本朝甲冑奇談(東郷隆)

甲冑にまつわる物語を描いた短編集で,『しぼ革』『モクソカンの首』『角栄螺』『小猿主水』『甲試し』『金時よろい』の6篇が収録されている.

しぼ革
信長と猿じみた怪人の話.ちょうどFate/Grand Orderをやっていて,ゲームはおかしな性格の信長が出てくるんだけど,この話読んだら彼が,であるか,という返事をすることは,今日多くの資料に書かれているとあって,あ,そこは本当なんだと思った(笑).彼が謙信に贈る甲冑の話なんだけど,蜘蛛に絡め取られるように網に掛かってしまったような和泉守景家が気の毒でならない.
モクソカンの首
團伊玖磨氏の持つ兜にまつわる話で,朝鮮出兵の話.息子二人を未明に失い,それでも戦い続けた老いた勇者が気の毒で,首を故国に持ち帰りたいと申し出た人の敬愛の情が印象的だった.彼はちゃんと朝鮮に首を持ち帰れただろうか.
角栄螺
築き上げ守ったセミナリオの末路を知ったら左内はどんな気分だったろう.
小猿主水
谷津主水という人の話.兜は社から持ちだしてそのまま持ってっちゃってる(笑).関ヶ原で石垣を上るところはどっちに転ぶのかと読んでいて,仙石家の旗が振られたところで,仙石家の武者と一緒になって雪崩を打って攻め込むような気分になった.
甲試し
この本を読むきっかけは,長曾禰虎徹の話が載っていると聞いたからだったんだけど,この話がそれ.興里が具足師から刀工になる頃の話.由井正雪と会っているというのは話の味付けかなあ(笑).具足師としても名人で50代頃で刀工に転向して刀工としても名人になったというのは凄い話だ.甲試しの時は鉢が跳ね上がらないように粘土や炊いた白米を詰めるとか温かいと鉢が切りやすいとか興味深い話もあった.自分の作った鉢を自分の打った刀で試すことになるなんて,彼以外にはなかなかないだろう.
金時よろい
長州征伐の頃の話.ここまで読んでこの短編集が時代順になっていることに気が付いた.まるで箸で豆腐を突くように鎧を,人体を銃が容易に貫いて,井伊家の地獄のような大敗が悲しくてならなかった.かくて,日本刀と甲冑の時代が終わった.

本朝甲冑奇談

日時: 2016年1月10日 | 感想 > 本 |

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