静かなる決闘

友人に「初めて三船敏郎の若かりし頃・現代劇を見た.......格好良かったよ,どうしよう」と言ってみたら,「若かりし頃でなくても格好いいよ,三船敏郎.わし,写真や映画見て「カッコいい!!」と思ったのはこの人とアラカンだけだ」と返された.すみません,そこに市川雷蔵さんも入れていただけないでしょうか.

その後,その友人,「でも,三船さんって現代じゃあんまり流行らない格好良さじゃないか」と言う.そうかなあ.けっこう汎用性あると思うんだけどなあ.(汎用性って何だ)

さて,『静かなる決闘』は三船さんが登場する黒澤映画では2作目.ずーっとヤクザな役をやってきたのがいきなりあまりにもガラリと変わって,医師の役である.三船さんの「いい青年」役って『野良犬』が一番かなと思っていたけど,これのが上っす.ほとんと聖人.ただね,最後の場面を見ていて切ないような悲しいような気分になったのは,この一人の聖人が生まれるためには,二人の不幸がなくっちゃならなかったのかということだ.

美佐緒さんの造形も好きでね.結婚の前日まで諦めきれないでいるところなんかね,単に嫋やかで従順な訳じゃない芯の強そうなところが好きだなあ.できれば幸せになってほしかった.いや,確かに恭二の言うように「幸せを切り開く」強さはあるのだろうから幸せにはなるんじゃないかなと思うんだけど,でも,やっぱりこの二人に幸せになってほしいと思うわけで,だからこそ続く恭二の独白が響くんだろうなあ.るいへの返答の形だけど,ほとんど唯一荒れ狂うあの場面は独白に近いと思う.

そんで,その劇場の刻が過ぎて,るいが申し出をしたときに突然何も無かったかのように振る舞う,あそこが一番リアリティがある場面だと思う.きっと,以降,二人ともこの独白には触れないことだろう.

基本的に悲しい感じの方が支配的な映画だけど,父親に秘密を打ち明けた後にたばこをお互いに付けようとして,さらにお互いに火をもらおうとする場面が好きだ.「家族でも謝らなくちゃならない物は謝らなくちゃならん」いいお父さんだ.

この映画,別にアクション映画でも何でもないのに『静かなる決闘』なんて名前が付いているのが意味深だ.たぶん,荒れ狂う欲望とそれを御する理性との対決なんだろうと思う.ああ,考えてみると『野良犬』と構図は一緒なのかもしれない.『野良犬』では村上と遊佐が二相だったんだけど,『静かなる決闘』では恭二と中田が対照されているように見える.

素朴な疑問なんだけど,梅毒だと胎児はどうなっちゃうんですか.

静かなる決闘 ― デラックス版 [DVD]

日時: 2010年3月29日 | 感想 > TV/映画 |

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