青年期の悩みにおける傾向と対策・
八神庵並びにキングの場合(傾向篇終章)
〜DISCOMMUNICATION〜
傾向と対策シリーズ八神庵&キングの場合、ひとまずの終了です。
問題は対策篇があるかどうか。
本当はこれが対策篇になるはずだったんですが、
傾向篇ファイナルと言った方がよさそうな出来でした……。
相互依存は激しいくせに、相互理解はあるんだかないんだかよくわからない。
お互いの、お互いに対するニーズがこの上なく相性の良い二人。
庵をダイレクトに理解しているのは京だし、
キングを一番愛してるのはきっとリョウ。
それを知ってても、わかってても、惹かれる。求める。
庵、爆弾発言及び問題発言ぶちかまし。
趣味突っ走りまくりの大勝負です。
煙るような雨が降っていた。ぱらぱら、ぱらぱらとかすかな音をたてて。
泣き出しそうに思い詰めた顔をしていたから、つい家に上げた。何か飲むかと聞いたら、きついのがいいと言うからブランデーの封を切って出してやった。ロングソファの背にもたれて、彼は無言でグラスを傾けていた。
ジャンが出かけててよかった、と私は思う。教会の旅行に行ってて、あさってまで帰らない。ジャンはどうもこの子と相性が悪いらしい。
せっかくつまみにチーズを切ってやったのに、手をつけない。うつむいて、黒い目をかくして、ただ黙々とブランデーを口に運んでる。
あっというまに一人で半分空けて、ようやくグラスを置く。形のいい唇のすきまから、長く尾をひいて吐息がもれた。
けだるげな瞳が私を見る。ようやく、私に視線を向ける。意図的に私を見ようとしてなかった……今まで。
アルコールで熱を帯びた黒い目。濡れて怠惰に光るのが綺麗。でも、退廃の香りがする……本人はつらそうなんだけどね。
すう、と腕をのばす。手招きする訳ではない。何かをつかみたがるみたいに、まっすぐ私に向かって。……どうしたいのか、な。
「……そばに来いよ」
ぼそりと言う。なんだ、私に言ってたの。何か変なものでも見えてるのかと思った。 何なのかなあ、この辺の高飛車さは。
「こっちに来てくれ。頼む」
かと思えば妙にいい子だし。今日も不安定だなあ。いつものことではあるけど。
また視線を落として吐息する。……ひょっとして酔っ払ってる?
近づいてみたら、のばした手で腕を取って抱きよせられた……と、思いきや。ソファに腰を下ろしたまま、私のウエストあたりに腕をまわしておなかになつく。……困ったな。赤い髪をなでながら、私は沈黙する。
「何か言ってくれよ……」
そう言われても。私には見当がつかない。
「……寂しい……」
ぽつん、とつぶやかれた言葉。万感の思いが込められたかのような響きに、なんだか唐突に納得した。
そっか、甘えたいんだ。なのに、この子無駄にプライド高いから。お酒飲まないと駄目なんだ。弱いところ、見せられないんだ……。
「私がいても、寂しい?そんなに寂しい?そんなに、泣くくらい寂しいの?」
そっと肩に手を置いたら、おびえたみたいにその肩が震えた。……ううん、吐息が震えてる。逃げやしないのに、逃がすまいとして必死みたいにしがみついた手が震えてる。
強く、小さなモーションで首を振ると、赤い髪が小さな音を立てて宙を舞った。
「寂しいよ、……」
独り言みたいに言って、すうと息を吸い込む。広い肩が、小さな子供みたいに頼りなげで。
「寂しいよう……」
繰り返して、まるで子供みたいに小さくしゃくりあげながらべそをかく。おっきななりして、ねえ……。
「はい、はい……甘えん坊さん……」
「うあ……ぁんっ……」
……泣き出されちゃった。声押し殺して、体丸めて、小さく泣く姿は、きっと私しか知らないのだろう。
「もぉ……しょうがない子だねぇ……」
