炎の戦士クーフリン(ローズマリー・サトクリフ)
考えてみたら,クーフーリンって名前は知ってるけどエピソードは知らないなあと思って,本を探してみたところ,見つけたのが『炎の戦士クーフリン』.......もちょっと題名何とかならなかったのかと思ったけど,原題が『The Hound of Ulster』なもので,日本人には意味が分からないからしょうがないか.
ローズマリー・サトクリフという人は書き手としてはどんな評価なのかなーと思って調べてみたら,英語版WikipediaにAlthough primarily a children's author, the quality and depth of her writing also appeals to adults
と書いてあったので,思わず原著を買いそうになったんだけど,読んでない英語の本が溜まっているので思いとどまって図書館で借りてきた.
いろいろなエピソードを時系列らしく再構成してあって,1章1章を短いお話として楽しめる.中にはクーフリンが主人公じゃない話(ディアドラのエピソードとか)もある.
クーフリンは『アルスターの猛犬』の二つ名を持つアルスターの守護者とも言える半神の英雄なわけなんだけど,本当に駆け抜けるような凄烈な人生を自らが選んで駆け抜けている.でも,「血なまぐさい激戦の話を,まるでクーフリンの結婚のようだと言うようになった」という記載を見て,ちょっとー,あんたー!!と思った.うん,まあ,そんな人です.
総じて登場人物の気性が激しいよなあと思う.クーフリンだけでなくて.あと,けっこう女領主が出てくる.
鮮やかな印象の残るエピソードがすごく多い.フェルディアとの一騎打ち,海を越えてやってきた少年との一騎打ち,立ち往生の最期.ゲイボルグは彼の槍として名高いけれど,結局彼がゲイボルグを使ったのは,敵に対してではなかったというところがまた泣ける.
周囲の人の中では,本来は貴族だからそんなことをする身分ではないのに一緒に戦場に出たいと御者の指名を喜んで受けたロイグ.それと,クーフリンとまさに添い遂げたエウェル.
最後まで読んでいてふと思ったんだけど,運命というのは避け得ないからこその「運命」なんじゃなかろうか.避け得ぬと分かっていながら,その定めを雄々しく踏んで誉れだけは汚さないという生き様がクーフリンを激しい英雄にしているのだろう.
2010/8/16 読書開始 - 9/18 読了