ch.2.『ギース』
「Raisin'storm!」
ぶわ、と青白い光の柱が沸き上がった。津波のようなそれがビリーを巻き込み、強制的に弾きとばす。
一瞬前までビリーの額があった空間座標を小さな鉛の弾が喰い破り、そして光の渦に飲まれて消えた。
ギースは苦虫を噛み潰したような顔をして小さく吐息した。傍らのリッパーを顎で促してやる。リッパーは頷き、吹っ飛ばされたビリーに駆け寄った。
「連れていけ。話は後だ」
「……Yes, sir」
何が起きたのか理解しきれていないらしいビリーに肩を貸す。
「来い、ビリー……」
「今の、何が……何でだ?俺、ミスはしてねえ……」
リッパーがビリーを連れてエレベーターに向かうのを確認し、ギースは視線を転じた。
銃を手にしたまま座り込んで震えているホッパーに、そっと呼びかけてやる。
「……ホッパー」
呼ばれて、ゆらりと顔を上げる。ゆっくりと首を巡らせ、ホッパーはギースを見上げた。
「……ギース様……」
かちゃん、と乾いた音を立てて、ホッパーの手から離れた銃が床に横たわった。
「ギース様……ギース様……ギース様……」
子供のように涙をこぼし、力無く泣き出したホッパーのそばに腰をかがめてサングラスを外してやる。あやすように目許をなぞるギースの手首をとらえて、ホッパーはうつむいた。その手が震えていた。
「ギース様……兄貴が俺を殺そうとしたなんて嘘ですよね?ビリー兄貴が……ぼくのこと殺そうとするわけなんてないですよね……?」
「ああ。そんなのは夢だ。悪い夢だ、私を信じろ」
「そうですよね。そうですよね、ビリー兄貴が俺を殺そうとするわけありませんよね?そんなの、悪い夢ですよね……」
「Yeah. Trust me」
深い声でのささやきに小さな頷きを返す。ため息のような吐息を繰り返し、ホッパーは伏せた瞼を天へと向けた。
「ただの悪い夢ですよね……」