赤い髪なでながら、言ってはみる。効果なんか望んじゃいなかったけど。
「泣きなさい、好きなように……。愛してるわ……あなたを」
私の声も聞こえないくらい酔っ払ってるとしたら言うだけ無駄だけど、聞こえてるんであれば結構効き目のある言葉。少なくとも心は楽になるはずだと思う。
「俺のこと、好き……?本当に、好き、か?」
泣きながら、涙の流れるままに床の一点を見つめながら聞いてくる。ふうん……お酒入ると素直になるんだ、この子。
「好きよ。愛してるわ」
指先で涙を拭ってやる。こんな姿を見たら、草薙の坊やはどんな顔をするのかしら。
「俺を好きでなくちゃ嫌だ……。俺から離れていったら嫌だ、嫌だ……嫌だよ……」
頬に触れた指をとらえて、いやいやをしながら訴えてくる。甘えるの、上手いんだか下手なんだかわからなくなっちゃった。普段のあの性格を知ってるとさ、あの高飛車で傲慢な顔が涙ぽろぽろこぼしながらこんなこと言うんだもん……ねえ。
子供がするみたいに、手の甲で一生懸命涙を払いながら肩を震わせてる。……ああ、もう駄目、可愛すぎる……。
「もう……可愛いんだから……。ほっとけないわよ、一人でいたらあなた壊れてしまいそうだもの」
私が守ってあげるわ。あなたを悲しませることから。でも、泣き顔も結構いいわよね。
「愛してるわ。ヨオリ……」
そう言ったら、なんだかますます泣かれてしまった。どうしよう……。
「そばに……そばにいて……」
なんか、もう必死。うーん、これはやっぱり酔ってるな。全然聞いてないもん。
「俺を捨てないで……」
……わあ、熱烈。何事なの、一体。ほんとに。
「どうしたの?ほんとに……。らしくないわね、何かあったの?」
よしよし、と髪をなでてはやる。嫌なんじゃないけど、本当にどうしたんだろう。
「そばにいるよ。捨てたりなんてするわけないじゃない。あなたが私を捨てる方が先だわ、きっと」
ほろ苦い、たくさんの記憶。みんな、私より大切なものをつくって離れていったわね。……あなたはどうなのかな。あなたも行ってしまうのかしら。……嫌だな、寂しいな。
「あなたは、私を好きでいてくれるのかな……。私のものでいてくれるのかな……」
髪をなでる手が止まってしまった。赤い髪、そっと抱いてみる。すこし、温かい。
「愛してるわ……」
思わず声が真剣になっちゃうよ。だめね、弱くて。
「ずっとそばにいてちょうだい。ずっと、私のヨオリでいてちょうだい……」
ささやいたら、かすかにうなずかれたような、そんな気がした。
愛されてる証明が欲しいだけだ。
だから、つい、来てしまった。
この女なら、俺を救ってくれるかもしれない。
発作のようにそう思ってしまっただけだ。
それだけなんだ。
そんなふうにこの俺が言えるはずがないことくらい、頭にあっても良さそうなものだったのにな。
ひどく寒くて、嫌な気分で、無性に誰かのそばにいたくなった。
そんなこと、誰にもとても言えないのだが。
その上で、何もかも見抜いているかのように微笑う女。こいつに頼っている俺がいる。 そんな素振りを匂わすことさえできない俺を、何も言わずに家に上げるこの女を頼ってしまう。
くだらん事をする。俺も、お前もだ。
『そうやって、独りぼっちで泣くのね』。そう言ったな。その声が今も消えずに耳に残っている。
お前の言うとおりだな、何もかも。
ブランデーとグラスを俺の前に置いて、あいつはまたどこかへ行ってしまった。今日はあの子供はいないんだな。俺はどうやらあれに嫌われているらしい。まあ……たった一人の姉になれなれしくしているように見えているのだろうから、当然といえば当然か。
弱めの、決して暗いわけではない絶妙のバランスでライトが照らしてくる中、一人でびんを傾ける。いい香りだ、上物だな。いいのか、飲んでしまって?
