SAKAZAKI MEMORIAL

はい、一部で大人気(笑)の「さかめも」です。

朴訥剛毅で純情リョウサカ、確かに他の誰とも違いますね。

オフィシャルではこの二人、キングの片思いだとか。

しかしここは「QUEEN'S PALACE」。

その意味をどうぞお感じ下さい。

わりと平穏な昼下がりであった。極限流チームに組み込まれてしまったことにぶうぶう文句を言いながらも稽古に励んでいたユリに、同じく稽古に精を出していたリョウが何げなく尋ねたその一言が発端だった。

「なあ、ユリ。おまえキングさんと同じチームだったろ?」

「うん、そーよ。ほんとなら同じチームなのよっ」

じろりと視線を向けられる。そして気づけばロバートが避難をすませているあたり、彼はちょっとまずかったかなあと思った。

「で、何?」

促され、リョウは特に考えなくふとわいた疑問を口にした。

「あれってひとチームに三人部屋ひとつだったよな、確か」

彼女日本人二人と一緒だったのか大変だったなと続けるより早く、ユリはすごいことを口にした。

「スリーサイズは知らないけどナイスバディよ、舞さんもそうなの、一緒におフロ入ったんだけど私一人でずん胴だしちょうやんなっちゃう……どしたのお兄ちゃん」

その台詞につい固まってしまった若気の至りが約二名。

「……いやそうでなくてな」

「あっ、違うの?えーじゃあネグリジェの色とか?お兄ちゃんてばムッツリスケベー」

「なっ何を言うっ!失敬な!」

ユリちゃんクマのプリントのパジャマなんかよう似合うと思うで、そーなのユリもちょうお気に入りー、などと言っている妹と友を横目に、リョウはちょっぴり孤独だった。

「でもねえ、キングさんってすごいのよー?あのね、……」

ユリに何事か耳打ちされ、ロバートは思わず声を大にして叫んでしまった。

「へ?き、着てはらへん!?ってそれってユリちゃん、あの(ねえ)さんすっぽんぽんで寝てはるんか?」

「そーなの、なんか毎朝ドキドキしちゃってえ、でもなんかすごくサマになってるっていうかかっこよくって映画みたいなの。憧れちゃうなあっ」

キラキラを背負ってしまったユリであった。そのユリに、いいやユリちゃんはクマのパジャマが一番似合うとる心配せんでもええんやで、とフォローだか何だかわからない言葉をかけるロバートの真剣な姿に、リョウはラテンの血を見た。ロバートはロバートで、何かに取りつかれたかのような勢いで軽く普段の倍はありそうな自主メニューをこなしていくリョウに若い血を感じた。

「若いのお、リョウ」

「ほっといてくれぇっ!うおぉぉ稽古だ稽古ォ!」

当分これで遊べるな、と思いつつ、ロバートはユリに尋ねた。

「なあ、ユリちゃん。リョウのやつ、彼女とかおったん?」

「うーん……いや、お兄ちゃんて結構モテるんだけど……ほら、稽古バカだしさ、何つーか扱いわかってないってカンジ?」

「ああ、なるほどな」

かわいそうになあ、と言うロバートは、決してリョウに同情していなかった。リョウのような朴念仁を好きになって悲しい思いをするならば、最初から俺のところに来ていれば良いものを。それなら少なくともリョウのように彼女たちを泣かせることは絶対しないのに、と考えるロバートは、まさしくイタリアーノであった。

「それにしてもお兄ちゃん何聞きたかったんだろ」

この悪魔のような天真爛漫さというか天衣無縫さというか、リョウやタクマなどに言わせれば何も考えてないだけではないかというユリの言葉に、ロバートは肩をすくめて笑った。

……そこが良いのだ、かわいくて。

「どうせたいしたことちゃうやろ、昼飯にしよか」

「そーだね、じゃあお兄ちゃん、先に戻ってるからね」

二人に置いていかれてしまっても、リョウはしばらく一人で吠えていたのだった。

彼らが呼び寄せられた極限流日本本部こと総帥宅、平たく言えばタクマの屋敷は広い。リョウやユリが通学時代に使っていた事務所を兼ねた首都圏の上屋敷も広かったが、都市の雑踏を離れ、かつ本格的な道場を備えた下屋敷の広さといったらばかばかしかった。いわゆる旧家というやつで、家も広ければ敷地も広く、比例して住人も多いかといえばそんなことは決してなかった。

