海竜めざめる(ジョン・ウィンダム)

SFの古典,ジョン・ウィンダム氏の『海竜めざめる』ですが,図書館に福音館書店のボクラノエスエフ シリーズが入っていたので,読んでみた.訳が星新一氏だったのに惹かれたのはある.(現代に合わせて多少文章直したそうですが)

読んだ感じは,『山椒魚戦争』みたいだった.ただ,『海竜めざめる』は最後まで相手の正確な姿が分からないんですが.山椒魚戦争の時も思ったけど,「こっちが悪いんじゃないの?」とチラチラ思う部分があって,考えてしまう.最初の接触が友好的であったなら別の結末もあったんじゃないかなあ.

急に破滅が起きるんじゃなくて,ゆっくりゆっくり事が進んでいく.でも,人々の意見はまとまらないし,国家間の対応もまとまらない.信じたいことを人は信じるし,突拍子もないと一度断じた意見はなかなか容れられない.冷戦を背景にはしているんだけど,その構造が崩れた現代でも一緒の顛末が起きるんじゃないだろうか.そこにジャーナリズムが演じる役割もきっと変わりはしまい.

たぶん,一般人には――いや,政府だって,何が起きてるかどれが最善か分からないでいるうちに事態は進行していって,みんなが誰かを(おもに政策担当者を)非難しているうちに,のっぴきならなくなってしまうんだと思う.

最善なんて誰にも分からない.科学は万能じゃない.科学が万能じゃないことを一番知っているのは科学者なのに,他の人たちは無理に「断言」を求めて,違うとそれを断罪し,「やっぱり科学は万能じゃなかった」と極端に走る.それってどうなの?と最近とみに思う.

作中,ロンドンが高潮に飲まれる場面があるんだけど,なんか盛り上がる水面があの仙台沖の津波映像と被って,いやに臨場感あって泣きたくなった.

ところで,物語の終わりも終わりに,突然日本に関する言及があって,手先が器用で精密器機好きという彼らの国民性が才能を発揮してくれたんだ.という部分で,ぶーっと吹き出してしまった.日本人,そんな昔から機械好きだと思われてたの?と笑ったんだが,よく考えたらこれ最初の出版年が1953年なんですね.昭和28年ですよ.うーん,当時はmade in Japanなんて粗悪品の代名詞だったろうに.ソニーのトランジスタラジオもカシオの電卓もその後の話だろうに.不思議だなあ.

この本,最初に出版されたイギリスでの原題は『The Kraken Wakes』,イギリスでのできごとや日常生活エピソードが省かれたアメリカ版が『Out of the Deeps』で,日本語訳はアメリカ本が底本だそうです.イギリス版読んでみたいなあ.あと,題の元ネタがテニスンの詩なんだそうで,それを眺めていたらテニスンも読みたくなってしまった.

海竜めざめる (ボクラノSF)

日時: 2011年8月12日 | 感想 > 本 |

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