七人の侍

あい,黒澤映画特集 in Stanford Theatre, Palo Alto, California, USAです.

そもそもですね,黒澤映画はあんまり見たことが無くて,最初にちゃんと最初から最後まで見たのが『乱』,それから『羅生門』は見たんだったか見なかったんだったかで,なんか取っつき悪くて難しい映画撮る人だなーと思っていた.『椿三十郎』がTVで入ったときに友人宅で見ようとした覚えがあるものの,別のことをしているうちにいつの間にか椿が流れてきていて,その後に目を離していたら最後の「抜け!(ズバーッ)」という状態だったので,まともに見てなかったんですよ.

ただ,後で名高い『七人の侍』は娯楽映画だと聞いたので,そんならちょっくら見てみてもいいかな,と.もし,『七人の侍』見て肌に合わなかったら,せっかくの黒澤特集だけど止めよう,と.さらに重要だったのは英語吹き替えかどうか.すまねえ,字幕じゃないと分からねぇ.

始まりまして,映画は字幕だったのでほっとしたのは良かったんですが,見た人分かるんですけど,最初が文字の大写しなので字が重なって日本語読んでる私は読めない.字幕邪魔.

ようやく人が出てきてしゃべりだしたら――

日本語分かんねえ!

焦って必死になって英語字幕読んでました.忘れてたよ,あの頃の映画って妙に早口で独特の発声なんだよね.おまけに,この映画の場合最初がお百姓さんの場面な物だから,訛りもあって余計に何言ってるか分からない.町の場面になって,やっと言葉が分かるようになってほっとした.

それで,ぜーんぜん知らないで見ていたんですが,やっと見つかった一人目,これがリーダーになる人らしいんですけど,この人は――三船さんじゃないね.えーと志村さんだよね.そう,私は三船敏郎がどういう顔だったかもあんまり記憶が定かでなかったんですわ.ですんで,ずいぶん見続けてからやっとどの人か分かった.えー?!そののっけからウロウロしてた挙動不審人物?!ってか侍というより侍もどき?

リーダーになる勘兵衛さんはほんとについて行きたくなるような感じの人ですが,二人目の丸々とした穏やかな人(五郎兵衛)も私は好きで,家に入ろうとして「ご冗談を」って止まるところがとてもいい.

勘兵衛さんは何度も合戦に出た経験のある穏やかな御仁で提案されたり質問されたりすると,「うん?うーん......そうさな」と考え考え答えていて,この人について行けば大丈夫だ,と思える人.でも,ここぞというときには刀を抜いて威嚇してぴしゃりと百姓を抑える厳しい面を見せてくれる.

この映画見て「これぞ侍!」と思うのは久蔵さんだ.小柄だけど最強.彼については勘兵衛さんが「己をたたき上げる,ただそれだけに凝り固まった男」って言うけど,村での様子を見てると全然そんなこと無いと思う.けっこう気を配った発言もしてるし,案外笑ってる.だいたい,村に来る前に菊千代の刀取って追いかけっこさせるきっかけ作ったのって久蔵さんだよね.それでいてもちろん剣豪らしい.練兵の場面で,槍で思いっきり胸を突かせようとするところとか,一人で敵の砦に行って種子島取ってくるとことか,矢を避けるとこなんかは思いっきり剣豪らしいんだけどね.そりゃあもうかっこいい.

考えてみると,この久蔵さんが後の『荒野の七人』におけるジェームズ・コバーン氏が演じるナイフ投げの名手の元で,このジェームズ・コバーン氏が『ルパン三世』の次元大介のモデルである,ということを考えると,何がどんな風に影響する物か分からんもんだなあと思う.

「苦しいときに助けになる」って連れてこられた人よりも,菊千代が全てをかっさらってませんか.菊千代はですね,笑えるけれど,一番感情を引きずり回してくれる人でもある.持ち場離れたせいで犠牲が出てごっつり落ち込んでるところなんかは一緒に泣きそうだった.

