素浪人罷り通る

黒澤映画と右門のせいで20年ぶりに時代劇フィーバー状態になっている.

日本に帰るなり「なんか三船さんの出演作か時代劇観たい」と思ったのだが,ちょうど帰国した日に三船さん主演作のテレビシリーズが時代劇専門チャンネルで最終回だった.そのことに次の日に気づいて,悔しくなって,そうなるといてもたってもいられずTSUTAYAに突撃.

『用心棒』『椿三十郎』を観たとき,「うおー,三十郎もっと観たいー」と思ったものだけど,そう思うのは私だけではないようでして,浪人物のTVシリーズがあった.だよねー.観たいよねー.

何本かあったんだけど,新しい物から遡ることにした(あくまで店頭にあったもののなかでだが).どうしたって,殺陣なんかは若い方がキレがいいだろうし,やっぱり『椿三十郎』が一つの頂点だと思ったから,新しい物から遡った方がガッカリ感から抜け出せるかなと思って.(ガッカリ前提か)

で,まず見たのが『素浪人罷り通る』.テレビスペシャルとして6本作られている.テレビスペシャルだから,一作一作別物としてみることができる.

見たとたん,同田貫ー!同田貫ー!と大興奮.そうだよね!きっと三十郎の刀も同田貫だったんだよね!(お前は同田貫好き過ぎだ)

それから,三十郎の時と紋が違っていて,丸に木瓜.うちも家紋は丸はないけど木瓜なので親近感を抱く(もっとも,木瓜紋はかなり多い家紋なので喜ぶ意味があまりない).しかし,着物の紋のかすれ具合が尋常じゃない.紋の掠れっぷりがすごい.

後で,丸に木瓜が三船家の紋だと知った.じゃあ,三十郎の丸に剣片喰は誰の紋なんだ.

このシリーズも偽名を名乗っているんだけど,それがまた,「春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)」なんて無理のあり過ぎる偽名なんだ.さすがに無理があり過ぎると思ったのか,この名前を名乗るのは3作目までで,残りはそれぞれ違う名前を名乗っていた.

第1作で本名と浪人になる経緯が語られるし,性格はこっちのほうがだいぶ堅くて哀愁漂っているので,なりは似てても三十郎とぜんぜん違う.

女性を抱えたり負ぶったりという場面がそこそこあるんだが,微動だにしていないことに驚嘆した.

素浪人罷り通る

第一作.立石藩というところの御家騒動に巻き込まれる話.若い家老の結城小十郎役が西郷輝彦さん,藩主の弟の別所主馬役が鈴木瑞穂さん.どちらも好きな役者さんである.私は鈴木瑞穂さんをペリー・メイスンの吹き替えで知った人間なので,俳優として出演されるたびに不思議な感じがする.

たぶん,この作品はシリーズ化の意図がなかったのだろう,本作で春夏秋冬の本名も脱藩理由も明らかにされている.「春夏秋冬」という偽名が(一応)シナリオに生かされているのはこの作品だけだ.

余韻の残るしっとりとした哀しい話だったなあ.春夏秋冬が一言も発さず茶を飲み,それに対して「触れていいか」と訊いてそうっと触れて確かめる,という場面が一番しっとりと哀しかった.分かっているなら,残ってもよかっただろうにとも思うけれど,斬ってしまったからには残れなかったのだろうな,とも思う.主馬に対する義理みたいなものかもしれない.きっと主馬のことを憎んでもいなかったのだろう.

全然違う話なのに藤沢周平の『蝉しぐれ』を思い出した.

素浪人罷り通る 暁の死闘

シリーズ第二弾.もうね,これは多助(泉谷しげる)とたね(千石規子)に尽きると思う.

たねさんは登場時からして大好き.よく分からないうちに使われちゃっている春夏の旦那が楽しい.

あと,菊千代(『七人の侍』の菊千代様ではない)が素直でいい子で,多助にものすごく懐いていて好感.

物語は刑場の場面,ここに極まる.誰もかもを欺こうとする多助と実は分かっているたねと.この後,夜になって客もいなくなってから「泣け」という春夏秋冬が厳しくも優しい.

たねさん千石さん演ってたって気づいてなかった.黒澤映画での千石さんもすごく好きなので,こうやって年取ってからも共演しているのが嬉しい.(話自体は悲しいんだが)

素浪人罷り通る 血煙りの宿

シリーズ第三弾.真崎の旦那(高橋長英)がすごくいい人で一番好きだ.何がいいって,自然と屋根直したりという手伝いしてるし,いざ盗賊が来たら,剣の腕自慢ってわけではないのは自分で分かっているけれども,どうにか役目を全うしようと頑張っているところだ.

