OLD TIMES STORY

昔話、です。

ずっと昔、彼女に何があったのか。

彼女の救い手だった、背の高い牧師に出逢うより、

もっと早くの出来事です。

慌てて、穴埋めに持ってきたんで、設定が書きっぱなしです。

書いていく上で変更する点、されてる点多々ありますが……。

すみませんです(涙)。

とりあえず何がマズイって、ジャン君の年齢が高くなっちゃうことです。

このままだとキングと二つから六つくらいしか違わなくなっちゃうんですよ。

オフィシャルの彼がいくつなのか、正確なところがわからないのが救いです(涙)。

Blond・fox──金髪のキツネ。そしてもう一つの意味は金髪のイイ女。今の名で呼ばれるようになる以前、二つをかけてそう呼ばれていたことがあった。

母親は娼婦だったらしい。だがまるで覚えていないので、そんなことはどうでもよかった。

母の顔は覚えていない。父の顔は知らない。一番古い記憶は、おそらく父親の違うであろう弟と二人、寒さと飢えに悲しくて恐ろしくて震えていたことだった。

そんな二人を、奇特なアジア系旅行者が引き取っていった。

幸せでなかった訳ではなかった。男はなかなかに裕福だったし、体の強くない弟と二人、広大なアメリカののんびりとした田舎町で大した病もなく暮らせたのだから。

武術を嗜んだらしいその奇特な男は、少女に己の持つ技術を教えた。少女の才能を見抜いたらしく、またその判断は正しかった。少女は華奢な躯にそれらを残さず吸収していった。

男は本当に優しかった。自らの子のように、その姉弟をいとしんだ。

だがある日、男は道を踏み外した。金の髪と蒼氷色の瞳の美しさに、男は我を忘れた。幼い少女の泣く声も、男を止められなかった。

幼い心と体に深い傷を受けながら、少女は気丈にふるまった。それでも彼女は男を父と慕っていたし、それさえ除けば男は少女にも少年にも本当に優しかった。

あやういバランスで日々が重なってゆき、そしてすべての破綻が訪れた。

男が風邪をひいて寝込んでいた少年に暴行を加えたのだ。

姉のものよりやや淡い白金髪に、やや濃い藍色の瞳。姉と似通った美しい少年は、事実を察し蒼白になって震えている優しい姉に、消え入りそうな声で訴えた。

『ねえさん、平気だよ。僕だったら大丈夫。心配しないで。そんな顔しないで。僕は平気だから……』

こわれそうなその笑顔が、少女には何よりいとしく思えた。小さく繊細でか弱い大切な弟を踏みにじられたことに、彼女は激しい怒りと憎悪をおぼえていた。

男としては本望だったのかもしれない。少女は男の持てる技のすべてを吸収しており、そのときすでに男を越えていたのかもしれないのだから。

男を半殺しの目に合わせ、──少年が泣いて止めなければきっと殺していただろう──その日のうちに二人は暮らした家を出た。

どこをどう流れたころか、少年が体をこわした。もともと体の強くない彼である。ろくな食事も休息もとらない放浪の旅ゆえ、無理もなかった。

薬も医者にかかる金もなく、途方にくれて少女は小さな修道院に立ち寄った。そこで修道女たちの優しさに触れ、望むのならここにいても良いとの言葉を受けた彼女は、弟を預けることにした。連れて歩くよりは安全だろうと判断した上でのつらい選択だった。

お金を貯めて、必ず迎えに行くから。弟にそう言って聞かせ、少女は修道院を抜け出した。

どれほどの時間が流れたのか。幼すぎた少女がまっとうな職につけるはずもなかったが、彼女はいつしかストリートでも名の知れた存在となった。

義父であった男に発見されるのを恐れて本名を隠し、弟がほめた金の髪から“ブロンド”と名乗ってはいたが、そのしなやかな身のこなし、年齢ばなれした強さと美貌を誇った彼女についたふたつ名が“ブロンド・フォックス”だった。

ある時、当時闇社会での勢力争いに加わっていた若手の者がそのフォックスの名に興味を示した。

サングラスを愛用する体格の良い男は、わざわざ彼女の所へ出向いてくるとこう言った。

『俺んとこ来ないか?弟と一緒に暮らせるくらいの給料は出すぜ、……それに女の子なんだからもう少し綺麗な格好しなくちゃな……』

BIGと名乗ったその男に、なぜああも素直に従ったのかはわからない。

そしてBIGの屋敷の一角に住まうことになり、さてどうなるかと思いきや、予想に反して男は彼女をきな臭い部類の仕事に一切かかわらせなかった。代わりにメイドのまねごとのようなことをさせ、どういうつもりか家庭教師をつけて勉強させた。彼女のファイティングスタイルを見てムエタイの師匠までつけてやり、多忙な身のはずがわざわざ顔を見に来ては“イイ女になれよッ”などと言い置いて去っていく。

どうやら一兵隊としてスカウトに行ったはずが、本物のブロンド・フォックスを見て自分好みの女に仕立てる気になったらしく、彼女に関してBIGは実に惜しみない投資を行っていた。

