醉いどれ天使

泣け!もう泣け!

最後の方で女の人が「あんまりかわいそうで」って言ってるんだけど,いっしょに泣いたよ!

黒澤映画特集 in Stanford Theatre, Palo Alto, California, USA第4作目は『醉いどれ天使』です.前に見た『醜聞スキャンダル』の後に『生きる』『素晴らしき日曜日』があったのですが,あまり食指が向かなくて避けました.

同時上映は『野良犬』です.Toshiro MifuneとTakashi Shimuraが上下で入れ替わっているだけってのが笑える.黒澤-三船って文脈で語られることが多いですが,志村さんも欠かせないよね.

それで,ですね,『醉いどれ天使』のことなんですがね.

最初の出演者のところで「ブギを歌う女:笠置シヅ子」に吹き出してしまった.まんまや!アメリカ人的に彼女のジャングル・ブギはどう映ったかは定かではない.

で.

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......

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三船さん鬼かっこいい.三船さん演じるのは松永っていう街の顔役ヤクザなわけですがね,これが鬼のようにかっこいい.

......いや,かっこわるいよ,かっこ悪い.

ガタガタいちいち殴りかかってないでとっとと医者行け!とか,兄貴分へのペコペコっぷりとか,酒飲むとどうしようもない体たらくとかね,かっこ悪いよ.

でもね,なんかどうしようもなくかっこいいんだ.白スーツで闊歩してる姿とかさ,吹き出すようにかっこいいんだ.いちいち花屋でバラくすねて胸に挿してて,どんな気障やと思うんだけど,様になっているのが恐ろしい.松永って肩で風切って歩いてる頃からちょっぴり変わってるよなあと思う.普通,花なんて持ってかねえべや.

真田医師は,怒鳴りまくりで亭主関白(のつもり.ばーさんも言い返す,言い返す)なんだけど,切れば血が出るヒューマニスト.松永がいったん診療所来たんだけど用が分からないうちに喧嘩になって雨の中出て行くシーンで,「熱もあるだろうに傘も差さずに」と言ってるところなんか,怒鳴りあってたのにしみじみとして言うんですね.

で,医療用アルコール飲んじまうDrunken Angel.あと,よく物を投げる.ただしアルコールは投げない.(笑)

大病院の院長さんとは仲悪いのかなと思ったら,けっこういい友達っぽい.高浜院長は1シーンしか出てこないけど,こいつももうちょっとうまく世間を渡っていけばいいのに,と思っていそう.

思うに,松永と真田医師って似てるんだと思う.あ,どっちも拗ねてる(?)様を見せているところが好きです.松永なら柱によかかって斜めになっている後ろ姿,真田医師はアイスキャンディなめてるところ.ただ,松永にとって最良の医者ではなかったような気もする.無駄に反発起こして診てもらうまでが長くなってしまったから.まあ,あんな性格だからどんな医者でもいっしょだったかな.

奈々江はあっけらかんと自分に利になる男を選んでいて悪女と言えば悪女なんだろうけど,そんなもんなんだろうなあと思った.好きな台詞は「いらっしゃい,お仕置きしてあげる」ってところ.この時,ひょいっとスリッパ(だっけ?)をしきりの先にひっかけて出て行く松永の表情も気に入っている.

美代さんはちと苛ついた.あんまり馬鹿なこと言うんじゃない,と思った.

小料理屋のぎんさんは自分では「そんなんじゃないわ」と言っていたけど,やっぱり松永のことが好きなんだろうなあ.一緒に田舎に行こうとかき口説いているとこなんか見るとね.それが一番良かったかもしれないと思うんだけど,そういう松永はどうも思い描けない.

岡田と松永の喧嘩は,全然格好良くないんだ.顔役VS元顔役なのに,腰が引けててもみ合ってるだけなんだよね.ペンキまみれになって.それで,ああ,どう転ぶんだろう,どう転ぶんだろうと思っていて,どうにかならないかどうにかならないかと思ってたときに,とうとう腹にナイフが刺さる.私の斜め後ろの席の人が小さくため息を漏らしていた.私も同じ気分だった.

ああ,そういえば.岡田との対決の後,ベランダに仰向けになった松永が一番柔らかい表情していたかもしれないな.画面は白くて.天気は晴れていて.静謐.

真田さん卵買うじゃない,病人がいるからって.卵18円って書いてある.すげえな,おい.葬式5000円だか6000円で出せる時代に18円.物価がべらぼうに高くなっている今でもそんな値段.さすが物価の優等生.あ,いや,卵の値段の話に流れてるけど,そういうことが言いたかったんじゃないんだ.真田さんが帰ってからきっと怒鳴って怒り散らして心配してもしかしたら泣いたんじゃないか(いや,怒鳴ったのかな)ということを想像して悲しくて仕方が無くなったんだ.

終わりの方,真田さん,ぎんが持っていた箱に触ろうとするじゃない.もし触っていたら,泣いてたんじゃないかと思う.もう胸の内の物が吹き出してしまって涙を流していたと思う.だから,はっと気づいて止めたんだと思うんだよ.

それで,女学生に声かけられて助かったと思ったんじゃないかと思う.吹き出すはずの涙をごまかせて助かったんじゃないかと思う.こういう人たちはどうしたって胸の内を外に出すのを嫌う物だから.この場面ね,銀さんがついて行かないじゃない.あそこでね,ああ,真田さんと女学生に対して線を引いたんだなあって思う.

ああ,しばらく胸に残って離れなさそうだな.

私はこの映画を,もうこんな風景が残っていない今日こんにち観てそれでも打ち震えたわけだけれど,公開時の60年前,戦後まもなくの60年前,1948年という闇市も猥雑さも残っている日本においてこれを観た人の感じる物はいかばかりであったのか,とそんなことを思わずにいられない.(そして,戦中戦後でも映画は作られ作りたい人がいて観たい人がいたんだなということも)

昭和20年代なものだから,夜になって家に引っ込むと日本人は和装である.白スーツやくざも鞄持って洋装だった医者も寝巻になる.......日本人,家帰ったら和服だ,ヒャッホー!とアメリカ人に誤解されてたらどうしようとチト思った.

酔いどれ天使<普及版> [DVD]

日時: 2010年3月 6日 | 感想 > TV/映画 |

コメント (4)

誤解されてんでしょうね…

私がアメリカ人は湯上りにバスローブ着てると信じてるのと同様に。

おまけに,同時上映の『野良犬』でこれまたラインダンス踊ってたダンサーが家帰ったらやっぱり着物なもんだから!

これ三船のデビュー作でしたっけ? 少なくても黒澤映画は、始めての作品だったような。
志村と三船のコンビはいいですね。この二人が出てれば、何だって面白く感じてしまいます。

三船さんのデビュー作は『銀嶺の果て』です.そっちも観ましたよ.
../../2010/03/snowtrail.html
『銀嶺の果て』で編集に加わっていた黒澤さんが惚れ込んで貸し出し要求した1作目が『醉いどれ天使』だったそうな.

志村さんと三船さんがコンビという感じで出ているのは『七人の侍』までですかね.私も好きです.若い三船さんの躍動感と,対照的な志村さんの演技が.特に志村さんは話によって変幻自在だなあと思います.案外小悪党演じるの好きだったんじゃないかな.

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