全編油絵で作ったという狂気の映画だというので,観たいなと思っていた.でも,なかなか行けないうちに富山では終わっちゃったから諦めていたら,東京に行ったときに六本木ヒルズでやっていると友人がたまたま教えてくれて,慌てて行ってきた.
いや~,行って良かった.全編油絵という話題だけでなく,話自体もゴッホの最期を巡るミステリ仕立てで凄く好みだった.
主人公はアルマンという郵便局長の息子の青年で,ゴッホが遺した弟宛の手紙を届けるように言われ,いやいや旅立ったはずだったのに,あちこちで話を聞いているうちに真相を知りたいと思うようになっていく.芥川龍之介の『藪の中』みたいに,証言する人は皆,自分の都合の悪いことは言わず,噂だの自分の思い込みだのを好き勝手に話す.
ゴッホが感じた哀しみが可哀相になってきて,彼は,きっと死を選んだというよりは生きることを覚悟を持って放棄したのではないだろうか.弟のテオの献身はあまり描かれないけど大きいし,実のところ医師もすごくゴッホを認めていたのだろう.
とある展覧会で,「ゴッホが現代にタイムスリップして,自分の絵の展示の前で学芸員が『偉大な芸術家の作品です』と解説するのを視る」という映像を観たことがあって,それも思い出してしまって,涙ぐみながら視ていた.