女神の揺籃-YOURAN '95・England

そうだよ、これがなきゃ始まらないんだ。

gunjoの記念すべきKOFネタ第一号を謹んで上梓いたします。

場違いなことにホームページ「庵の部屋」で
やかましく主張していた(その節は済みませんでした)
「庵&キング(ちょっぴりアダルティー。うふっ)」
「惰弱な八神」等をつめこんどります。

内容は、本当に上記以外の何でもないですね(はう)。

庵がキングに出会って、
その女王様ぶりにK.Oされた話でしかないあたり。

優しくて情緒不安定な八神(爆死)の予定だったんだけどな。

本当、「オフィシャル設定なんて怖くないやいっ」って感じです。

キングが思いっきり女言葉(…笑?)なのは
彼女はTPOに応じて言葉遣いをかえているということに。

年代的にはたぶん’95の大会中、もしくは直後くらいでは
ないかと思われますが詳しくは不明(笑)。

面白がっていただけたら幸いです。

しなやかで美しい、黒い獣のような男だった。冷酷な言い回しも、恐ろしいほどの技の切れも、すべてが美しく完成されて彼を彩っていた。

だが、その中でも一際美しくさえ見えた狂気は、彼女に嫌悪とわずかな哀れみを抱かせた。一人きりで牙を剥き、低く唸っていた強く美しい獣は、なぜだか悲しく見えた。

美しい黒い獣は、名を八神庵といった。

美しく、気高く、そして彼女は誰よりも強かった。傷を負い血を流しても、それが彼女を汚すことは決してなかった。

初めて見たときはその美貌に感嘆した。そしてその強さに息を飲み、傲岸なまでの誇り高さに陶酔のようなものさえ感じた。

何の気まぐれか地に舞い降りた美神は、跪いた彼が恭しくその白い手をとりそっと接吻するのを見届けると、彼のために優しく微笑んだ。

その女神の名を彼は知らない。彼女が告げたのは、キングという通り名ひとつだけだった。

キングサイズのベッドの上、彼女はみずみずしい肢体をあらわに起き直った。短めの金髪を手ぐしで整え、スタンドからあふれる柔らかい光の中、かたわらで横たわる男の赤い前髪をそっとかきあげてやる。と、彼はその手をとらえて軽くくちづけた。

どちらからともなく穏やかな笑みがこぼれる。彼女は白い手で男の頬に触れた。それに己の手をかさねると、彼は言葉を紡いだ。

「何だ?……キング」

やさしくひびく低い声が耳に心地よい。この同じ男が、相手を紅蓮に染めあげて「そのまま死ね」とまで言い捨てるとは、にわかには考えづらいことだった。

「どうしたんだ、黙ったままで……」

不安そうな光さえ瞳に宿し、庵は尋ねてくる。キングは気を取り直して微笑み、指でそっと庵の唇をなぞってやった。

「つまらない事を考えていただけよ、ごめんなさいね?ヨオリ」

イオリ、と発音できない彼女だったが、最初はユリとの違いを区別することができなかったのである。それに比べれば格段の進歩だったし、愛情をこめ彼だけを示す単語として彼女の声帯から発せられるその言葉を、庵は気に入っていた。

「つまらない事?」

庵もベッドの上に起き上がり、同じ言葉を繰り返す。キングの手を頬にあてたまま、温もりを愛しむようにそれをなでる。

「そうよ、私がヨオリの子供が欲しい、なんて言ったら驚くでしょう?ヨオリはまだ19歳なんですもの」

彼がその言葉を聞いてから意味を理解するまでにはやや時差があった。理解してからも心底意外だったらしく、彼は言葉も出ずにただいそがしく瞬きをした。

「ほぉらね、驚いた。ふふ、私は未婚の母でも全然構わないけど、ヨオリはねぇ?まだパパになんてなりたくないでしょう?」

深刻な顔になってしまった庵に、キングも少し困った。彼はこれで結構冷静なまま思考を暴走させるきらいがあるのである。下手をすると、考え抜いた結果慰謝料くらい置いていきかねない。

「大丈夫よ?ちゃんと薬も飲んでるし、避妊もしてるんだから」

心配しなくていいのよ……。

笑ってそう言うと、キングは空いているほうの手で庵の頬を軽くつまんだ。庵がその手にまた自分の手を伸ばす。庵の手が彼女の細い手首をつかんだのを感じてから、キングは庵の唇に自分のそれをかさねてやった。

庵はいつになく強く彼女の体を抱きしめた。白い肌の温もりにつつまれていたかった。彼女の優しさがいとおしかった。

甘えるようにくちづけて、金色の髪を何度もなでる。甘えん坊の子犬のように、彼女にすりよって離れたくなかった。

「どうしたの?今日はずいぶん甘えるのね」

「あ……いや……」

おろ、と体を引いた庵に、キングは楽しそうに笑った。

「可愛い子!あなたに甘えてもらえるなんて嬉しいわ、可愛いヨオリ……愛していてよ」

やさしい言葉に、庵はやっと安心したように微笑んだ。

あたたかな胸に抱かれ、溶け合うような錯覚に心をゆだねたままで彼はつぶやいた。

「俺は、俺だろうか……?」

「あら、あなたはあなただわ。抜き身のカタナのようにシャープで繊細なまるで野生の猛獣のような黒い目がとってもチャーミングで素敵な私のヨオリはあなた」

やわらかな声のささやく言葉に庵は柄にもないと言われても仕方ないほど素直に照れていた。照れ隠しにもっともらしく咳払いなどしてみせる。そして彼は深刻な表情になった。

「ときどき……怖くなる……。俺が本当に俺なのか解らなくなって怖くなる何が正しいのか解らなくなって……」

「それで、独りぼっちで泣くのね?」

その言葉は庵から声を失わせた。目の前から手を伸ばし、彼の頬のラインに繊細な白い指を添わせたキングの穏やかな微笑は奇妙に悲しそうで今にも泣き出しそうにさえ見えた。

「そんな、俺は……泣いたり、なんて……」

少しぎこちなく見えるものの、笑みさえ纏って言ってみせた庵の首筋にキングはそっと腕をからませた。思わず華奢な体を抱きしめて、次の瞬間には彼は何かがこらえられなかったことを知ったのだった。

Author's Note

アップは1997.9.24です。

記念すべきKOF小説一本目。思い入れは深いです。

ほんとはもっと長い話なんです。暗くて。最初はこの話から96に飛んで、さらに97に飛んでオロチ神話完結の予定でした。その割にはキングと庵(と“庵”)しか出てこないし(苦笑)。ラストにリョウと京を出すのだけは決まってますが。

庵生きバージョンと死にバージョンとあって、死にバージョンだと誰一人幸せになりません。生きバージョンだとキングと庵はくっついて幸せですが、バージンロードに横たわる累々の屍(苦笑)……。

なにしろ書き始めた時(97年2月当時)は97の設定さえ発表になってませんでしたからねえ。昔の話です。