グラスに少し移して手にする。レミーマルタンのスリースターか、3年ものだ。こいつのコレクションじゃあ、普段飲むにもこれクラスなんだろう。
一口飲み込む。……旨い。だが、ひどく苦いのは、きっと……俺のせいなのだろう。
グラスの残りを無理やり喉に流し込む。かっと体の中で炎が燃えた。それにしても苦いぞ、なんとかならんのかっ。
「く……」
むせるのを押さえて、もう一度グラスに酒を注ぐ。今度は多めに入れて、しばらく香りを楽しんでいよう。
手の中でグラスを回していたら、やっと帰ってきた。銀のトレイにチーズのスライスをのせたのをテーブルに置いて、ななめ向こうのソファに座る。
……そんな顔で見るな。そんな、心配そうな顔をするな。何も言えなくなるから。
顔を見ないようにしながらグラスを傾ける。うつむいていることしかできない。ただ酒を飲んでいることしかできない。口を開いたら泣き言しか出てこないのがわかるからだ。
喉の奥が痛いくらいに熱い。酒のせいじゃない、知っている。
我ながらペースが早いが、止められない。蒼い視線に堪えきる自信が、今は全くない。
これで何杯目だ?半分しか残っていないびんを見つけて驚いた。そんなに飲んだろうか。どおりで……。視線が上がる。色の白い、美しい顔を探すことができる。
この顔が見たくて、来たのにな。
会いたくて、来たのに。
グラスを落とす前に、と、テーブルに戻す。細い肩に手が届きそうだったから、つい腕をのばした。手には、何も触れない。そうだ、この距離じゃ届くわけがなかった……。
「……そばに来いよ」
届かない。おまえが遠い。すぐそこに、いるのに。見えるのに、なんでこんなに……遠い?
どんどん頭の中が白くなっていく。
届かないのか、ほんとうに?おまえは、そこに居るのか?
「こっちに来てくれ……」
届かない?なぜ?おまえは、そこにいるんじゃないのか?そこにいるのは、おまえじゃないのか?
「……頼む」
のばした手が寒い。空しかつかめない手……哀れな俺の手。
幻でも、いいから。それが夢でも悪魔でも、おまえの顔をしているなら。つかみとって、離さないから。
だから。
俺の手をとってくれ。俺を連れ出してくれ。俺の、今いるところから。もう一度、あの言葉を言ってくれ。
手に何かが触れた。たまらなくなって抱きしめた。ちゃんと体がある、幻じゃない、……よかった……。
髪を梳いてくる手は温かくて、涙が出そうになった。おまえがいるのが、嬉しいのに。嬉しくて、嬉しいから、今までの自分がことさら哀れで。
なのに、おまえは何も言ってくれない。
「何か言ってくれよ……」
つぶやきがこぼれた。
俺は贅沢なことを言っているだろうか?おまえがいて、抱きしめることができるのに満足しなくてはいけなかったか?
満足ならしている、むろんだ。おまえがいるなら満足だ。おまえを抱きしめていられるなら幸いだ。それ以上に、おまえの声を聞きたいというのは……おまえの声が紡ぐ言葉を聞きたがるのは、贅沢か?
……なぜ、黙っている……?
「……寂しい……」
言葉にしてから驚いた。よもや、そんな単語が出てこようとは。
だが、効果は上々だったらしい。髪をなでる手が一瞬止まって、こいつは。
「私がいても、寂しい?」
やさしい、声。困ったのでも、腹を立てたのでもなさそうな言葉が痛い。思わず腕に力をくわえる。
「そんなに寂しい?」
肩が震えた。なぜだ?なぜこんな、なんの変哲もないただの言葉がこれほど痛い?
「そんなに、泣くくらい寂しいの?」
とどめをさされた気がした。唐突に涙があふれた。止まらない。なぜ止められない?
「……寂しいよ、……寂しいよう……」
なぜ震える?なぜこんなに涙が出る?どうしてこんな言葉が出てくる?なぜ止められない、なんでこの俺が……八神庵が泣かねばならない?教えろ、キング。
やめろ、そんな子供をあやすように頭をなでるな。やめてくれ、よけい泣けてくるから……。
「甘えん坊さん……」
違う!おまえが、おまえが甘やかしてるだけだ!俺は……別に甘えてなんか……!