そのくせBIGは、彼女が自分の歓心を買おうとして行動することをひどく嫌い、前もってこうきつく言い渡した。

『俺相手じゃなくてもだ。絶対に膝を屈するな、誇り高くあれ!それは傲慢になるのとは違う、いいか……おまえは世界で一番美しくて強い、今はまだまだお子様だがそいつは俺が保証してやる。見てろよ、俺は世界一の男になる。だからおまえは世界一のイイ女になれ、待っててやるから……』

男は、少女が自分の本気の威圧にも動じずに胸を張って立っているような凛々しい女に成長することを望んでいたらしかった。

そして、男の望みはまさに成就したのである。

美しく成長しながらそれをあらわにすることを望まず、さながら類を見ない美青年のように振る舞うようになっていたブロンドは、法的に成人を迎えることとなる年、雇用主兼保護者であるBIGに面会を求めた。プライベートルームに通され、すすめられた椅子を丁寧に断ると彼女は用件を切り出した。

「……弟と暮らしたいの。だからどこかに部屋を借りてここを出て行きたいんだけど……」

あっさり許されるとは思っていないのか、口調は歯切れが悪い。途切れた彼女の言葉をついで、BIGは短く言葉を発した。

「ダメだ、と言ったら?」

穏やかな響きしか有さないその言葉に弾かれたように顔を上げ、彼女は窒息しそうな圧迫感をおぼえた。

BIGのそんな表情を、彼女は見たことがなかった。表情は誤解しようもなく楽しげに笑っているはずなのに、押し潰されそうな重圧を感じさせるサングラス越しの目に見つめられ、彼女は猛烈な恐怖を感じていた。

ひざががくがくと震えた。声が喉の奥にはりついて、呼吸がままならない。

真っ青になって震えながらも、何か言おうとして口を開閉させるが声を出すことができないでいる彼女を見つめながら、BIGは内心冷ややかに相手を値踏みしていた。

彼はブロンドという苗に与えうる限りの栄養を与えて育ててきた。もしこれで俺を失望させたなら。……せっかくの美貌を生かし、せいぜい客をとって稼いでもらおう。

つまらん結末だ、やはり道楽に過ぎなかったか。そう思ったBIGが眉をひそめかけた瞬間だった。

「……ジャンが、待ってるのよ」

消え入りそうなかすれ声だった。かたかたと震えながら、彼女はすう、と息を吸い込んだ。

「必ず迎えに行くって言ったのよ、私。絶対……絶対譲らない」

白い肌が青くなるほどの重圧の中、彼女は蒼い目をまっすぐ男に向けていた。

少しでも気を抜けば笑い出す膝をねじふせ、今すぐ倒れてもおかしくないほど真っ青な顔をしながらも、彼女は決してうつむかなかった。視線をそらさなかった。

男は、満足そうに笑みを浮かべた。

「よし。行け」

唐突に思えたほどの寛大な言葉に、美しい金髪の下で彼女はあっけにとられたような顔をした。立ち尽くす彼女を尻目に、BIGは椅子から腰を上げると楽しそうに部屋の中を歩き回った。

「そうだな、どこがいいか……アメリカもいいけどな、ヨーロッパはどうだ?フランスに戻るなんてなどうだ、なかなかハッピーな国だからな。メシも美味いし……」

「ちょ……待ってよ、ねえ」

限界を遥かに超えたプレッシャーに堪え続けて疲労困憊ながら、男があまりにも嬉しそうなのに一抹の不安を覚えて彼女はおそるおそる呼びかけた。が、すでにその耳には何も聞こえていない。

「Oh!グッドアイディアだぜ、聞きたいか?」

「……ぜひ」

すでに彼女に追及の手を伸ばす体力は残っていなかった。さも名案と言いたげに、男は人差し指を立ててみせた。

「お前ヴェジタリアンだろ?世界中の野菜料理知ってるよな。それだよ、眠らせとくには惜しい特技だと思うぜ?メシ食わせる仕事しろよ、な?となるとイギリスだな、あの国は美味い料理がないから絶対繁盛するぜ」

よおおし決まったあと宣言するや否や、BIGは受話器を取っていた。早々に国外物件を扱う不動産屋に連絡をつけさせ、女の方を振り返る。邪気なく笑うその顔に、悪気はかけらも見られない。

「O.K.だろ?」

それ以外の答えなど思ってもいない様子で親指を立ててみせる男に、彼女は。

がっくりと肩を落とし、何も言わないという方法で異存がないことをあらわしたのだった。

Author's Note

アップは1998.4.9です。

……キングの誕生日なのに、間に合わなかった……。ので、別に書きためておいた小説の中で書き足さなくて良さそうなものをピックアップしてみました。ちと、せつないです。まあ自業自得。

『昔話』ということで、ほんとに昔の彼女を書いてみた話です。ティーンですティーン(笑)。キング18才まで。

オフィシャルに沿うと、またいろいろあるんですが。まあその辺はおまかせあれです(ニヤリ)。理由は後からいくらでもつけられますからねえ(くす)。こじつけは得意でした、中学ときから(笑)。

唯一の問題が、『これ』を基点にするとジャン君の年がずれてしまうこと。これだけ、許してくださいませ。まあキングならともかくジャン君の年ははっきり書くつもりありませんしねえ(苦笑)。……気にする方、います?