戦闘1/イリュージョン店内にて Mr. BIG

彼の採った方法はシンプルかつストレートだった。来店するなり真っすぐに定位置のカウンター中央に陣取って、ニカっと笑ってサングラス越しに尋ねる。

「チョコレート、用意してんだってな?」

ひねりも何もあったものではないその問いかけに、キングはにっこり微笑んでみせた。間髪おかず、完璧な笑顔が回答する。

「うん、そう。お店に来てくださるお客様に、せめてものお礼」

直球勝負には直球が返されたかのように思われた。だが、それは男の手元で見事な変化を遂げてみせた。

「……忙しいのに、たびたび来てくれてありがとう。嬉しいわ」

微妙に営業用スマイルではあるが、短く店内を見渡して回りの様子を伺うと、彼女は他の客の目につかないように小さな箱に軽くくちづけた。某有名お菓子ブランドのロゴの上に甘いベージュピンクの花を咲かせた、かわいらしくリボンをかけられて綺麗に包装された小箱をそっと男の前にすべらせる。

男の手の中にその箱がおさまったのを見届けて、照れたように彼女は笑った。

「また来てね。新しいサービス考えとくわ」

「……おう!」

──Mr.BIG、満足してしまったらしくあっさり戦線離脱。



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