そう思うのに、なんで……なんで涙が止まらない?なんでおまえの手を振り払えない?なんで動けないんだよ……。なんでおまえの前で、こんなにみっともなく泣かなくてはいけないんだ。
きっとさっきのレミーのせいだ、そうに決まっている。しらふならこんな醜態、絶対さらさないのに。
「うあ……ぁんっ……!」
声がもれてしまった。こんな、子供みたいに。だから頭をなでるなと言って……!
「もぉ……しょうがない子だねぇ……」
しょうがなくなんてない!ないんだ、違うんだ!違うと言ってるだろうが、なでるなと……。
「泣きなさい、好きなように」
慰めるように言われる。だからそんなんじゃないと言ってるだろう!?好きで泣いてるんじゃないぞ、おまえが甘やかすから……だから、なぜだか涙が出てしょうがないだけだ。止まらないだけだ。それだけなんだ……くそう。
服を汚してしまって悪いと思ってたが、もういい。もう知らんぞ。おまえが悪いんだ、おまえが俺を泣かせるんだからな。ただじゃすまんぞ、覚悟はいいんだろうな。
……だから!どうしてそんなふうに笑える!?なんで、そんなふうにやさしく笑うんだ。おまえなら叱りとばすだろう、『情けない』といって斬るだろう!いつそれが出てくるかと思って怖いのに、どうして笑っているんだ。
髪をなでながら、耳にかかる髪をはらって指にからめながら、おまえは何を思っている?おまえを見上げることさえできない俺を、どう思う?
「愛してるわ……」
──本当に?
それにしてもここでそういう台詞を出すか、おまえは。こういう時に、そう言うか?おまえ、実は俺を泣かせようとしてるだろう。違うか?
「俺のこと、好き……?本当に、好き、か?」
俺は知ってるんだぞ……おまえは愛されているんだ。京のところの金髪、極限流とやらの髪の短いほう、サングラスのいやみな男も!俺が知ってるだけでも3人だ、大会に出てくる奴らだけでこうだぞ。おまえはとても綺麗だから……どうしたって、好きになってしまうんだ。ちょっと気を緩めれば引きずり込まれて囚われるんだ、おまえだったら丸腰でだって世界征服できるんじゃないか?
……世界なんて知らん。そんなもの、必要ない。俺は、俺が欲しいのは。
「好きよ、愛してるわ」
簡単に言ってみせるやわらかな響きの声と、頬に触れた手の温もりに背筋が震えた。指先が涙をはらっていく。
おまえだ。おまえさえ俺を愛してくれるのなら、他にはもう何もいらない。
「俺を好きでなくちゃ嫌だ……」
細い指をつかまえて、頬にあてがう。逃げないでくれ、頼むから。
「俺から離れていったら嫌だ、嫌だ……嫌だよ……」
もう、開き直るからな?泣き声でも、子供みたいでも何でも、おまえを離したくない。おまえが逃げ去ってしまったなら、俺は死んでしまうかもしれない。本気だぞ、おまえがいない世界なら無意味だ。
だから、いなくならないでくれ。
「もう……可愛いんだから……。ほっとけないわよ、一人でいたらあなた壊れてしまいそうだもの」
一人でいるから壊れるんじゃない。おまえに一人にされたら、俺はきっと壊れてしまう。無様でみじめな、壊れたモノになりさがってしまうだろう。そんな壊れたモノになど、おまえは興味をしめしてくれないだろう?ならば、壊れたくなどない。
「愛してるわ。ヨオリ……」
本当に俺を好きか?愛しているか?俺を置いて、俺一人を残して、どこかに行ってしまったりしないか……?
