいなくなってしまったからだったのかもなあ.小切手もいらなくなってしまったのかなあ,と思った.もちろん,競輪・酒と小金があると自分のために使ってしまう人だったけど,小切手はさ,使わずに持ってたんだもん.
最後の「星が生まれるところを見た」はちょっとわざとらしい台詞だったかなあ.いや,他のシチュエーションだったら納得できたと思う.静かなところで意味が分かる人の中でだけでしみじみと出た台詞ならすんなり入ったんだけど,インタビューの場面では.
でも,観て良かったよ,ほんとに.
昔,母が「俳優さんっていいねぇ.若い頃の姿も残って」としみじみと言ったことがあるけれど,この映画を観て三船さんを視て本当にそう思った.