2010/04/17追記:菊千代という役は最初無くて,三船さんが久蔵を演じる予定だったそうだ.でも,三船さん菊千代で良かったと思う.そりゃ三船さんが久蔵やっても格好良かったと思うけど,宮口さんの久蔵は「優れた体躯の剣豪」とは違っていて,求道者だけどちょっとしたところが優しいし,堅いんだけど格好いい.そして何より,菊千代は三船さんじゃないとできないと思う.

百姓の側では与平が一番好きだなあ.何をやってもうまくできないんだけど,どうにも憎めない.

ただ,守ろうとしてんのに何かと反するようなことする人が出るのには苛々したっけ.だから,菊千代が半鐘鳴らして百姓相手に一席ぶつのは拍手喝采だった.「おさむらいさま~おさむらいさま~」のとこなんか最高.

演技としてすごいなあと思ったのは実はメインの人々じゃなくて,野武士の砦にいる女性でした.悲嘆すら忘れ去ってしまったような緩慢な動きで身を起こして,火が起きているのを見つけ,しかし,騒がずに憤りもせずにいる,というこの一連の場面はとても言葉で説明できない.

野武せりは「bandit」でした.うーん.バンデット.そりゃたしかにやってることバンデットだけんどもよぅ.野武士とか落武者が分からないと途中なんで百姓と侍たちが剣呑になるかよく分からないと思う.

準備万端整えて決戦になるんですが,もう見ててね,生存闘争なんだと思った.どっちがいいか悪いかなんて関係なくて,1騎ずつ誘き出されて村中総出の槍を受ける野武士見てて,可哀想になっちゃったんだ.食糧が尽きるから向こうも必死だという勘兵衛さんの言葉を見て,やっぱり可哀想に思ってしまったんだ.野武せりの方の生活なんて全然出てこないにもかかわらず.最初に非道をしたのは野武士にもかかわらず.

あと何人って×付けていくのが長くて怖くてまだ終わらないのかと気をもんでしかたがなかった.

けっこう長い戦いで,途中,夜に休息取る場面がある.この時に百姓が侍たちに酒を持ってきたとき,本当に仲間になったんだなあと思った.

もう最後は土砂降りの中の総力戦で,種子島ってこんな土砂降りでも使えるのかなあと思ったけど,それは横に置いといてすごかった.

百姓の娘と若侍というカップルがあるんですが,始終娘の方が引っ張ってて,その挙げ句,事件が終わったらあっさり何にもなかったように振る舞っているのがなんとも言えなかった.非常時の恋で,それが終われば否応なしに日常だけが残るんだなあ,と.

この若侍を演じている木村功氏は当時30ぐらいだったそうだ.......詐欺だ!

このね,最後の場面見て,何て言うか日本の縮図というか.いやね,災難が起きる→嘆き悲しむ→それ終わったら復興だろが,という風に見えてね.ちょっと苦笑した.だから感慨深げな,いや,単に漏れ出でた思考だったのだろうが,「勝ったのは村人だ」という言葉が然り,然り,と腑に落ちる.

ところで,この場面で村人は田植えをしている.刈り入れしてすぐに襲撃があったはずなんだけど,3人は結構長い間ここにいたということか?

帰ってきたけど,興奮して眠れない.どうしてくれる.

そもそも映画終わって帰ってくる途中,横道から竹槍持った人が出てくるんじゃないかという妙な感覚に襲われてた.(おちつけ,ここはアメリカだ)

七人の侍 [DVD]

日時: 2010年2月23日 | 感想 > TV/映画 |

コメント (2)

志村喬っていい役者さんですよね。黒澤は晩年、あれほど使っていた志村と三船をあまり使いませんよね。なんでだろう?
最後の土砂降りのシーンは真冬に撮影したそうです。雪を溶かして。
みな若かったんですね。

志村さんについては『影武者』にも一応出ているので最晩年に至るまで使ってますよね.

三船さんは単に撮る映画のイメージと合わなかっただけで,ストーリーによっては使ってみたかったんじゃないかなと個人的には思っています.三船さんが三船プロの運営で忙しくなったからというのもあるとは思いますが.

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