うへー,面白い.
音楽もここって時に高らかに鳴ってね,それがラッパなんだよなあ.ブラスの響きがなんでか合うんだなあ.
黒澤映画特集 in Stanford Theatre, Palo Alto, California, USA第8作目『用心棒』です.
この映画,『椿三十郎』の前編っちゅうか,むしろ『用心棒』があったから『椿三十郎』があったみたいです.でも,三十郎って偽名なんすね.そういえば,七人の侍の時も本名わかんなかったよなあ.
やくざもんからしてみればこれほど迷惑な人おらんわ.ふらっと来て,勝手に首突っ込んでニヤニヤ笑いながら一家2つ壊滅させてくんやもん.それも,クレバーな方法で.もちろん,腕っ節も尋常じゃないんだけどさ,焚き付けて焚き付けて鐘楼に上って文字通りの高みの見物だもん.
この三十郎って人も面白いんやけど,周りも面白い.私が好きなんは本間先生.すごんでたくせに,逃げるやん.しかも,悪びれもせずにニッコリ笑って手振って行くやん.思わず三十郎も手振っちゃって.
あとはもちろん亥之吉.にっくめないよなあ.この人の「こいつ,とっても強いんだぜ」って台詞回しが妙に好きです.全然悪意がない感じがする.いや,そりゃ,喧嘩になりゃ大暴れだけどもさ.
半助なんか,ほとんど時刻告げる役にしか立ってない(すごく声はいいと思う)んだけど,こうニコニコペコペコがどうも憎めない.
ああ,うん,いちいち面白いんだよな.清兵衛とその女房(この人怖い!)の密談立ち聞きしてるんだけど,それを観ている女郎たちにシィって合図したり舌出して見せたり,仕草がひょいっと変に可愛らしい.かと思えば,あんまり美しくもない女たちの踊り見せられて嫌そうな顔してたりね.
それでいて6人ばっさりやったときは息を飲んだね.この人,いちいち2回ずつ刀振るってとどめさしてんやもん.しかもあっという間.この後に拝まれて「たたっきるぞ!」って言った時に初めて本性が透けて見えた気がする.権爺言うところの「悪ぶるのが好きなだけ」なわけですわ.
殴られまくって倉に入れられてたところは本当に痛そうやったわ.全然まともに動けないもんだから逃げ出すところもハラハラしたよ.だいたい卯之が勘が良すぎる.仲代さん若い!そういや,この映画,何でか知らないけど英語字幕のCast順,Toshiro Mifuneの次がTakashi Shimuraだった.おいおい,だめでしょ,そういうことしちゃ.志村さんこの映画だと完全脇なんだよ.ちゃんと仲代さん二番目にしなきゃ.
だんだん凄惨を極めだして,最後の最後,清兵衛一家との対峙ね,あれもすごい.歩いて距離が近くなっていき,急に高らかにテーマが鳴り,来たッ,来た来たッ!と観ているその前で,ヒタ,ヒタヒタと距離を詰めて,バッサバッサと斬りまくる.
その後の長い長い卯之のシーケンス,地べたで蠢いてそれでもずっと悪を主張されたような気がしたよ.
でも本当に怖かったのって,もう狂ってしまったように,いや,狂っていたんだろう,実際,狂って法華の太鼓を叩いた絹問屋が返り血浴びて出てくる様だった.
ただ,そんなの何もかもさらっと「あばよ」で流しちまって去っていく.すげーなー.ほんと,もう.
この映画の題名が『用心棒』なのはちょっと皮肉な気がする.だって,ぜんぜん用心棒してないんだもん(笑).まあ,本人言ったとおりの「雇った方が用心しなくちゃならない」用心棒か.『用心棒』はYojimboだった.いちおうbodyguardという訳語もチラシにはあったけど,一種独特の意味を持つからそのままなんだろうと思う.