いやー、捨吉かわいそうだろう、捨吉。って,『白痴』の時も似たような書き出しだったな.もっとも,『白痴』の方が悲惨だが.
私、なんで捨吉がこんなにかわいそうに思うのか考えてたんだけど、考えてみるとですね、姉は嫉妬して折檻し、坊さんは連れて逃げろと諭し、周りのみんなも「捨吉を探してこい!」って言ってて、全員が全員捨吉はお加代に惚れていると知っている。なのに、肝心の本人だけ信じてないんだもん、そりゃ捨吉でなくたって、「お前、本気でそんなことを......!」って思うわー。
『蜘蛛巣城』同様,山田五十鈴さんが出てくるけど,この人怖いよう.本当に怖いよう.私のベルさんのイメージって必殺シリーズで固まっちゃってたけど,一連の黒澤映画で怖くなってしまった.
ゴーリキィの戯曲『どん底』の映画化だそうで,最初は長屋(と言うにはもっとみすぼらしい)からカメラ動かないから舞台劇みたいだった.あ,舞台劇なら視点が動かないか.うん,場面を動かさずにカメラの視点が切り替わって変わった印象だったな.基本的に長屋の中と大家の家とその前の小さなスペースだけで話が完結している.
続けてみてやっと分かってきたけど,この頃の映画って,監督同じだと出てくる俳優さんも同じなんだね.だから,「劇団黒澤組」って感じがして,この映画はそういう面が一番出ているように思う.
そうそう,途中に2回ほど出てくるラップ(?)がすんごく格好いい.
トントンちきめ とんちきめ
コンコンちきしょう こんちくしょう
地獄の沙汰も金次第
仏の慈悲も金次第
という歌詞なんだが,歌詞から受ける印象よりずっと格好いいよ.その辺の茶碗とかで拍子とってるのになんでそんなに格好いいのかなあ.
いちおう,出演者のトップには三船さんが出てるけど,主人公が誰とも言えない感じだった.あえて選ぶとしたら巡礼の嘉平か遊び人の喜三郎.私としては最後を締めた喜三郎の方を推す.そうやって,同情の感情薄く這い上がることなぞ考えもしないくせに嘆きもせずに生きていく.