焔の幻影
―フレイム・ミラージュ―

○キング 『「初夢」なる東洋のイベントへの対処』


「日本じゃそういう風習があるのよね。知ってるけどね」

弟が濾れてくれた紅茶をかたむけて、彼女はため息をついた。ティーカップはようやく発見した思い出の逸品、シンプルな北欧デザインの形と白が美しい、ロールストランドの『ディーネ』であった。

「でも、ニューイヤーから交通事故の夢を3連続で見るだなんてあんまりでしょ?今年はどうなっちゃうのかしら」

「……『サカユメ』ってやつだよ、きっと。だいじょうぶだよ、ねえさん」

悩ましく目を伏せ、金の髪をかきあげてため息をつく美貌の姉に、もう一杯の紅茶を勧める。実際、彼にできることなどせいぜい美味しい紅茶を濾れてやることくらいだった。

「うん……。そうね、きっとだいじょうぶよね。ありがとう、ジャン」

微笑む姉に、極上の笑顔で頷きを返す。プラチナブロンドの髪が、新年の光を受けて白くきらめいた。

姉をおびやかすものは、すべて彼にとって憎悪すべき敵であった。悪夢払いの方法を、彼はあらゆる地域あらゆる宗教から捜し出すことを心に決めていた。

「いい一年になるといいわね?」

「そうだね、ねえさん。きっといい年になるよ」

色こそ違え、似通った美貌がにっこり笑いあっている姿は、平和でまた美しいものであった。

だが、その天使のような笑顔の下で静かに臨戦態勢に入っている少年の存在を知る者は、ここには誰ひとりとしていなかった……。

Author's Note

アップは1998.1.3です.

卒論はどうした俺様(笑)って感じですな.初荷と称してアップして,しばらく仮死状態だったようには思っていますが…….その割には小技なんか効かせちゃってましたけど.

某イギリスの薔薇様の一件が,この話のきっかけでした.一緒になってあのアラブの富豪がロバートみたいだと言ってくれたmkkjnさん.愛してるよちくしょう(笑).


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