女神の揺籠'97 FINAL STAGE -PROLOGUE-

まず完結しないとみた。

群青バージョン「ザ・キングオブファイターズ FINAL STAGE」見切り発車。

美味しいとこだけ切り貼りすることになるかも、です。

途中出てくる「道標」なる表現なんですが、
……説明する前にこっちで出てきちゃった……。

別の話でそれの解説してるんですけどね……。

ああ……。書き終わってない……。

何を今更とはいえ、ほとんどオリジナルストーリーと化してるし。

設定も、各キャラのプロフィールくらいしかオフィシャルに準拠してないし。

ストーリーも、大体のすじみちだけは通ってますが

「どういう展開になるか」までは作者も把握してないという。

こんな話が果たして完結するだろうか。いや、しない(反語)。

一つだけ言えるのは、庵は絶対殺さないということ。

どんなに辛い目にあっても。

夕闇を抜け、帰宅の途についていた彼女の前に、栗色の髪をした、可愛らしいとさえ表現できる少年が立っていた。歩道わきに所在無げにたたずんでいた少年は、キングを目に入れると嬉しそうに駆け寄ってきた。

「キングさんですね!?初めまして、僕、クリスっていいます!うわあ、お会いできて嬉しいです!」

頬を上気させ、クリスは声をはずませる。少年はおずおずと右手を差し出した。キングは歩みを止め、不思議そうながら微笑んでみせた。

「初めまして、クリス?キングは私だけど、何の御用かな」

その微笑に耳まで真っ赤になり、クリスはぱっとうつむいてしまった。元から舌足らずの感がある口調が更にしどろもどろになる。

「あ、あのう、僕……わあ、ごめんなさい!ええと、ファンです……前の試合、見ました!ずっと憧れてました、キングさんみたいな人がお姉さんだったら嬉しいなあって……」

もじもじとうつむいたまま両の指を胸の前でもてあそんでいるクリスの存在に得心し、キングはようやく左手を差し出した。利き腕を差し出さないところあたり、彼女の中の格闘家を感じさせる。

「嬉しいな、わざわざ会いに来てくれたんだ。また何かあったら応援よろしくね」

にっこり笑ってやると、クリスは顔をあげてキングの顔と白い手に忙しく視線を走らせた。少年の表情がほころぶ。慌てたように何度かシャツで左手を拭い、それを差し出して彼女のそれをそっと握る。

「うわー、うわー、嬉しいですー……えへへ、自慢しちゃお」

緊張しているのか、クリスの手は小さく震えている。握手を終わらせてからも、嬉しそうに彼女の温もりの残った手のひらを眺めている姿を微笑ましく見守る。

少年は視線を手に落としたまま、言葉を紡ぎ出した。

「キングさんて、ほんとに綺麗で優しくて素敵な方ですね!ただの人にしておくのが惜しいくらいですよ、師様もどうして捨て置かれたんでしょう。僕にはわからないや」

軽やかな笑みさえまとって、少年の顔があがる。深い青の綺麗な瞳がキングを見すえる。

その瞳が、微笑む。何か正体の知れないものを伴って。指先も動かせず、声も発せない彼女をとらえて笑う。

「あなたがもっと僕らに近づけるように、あなたがもっと神聖なものになれるようにしてあげますよ。あなたは人なんかやってちゃいけないんですから……」

クリスと名乗った少年が、底の知れない笑みを唇にはいた。悪意も害意も、そこにはなかった。

視線だけでかろうじて何故を問う。答えは起こらない。

クリスは無言でキングの手を軽く引いた。彼女の意志の制御を離れた体が、バランスを崩されてぐらりと傾ぐ。

倒れる──。

思ったそれは、実現しなかった。

「あらあら、大変。貧血かしら、大丈夫?」

肩を抱き止められる。心配するような響きの女の声。かろうじて視界に入ったのは、赤い長い前髪。彼女の知る者のものではない。彼女の知る髪の赤は人工的な染料の出すそれだったが、これは生まれもってのものと知れた。

「シェルミー、キングさん倒れちゃったんだよ。病院に行かなくちゃ駄目かなあ」

「そいつは大変だ。急いで行かないと……な!」

そういえば、クリスのずっと向こうでこちらを微笑ましげに見ていた二つの姿。連れだろうか、としか考えなかった。

どのようなトリックか、体の自由を奪われたうえ、前後を長い髪を後ろで変化二つ結びにした女と真っ白く脱色した短髪の男に挟まれるような形になって彼女はたじろいだ。その時間が実に短かったにしても。

とッ、とシェルミーと呼ばれた女の手刀が無駄のない動きで鋭く入った。身動きできず、急所を逸らすこともできずに綺麗に手刀をもらってしまい、キングは意識を手放した。

かくり、と弛緩した華奢な体を、白い髪の大男が注意深くとらえる。

「社、社、早く行こ!心配だもん」

「クリスはこのおネエさん好きだもんなー、そりゃ心配もするよなー」

茶化すように社と呼ばれた大男が言うと、クリスは頬を染めてぷうとふくれた。

「何だよう、社もシェルミーも心配じゃないの!?」

「そんなことないわよ、クリス。社も、仲良すぎよ」

「おっと、そーりゃ心配さあ。何しろ……」

呵々と笑いながらクリスの栗色の髪をわしゃわしゃとなでる。クリスは髪をかばうように半歩下がり、不服を訴えるように軽く唇をとがらせた。シェルミーがなだめるようにクリスの肩に手をおく。

クリスの頭から手をはずし、片手で抱いたキングの肩にそれを重ねる。たったそれだけながら、彼女に対する社の所作は大切なものにするように丁重だった。

厳かに、二人に聞かせる。

「何しろ、世界にたった一人の『道標』だからな」

夕闇が、夜の闇にのまれていく。

雑踏にまぎれて、非常に目立つはずの4つの姿が消え失せた。

同時刻、勤務先より帰宅途中のキングが完全に消息を絶った。

破滅が、はじまる。

Author's Note

アップは1997.12.7です。

見切り発車と言いつつ続いてないあたり、ウゴウゴルーガをホーフツとしますね(苦笑)。スタートさせてしまえば続くんじゃないかと思ったのは甘かったみたいです。

これだと社かっこいいのに……。他のだと微妙にいじめられているのは何故……。社、好きなのに……。

「核家族なバンドチーム」をTの影武者さんにお見せしたくてアップしました。お気に召していただけたようだったので、もうそれだけでいいや(笑)。

キング=道標(どうひょう)のくだりですとか、これ一本じゃストーリー全然わかんないですよねえ……。なんとかしないとなあ……。

「みちしるべ」、っていうのは方向とか道のりを示すものなんですが、「めじるし」という意味で使ってます。字面通りの「道標」でもいいんですが、そっちの意味が生きてくるのはほんとに後のほうなうえに表面に出るかどうか(汗)。