ボルヘスの『伝奇集』の後半,『工匠集』の感想おば.
- 記憶の人フネス
プロローグによれば
不眠の長々しい暗喩
だそうだ.自分はそれよりも,「わたし」が彼の執念ぶかい記憶のなかで生きつづけるにちがいないと思った
時からさほど経たないうちにその記憶がフネスともども消え失せたことに,人と分離できない記憶というものの儚さを感じた.- 刀の形
途中で語り手が何者かは分かった.彼はきっと
軽蔑してください
とそれだけを言いたくて,この長い話をしたのではないかと思う.- 裏切り者と英雄のテーマ
あらすじだけだよね(笑).長編になってたら絶対に面白いのに!すごく読みたいと思った.
- 死とコンパス
これも「書きたいとこだけ書いたったー」って感じがする(笑).『裏切り者と英雄のテーマ』よりは書いてあるかな.すごく好き.
御名の第一の文字は語られた
ってとこからね,もうミステリ臭が芬々として好きなんだけど,レンロットとシャルラッハの数学的にも聞こえる最後の会話が好き.- 隠れた奇跡
いくら完璧でも書き付けられることない作品で彼は満足できたのかな.満足してるみたいだけど,いや,頭の中だけで完全に組むことができる段階で彼は天才なんだろう.確かに奇跡は起こったけれど,自分が彼のファンだったらやっぱり残念でならない.
- ユダについての三つの解釈
自分は前からユダの裏切りを教唆したのはイエスであろうと思っていて,ユダはそれを分かりつつ,どうあっても自分を裏切り者たらしめるイエスに憎悪を抱いたから既定の通りに裏切ってやろうと思ったんじゃないかと思っている.なんとなくそのことを思い出した.
- 結末
やってきた男と待っていた黒人とがねじれてしまって,最後がよく分からなくなってしまった.復習したのは誰なんだろう.返り討ちにしたようにも見えるのだけど.
- フェニックス宗
冒頭にちょっぴり引いているけど,これはボルヘスが仏教に対して持っていた感想なんじゃないかなと思う.
- 南部
妙なことにガルシア=マルケスの『予告された殺人の記録』を思い出した.たぶん,ダールマンが有無を言わさず南部の掟なる物に巻き込まれ,ダールマン自身もそれを当然であるかの如くにとって,
希望も抱かなかったが,恐怖も感じなかった
からだと思う.『結末』ともちょっと通ずる「南部」の乾いた物・その風習を感じる.
2012.12.8 読書開始 - 22 読了