「そばに……、そばにいて……。俺を捨てないで……」
自分でも何を言ってるのかわからなくなってきた。涙が止まらなくて、頭が痛い。
「どうしたの?ほんとに……。らしくないわね、何かあったの?」
よしよし、と髪をなでられる。何か、って……おまえが俺を甘やかすから。だから、俺は……甘えたくなる。おまえによりかかって甘えていたくなる。我儘言いたくなる。おまえが優しいから。
……俺が、犬だったらいいのに。そうしたら、ずっと……命尽きるまでおまえのそばにいるのに。おまえのためだけに闘うのに。
「そばにいるよ。捨てたりなんてするわけないじゃない。あなたが私を捨てる方が先だわ、きっと」
つぶやく言葉が悲しい。俺にそんなことができるはずないのに。なぜそんなことを言う……?
「あなたは、私を好きでいてくれるのかな……。私のものでいてくれるのかな……」
決まってる。俺はおまえのものだ。だからそんな、泣きそうな声はやめろ。俺がおまえのものになるから。全部おまえのいいようにしてやるから、だから……泣くな。
「愛してるわ……」
そう、愛しているから。ずっとおまえのそばにいる。ずっとおまえのものだ。
「ずっとそばにいてちょうだい。ずっと、私のヨオリでいてちょうだい……」
いつのまにか、雨が止んでいた。耳に痛いほどの静寂の中で、心臓の音と肌をかすめる息の流れだけが心地よかった。
Author's Note
アップは1997.11.3です。
副題は『DISCOMMUNICATION』、『意志非疎通』……です。
アップするまでは紆余曲折ありました。だって、この庵弱いんだもん(涙)。マイ庵の中でもピカイチの弱さ。こんなの見ても、誰も喜ばないよなあ……、って思ってました。だから、書き上げてからもしばらく手元に置いてました。
意を決してアップしてみましたら、ご好評をいただけて……。いやあ、嬉しかったなあ(詠嘆)。僕的にはすごく好きな話なんで……。
この話書いてて、庵に対して特技(苦笑)「キャラクターシンクロ(キャラの心情が乗り移っちゃうコト/笑)」がばしばし発動しまして……特に後半、辛くて辛くて。全然意志の疎通してないし。疎通させない心づもりで書いたんですがね。
えーと、うちの庵のトラウマとして、「肉親(母親・妹)に捨てられた」っていうのがあります。実際に捨てたわけじゃありませんよ、早死にはしましたけど彼の母は誰より庵を愛してましたし、彼の妹も同じです。
「母親に捨てられた」というのはきっとじいさんが吹き込んだんでしょうね。好きではなかったんでしょうが、そのじいさんも彼は自分の手で再起不能にしてしまいます。
庵は自分の大事な物を片っ端からなくしてしまって、独りで取り残されたと感じているんです。自覚は意図的にしてない、のかな。そんなふうに思いたくないけど、疑惑は離れなくて。
庵にとって、自覚があるかどうかはさておき、「キング」は宿命関係なしで既に特別な存在です。うっすらと、「すくなくとも今は自分を捨てない」相手だと思っているのでしょうね。「捨てられない」為に何かしなければいけない、とは思っても、キングに自分から好意を示せなくて、「愛してる」なんて言えなくて、だからいつか「“また”(犬猫みたいに)捨てられる」んじゃないかと思ってる。だから、何度「大好き」「愛してる」って言われても、そう言われるのがすごく嬉しいのに不安で仕方なくて、しがみついて震えてることしかできない。
高飛車で偉そうで、そのくせコンプレックスの塊みたいな子供。庵に対する基本的なスタンスはこれで完全に固まりました。
キングはキングで、庵を失うのは嫌らしいくせに本気で落とそうなんて思ってないし。庵を取ることで何かを失くすのも怖い。自分が誰かを選ぶことで、別の誰か……たとえばリョウが離れていくのが怖い。そんなはずないのにね。
庵にはキングしかいなくて、キングから愛されなくなるのが怖い。キングには庵の他にも大勢いすぎて、誰かを選ぶことで「じゃあおまえなんかいらない」と言われるのが怖い。似てるのかな……この二人。
そんな二人が、だんだん変わっていく課程が書ければと思います。それが『女神の揺籃 アナザーエンディング』でひとつの形にできたかな、と思ってます。