一個人の家にあってはいけないようなばか広い露天風呂につかり、ふと星空を眺めてリョウは長くため息をついた。そのまま口元まで沈んでしまい、ぶくぶくと泡を作る。

「なんやねん、シャキッとせえシャキッと。どないしたんや昼間っからそんな調子やったけど」

少し遅れて湯船につかったロバートの鬱陶しそうな声にようやく振り返ったリョウの顔は、今日一日でずいぶん疲れていた。無理もないといえば無理もないが、たかが一日の稽古で疲れを見せるリョウではない。

「どないしたんや、ほんまに?調子でも悪いんか」

「いや、そんなことはないが……はああああ」

「あっこら待たんかリョウ!沈没してどないすねん、家のフロで溺れて死んだら極限流の恥さらしやんか!」

ロバートに救出されても、リョウらしくない陰鬱なため息は止まらなかった。

「っかー!なんやねんっちゅーとるんや!聞いとるんやさかい答えたらどや、ええ!?」

「……ロバートにはわからないよ」

「わからへんから聞いとるんやろが、寝ぼけとるんちゃうかおのれは!一体何をウジウジぐだぐだやってんねや、お前らしくもない!」

ロバートの叱咤にも聞く耳を持たず、ぷいとそっぽを向いてしまう。まったくリョウらしくなく、リョウは不機嫌だった。同じくむっとして黙りこんだロバートだったが、ある考えに思い当たると彼は人の悪い笑みを浮かべた。

「……はっはーん……おなごやろ」

「なっ……何を根拠にっ」

「あ、やっぱりそうなんやな?誰やねん誰やねん、言うたらんかい、え?未来の弟に隠し事ナシやで」

弟云々のくだりに引っ掛かりは感じたが、すでに会話のペースは嬉しそうなロバートのものだった。実際ロバートの指摘は正しかったため、下手に反論もできない。

「なんや、教えてくれんのか?よぉし、このロバートさんが当てたろやないか。そうやなぁ……キングさん」

「なっ……!?俺はそんな事一言だって!」

声をひそめるロバートに、真っ赤になって言い返す。するとロバートはしてやったりとばかりの笑みを見せた。

「……の、弟さん、はよう足治るとええなあ、リョウ?」

ものの見事にひっかかってしまったリョウだった。やり場のない怒りを握りしめたこぶしにこめてみるも、気休めにもならなかった。

「あん時惚れたんか?ま、わいもあのキングさんが涙ながして喜んでくれるとは意外やったけど」

リョウは天井を見上げ、観念したように息を吐き出した。

「元気で、いるだろうか……」

せつなくつぶやくリョウに、ロバートは内心ヤバいわ目が遠いわ本気やなコイツと思ったが、口には出さなかった。

「元気とちゃうってこともないやろ、けど大会も出てこれるんかようわからんしなあ」

「そうなんだよなあ……ユリをこっちに引き入れちゃったばっかりに……」

ため息ばかりのリョウは、実際珍しくも落ち込んでいるようだった。恋心やなーええなー青春やなーなどと言ってやりたかったが、おそらく今のリョウには励ましには聞こえないであろう。

確かにリョウはいいやつである。無論万人に勧めるつもりはないが、それに関してはロバートも保証してよかった。そりゃ多少朴念仁なところはあるし稽古バカだし冗談は通じないが、それでもロバートのリョウとの付き合いはもうずいぶん続いていた。彼はこと男に対しては決して甘い人間ではなかった。

しかしリョウもリョウである。この期に及んでというかなんというか、何を今更という気がしなくもない。親密なものではなかったが、彼女との付き合いもまたずいぶんと長いものだった。

初めて会ったのはもうかなり前である。かれこれ三・四年は昔であったか、Mr.BIGにユリが誘拐されたとき、BIGの用心棒の一人として雇われていたのが彼女だった。そしてユリを助け出してくれたのも、また彼女だったのである。

キングの美貌は当時から変わらない。だが当時のリョウはよほどユリが心配だったと見え、彼女に対して障害物以上の認識を持たなかった。あれほどの美女に対しての毅然とした態度に、こいつは思った以上の硬派であったかと思っていればこうである。まことリョウは筋金入りの朴念仁であった。