半兵衛(荒井注)の扱いは酷いだろうと思う.気に入っていたのに!この人との二人道中も面白かったろうな,と残念でならない.

弥九郎(中尾彬)の気持ちって愛憎半ば,いや,本当は愛なんて感じなくてもおかしくないと思う.町の人々のひどいこと.ブラブラとゆれる親の体をどんな気持ちで見ていただろうと思わずにいられない.この町に帰ってこなければ.対峙しようなどと思わなければ.彼は生きていたかもしれない,と少し思う.

そういえば春夏の旦那は子供好きだね.ちょっと乱暴気味に顔をなでている様子がごくごく自然でほほえましい.

素浪人罷り通る 去るも地獄残るも地獄

シリーズ第四弾.今回名乗る偽名は――「六文銭」は答える気さらさら無かったみたいだからともかくとして,「赤猫鯉衛門」ってのもちょっと.......そうか!この人,ネーミングセンス無いんだ!

ちなみに,「流派は?」と訊かれて「春夏秋冬流」と言ってるのがいままでの名残か.

三太はいちいちこまっしゃくれてるんだけど,ゆき(かとうかずこ)と作造(江藤潤)の話をこっそり聞いているところは笑った.

名主さん演じているの小池朝雄さんなもんだから声だけ聞くとコロンボ思い出して違和感が(苦笑).名主と代官がもちろんはっきりとした悪役なんだけど,私が一番むかついたのは和尚だ.

ちょっぴりだけど『用心棒』(どっちに付くか思案しているところ,身動き取れなくなって逃げ出すところ)『七人の侍』(寺の和尚)『椿三十郎』(最後の対峙)を引いてるんじゃないかなと思う.

最後の対峙で,刀を返すのが私は好きだ.もしかしたらだけど,ゆきと三太が小銭を投げてなかったら,返さなかったんじゃないかな.たぶん,あの間で殺伐とした精神状態から我に返ったんじゃないかなあ.

考えてみると,沖雅也さんはこの番組の放送後数ヶ月で飛び降りたんだよなあ.そのニュースは覚えているだけに感慨深い.

素浪人罷り通る 涙に消えた三日極楽

シリーズ第五弾.今回の偽名は「落葉十郎(おち・はじゅうろう)」.字は適当に付けたが,名乗ったときの仕草を見るにまあ,これが妥当なところだろう.

おふく(杉田かおる)は初っぱなから挙動が妙で生意気なんだけど,ものすごく複雑な背景が複雑な言動として発露している.家族が欲しくてしょうがなかったのであって,擬似父娘生活がすごく幸福そうでなあ.

身をひいた二人,口を割らなかったおらく(宮下順子)に縋って三之助(下條アトム)が「俺ぁ言っちまった」と泣き叫ぶところが一番切なかった.

唐津屋(田口計)が気にしていた書き付けなんかおふくは全然注意も払っていなかったのに.唐津屋と板倉(石橋蓮司)との関係も単純でなくて,唐津屋が平身低頭で怯えきっているのが目を惹く.

もし書き付けがあったらもうちょっと何とかできたのかもしれないなあ.盗み出した金で幸せになれない,悪銭身につかず,で切り捨ててしまうにはかわいそすぎるだろう.

素浪人罷り通る 矢立峠に裏切りを見た

シリーズ第六弾.「○○に○○を見た」ってフレーズはいったい誰が考え出した物なんだろうか.

「檜三十郎」を名乗るのはファンサービスですね,そうですね.これが最後だったからこそこの名乗りだったのだろう.

考えてみると,この藩同士の争いなんて端から見ているとどうでもいいことなんだよなあ.いや,もちろん,山取られたら権益まで関わってくるからよく分かる話だけど,そもそものところとか意地の通し方とかさ.

山岡さん(若林豪)はできた人柄らしくよく考えている.あの浪人して江戸へ向かった策がなかなか面白いと思う.実際にこんなことで藩主が進退を決めるかどうかは謎だけど.ただ,藩のためにその後を浪人で暮らさなければならないのかと思うと割に合わないなあと思う.そんなこと考える人じゃなさそうだけど.

三十郎と二人で背中合わせに共闘しているのを見たら,相手が可哀想でした.脇差し投げ→間合い詰めて斬という息のあったところが好きだ.そうだよなあ,あの場合弾くしかないもんなあ.

三十郎に「勘弁ならん!」って台詞があるんですが,この人にそんなこと怒鳴られたらもう土下座して謝るしかないというか本当に勘弁してくれなそうというか,ごめんなさい.(なぜお前が謝る)

素浪人罷り通る DVD-BOX

日時: 2010年3月28日 | 感想 > TV/映画 |

コメントを投稿

(空欄でもかまいません)

(メールアドレスは管理人に通知されますが,Web上には表示されません)

Powered by Movable Type