L'Homme de Londres/京北書房/伊東 鍈太郎 訳
それは,『自由酒場』を捜し求めていたときだった.
それを聞きつけた知り合いの図書館職員が「本を探すの好きだから」と私のメモ書きを持っていった(単に,本の題名とシムノンの名前とを書いたものだった).その日の夕方,「インターネットで情報を見つけた」と言って彼女が見せてくれたプリントアウトは――ええ,書いてありましたとも,いるすかと.もう,情けなくて,涙が出そうでした.そりゃもう,引き攣った顔をしておりました.
次に,彼女は,「『倫敦から来た男』が神戸市立中央図書館にあるから,取り寄せ頼んでみる?」と言ってきた.聞くと,京北版だというのだ.だから,京北版には自由酒場はないというんだ!でも,一縷の望みを託してみたくなった.ので,取り寄せ送料を払って,取り寄せてもらった.
自由酒場は併収されていなかった.
しっかりしてくれよ,ライブラリアン!
その昔,小学生の頃,銭形平次にはまったときのことを思い出しました.全集を読んでいったのですが,1冊抜けていたので取り寄せを頼んだら,別な出版社の全集を取り寄せやがりました.子供心に,「出版社違えば収録順も違うだろうに,何考えてんだ~!」と思いました.そういや,友人は,書店で『知恵の七柱』を頼んだら,『チャタレイ夫人の恋人』を取り寄せられ,憤慨していました.
なんか,話がどんどん逸れているが.結局のところ,この本もそうそうお目にかかれるものではないので,読んでみた.
読み終わってみて,ほっとしている自分がいた.
対比したくなったのは,同じくシムノンの『汽車を見送る男』である.状況は似ている.思いがけなく,犯罪に手を染めることになる,そんな男の物語だ.
しかし,あちらがブルジョワの犯罪,知識階級の犯罪だったとすると,こちらのマロワンは,より素朴だと思う.ブラウンにしても,小難しいことは考えていない.世間を相手にしようなどという,小賢しい妄想は抱かない.
より素直に罪悪感に駆られ,より素直に罪に服するように私には思えるのだ.
2003-2004にかけての冬 読書開始 - 読了