予告された殺人の記録/十二の遍歴の物語(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

『百年の孤独』という小説があると知り,最初はそれを読むつもりで作家を調べ,作品リストを見ていたら『予告された殺人の記録』の方に目が行って,ついうっかりそっちを読んでしまった.

予告された殺人の記録

読み終えた時に泣きたくなった.激しい泣き方でなく,漠たる憂愁を目の当たりにして勝手に落ちる涙,という感じで.

双子については,始終,「自分で止めろ」という憤りを感じていた.この殺人の理由は馬鹿げている.さらに許せないのは,双子自身止めてほしそうだった,つまりは,その土地のその時代の価値観に於いても躊躇いを感ずるものだった.ならば,なぜ自分で止める勇気が無いのか.おそらくは,こう思うかどうかで後の印象も全く変わるのだと思う.

この話の解説は、たいてい共同体による殺人とある,らしい.しかし,それを自分は感じない.それは,第一義に双子に止める義務があると思っているからであり,もう一つの理由は,「傍観」を「自然」と感じているからだろう.

この「傍観」を「自然」と受け取るか「作為的傍観」と感じるかの違いがどこから起きるかを考えると興味深い.

自分は,周りの反応がごく自然だと思った.馬鹿げている・殺すべきだ等々意見が様々であることも,ナイフを持った男たちを見て不干渉に傾くこともごく自然だと.

これを「作為的傍観」であるという見方をするのは,止めるのが自然=止めなかったからには共同体の殺人であるという見方になるわけで,逆に言えばそういう見方になるのは,共同体の志向が結果を決定する社会にすんでいるからだと思う.

とすると,そうでない自分は崩壊した共同体に住んでいるのかな,と思うのだ.

自分にとって,周りの人たちの反応というのは実に普通だった.登場人物が皆,絶対の悪人も絶対的な善人もいないので「普通感」をよりいっそう感じる.つまり,(自分にとっては)これはどこの地域でもどの時代でも起こりうるという一般化ができるように感じるのだ.とすると,理由なく被害者に選ばれる可能性が誰にでも存在し,不作為と偶然が錯綜した結果,ついに殺人は完結するという可能性もあるわけで,そこに「社会」という物に対する茫漠たる悲しさを感ずる.

しかも,この殺人の引き金を作った花婿・花嫁,直接手を下した双子が皆,殺人の被害者に対してさしたる罪悪感を持っていない.殺されなければならない理由を持たずに殺される被害者とのコントラストに泣く.カフカの『変身』でも感じたけど,理由なく被害者に選ばれた人物が唐突に他の人々から切り離され,世界から放逐されることに,言いようのない寂しさと不安とを感じるのだ.

花婿も殺人の引き金だと思うのは,婚礼に於ける処女性に重きを置かない価値観を持っているからで,花婿が花嫁を帰した理由が馬鹿らしいと思っているからだが,穿った見方をすれば,「船から下りもしない司教」という描写でカトリックを揶揄しているようにも見えるので,筆者自身,それを馬鹿らしいと思っていたのかも知れないと思う.

こういった事象が全て「俺は殺されたんだよ」という絶息のひと言に雪崩れ込む.この台詞を読んだ時に,ああ,凄い,もう死んでいる,と打ち震えた.

以下,教えてもらいました.→ 最後の台詞はme han matado 現在完了形だそうです.(現在完了形は)英語同様近い過去から今にかけて完成した行為、となりますが、南米は完了形の仕様頻度は低いので使うときは意味が強調されると聞き覚えがありますとのことです.

「何故」という感情でなく,事実のみを口にして終わるからこそ,この台詞は読んだ後も脳裏に尾を引いて残る.この台詞を彼はどんな気分で口にしたのか.おそらくは何も考えもできずに虚ろな思考と共に漏れ出でたのであろうが,それを思うと,やはり空恐ろしいような涙を禁じ得ない.

十二の遍歴の物語

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実を言えば,マルガリート・ドゥアルテの情熱が私には分からないのだ.以下の作品でもしばしば分からないのが,宗教的な情熱だ.自分だったら,それが奇跡であったとしても,娘は土に眠らせておきたいが.
眠れる美女の飛行
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「電話をかけに来ただけなの」
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八月の亡霊
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悦楽のマリア
実は幸福な話なんじゃないだろうか.
毒を盛られた一七人のイギリス人
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トラモンターナ
門番の死が事故なのか自殺なのかが分からなかった.どちらにせよ,トラモンターナがもたらす雰囲気が,直接にではなくその要因のようだが.
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この話が一番好きだ.多分に悲劇であるにもかかわらず.両親は嘆いただろうけれど,何か,痛みも苦痛も感じずに光に溺れていったように思うのだ.それはそれは美しい光景だったであろう.この地を離れてしまうことすら分からずに.
雪の上に落ちたお前の血の跡
何でだか分からないのだ.人はバラでは死なないだろう.どうもそこから離れられなかったので,半ばで結末は分かったけれど,どうやったら免れられたのかが分からないのだ.夫が哀れである.

2012/9/12 読書開始 - 30 読了

予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語

日時: 2012年9月30日 | 感想 > 本 |

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