ロバートの考えていることがうすうす読めたのか、リョウはもごもごと言い訳した。

「だってロバート……彼女あんなに美人だったか?」

「何言うてるんや、キングさんは初めて会うた時からずうぅーっと別嬪さんやで」

「そりゃそうだが……何というか、あんなにもまぶしい人だったろうか」

「……はー、恋しとるのおリョウよ」

めろめろやな、と思いながらもその言葉に意表をつかれる。そう言われてみれば、かつての人を寄せ付けない氷の美貌は、一瞬息を飲むほどの華やいだ笑顔を纏うようになっていた。

「けど、確かにあんなふうに笑う人やなかったな」

そう言うロバートは、彼女の脱皮に心当たりがないでもなかった。それに彼女に限ったことでもない。

恋は女を飛躍的に美しくする。そしてキングほどの女性を男が放っておく訳はないのである。彼女ならば恋人の五人や十人、すべて髪と目の色を違えて常にそろえておくこともたやすいだろう。

しかしそれが事実であったとしても、それをリョウに告げるべきか。表に出さず考えていたロバートに、リョウは独り言のように聞かせた。

「恋人が、あるのだろうな……」

やはりたやすく想像がつくものらしい。せつない思いに身を焦がしている事実は、当のリョウにも意外であった。

「……つらいよ、ロバート」

リョウはうつむき、つぶやいた。

「心が痛むんだ、苦しくて……心配でたまらない。元気でいるだろうか、何か困りごとは起きていないだろうか、今何をしているのか……止まらないんだ、どうすればいい?」

これ以上ないほどの深刻な目をして尋ねるリョウに、ロバートはただ肩をたたいてやることしかできなかった。

「せつないな、ほんませつないなあ……。わいが味方したるさかい、頑張れな、リョウ」

ジャパニーズな恋の迂遠さには時折苛立ちさえ感じるが、その迂遠さこそ恋の醍醐味ともいえるだろう。リョウの恋を邪魔する理由はロバートにはない。その限り、彼はいくらでもリョウに親身になれる。

「とにかく今のままじゃあかん、このままじゃ“ユリちゃんのお兄さん”で終わってまうからな、何とかしてお近づきにならな。“イリュージョン”のバウンサー買って出るなんてのどや?」

「馬鹿言え、彼女がマスターなんだぞ?俺に負けるような客に彼女が負けるわけがない」

「とは言うてもや、何もせんて訳にもいかんやろ」

キングが経営するイギリスのバー、“イリュージョン”。高層ビルの最上階に位置するそこに、そもそも乱闘の香りはない。が、彼女がキングオブファイターズの大会出場者だと知れたら話は変わる。彼女を倒して名を上げようと考える輩が現れるに違いなかった。

それに用心棒ならば朴念仁のリョウにもできる。それに関してリョウが身につけるべき特別なスキルはせいぜい英国風の品のいい英会話くらいだし、追ってより熟練する必要はあるとはいえ当座は会話も限られている。これはなかなかの名案であった。

「悪くないアイデアだとは思うが……」

「そうやろそうやろ、それやったらやっぱり強くなきゃあかんな。うんと強い用心棒でないと彼女が仕事に専念できへんよってな」

「そう……だな、次の大会では優勝を狙える程度にはしないとな」

ようやく表情がほぐれてきたリョウに、ロバートは力強く頷き満面の笑顔で答えてやった。

「その意気や、優勝いただいたろやないか!な、リョウ?」

Author's Note

アップは1997.9.23です。

確か『女神の揺籃'95』の次くらいに古い小説です。龍虎の拳やったことないわ、龍虎チーム使ったことないわ、もうさんざんでした(笑)。だからリョウがキングのこと「さん」づけで呼んでたりするんです(苦笑)。

ネオフリやらゲーワーやら読んでたら、キングとリョウをカップル扱いしてるイラストがけっこうあったんで、何の疑問も持たずに「この二人はセットらしいぞ」と刷り込まれてしまいました(笑)。でもゲーム上でそういう表現はされてないし(援護相性は96から双方最高値でしたが。95は資料が無いので不明)、オフィシャルじゃあキングの片思い……。ぼかーSNKに火ィ着けにいったろかと思いましたね。ええ、もちろん個人的な趣味で「リョウの片思い」に決定しましたとも。

日本男児は忍ぶ恋が華でございましょう!あんまり忍んでないとか純粋には日本男児じゃないとかいうご意見多々ございましょうが、華なんですってば。