Next DJ Station -前夜-

"「分かっていたわ、京……」

そう言うと庵はかすかに笑みを浮かべた。"

わなわなと震える手で台本を読み進めていた赤毛の青年はそこまで読むと、とうとう吠えた。

「何なんだ! この台本は!!!!!」

「え? 何々、どうしたの?」

ひょいと青年――八神庵――の手元を覗いたのは豊満なバストがこぼれ落ちそうななかなか幸せな……もとい、魅力的なカッコをした女性、不知火舞である。

「あ、ほんとだー。ユリちゃん、マジックとって」

「はい」

マジックをもらった舞は台本の"庵"という文字の後にキュキュッと"子"という文字を付け足した。

「ちがーーーーーう!!!!」

喉から血を吹き飛ばしそうな勢いでまたも庵が吠えた。

「んだよ、っせぇなー、八神」

じつに不機嫌といった様子の万年高校生・草薙京が吐き捨てた。

庵はこの長年の宿敵に黙ってずいっと台本をつきつけた。

不気味な沈黙が流れた。

「ふふふ……貴様、この俺にこんな台詞を言われたいか」

「くっ……おめぇこそ俺にそんな台詞言いてぇのか」

「くくく」

「ははは」

「くくくくくく」

「はははははは」

互いににらみ合って不気味に笑いあっている宿命の二人。

「良かった、お二人とも気に入ってらっしゃるんですね」

と、大自然のおしおき娘が生来の天然ボケを遺憾無く発揮した。

「「誰が気に入るか!!!!!」」

二人の声がはもった。

バタン!!!

そのとき唐突にドアが開いた。

「happyかい?」

そこには天然ハゲが立っていた。

間髪入れず、

「楽には死ねんぞ!!!」

まさか、扉を開けるなり超必が来るとは誰も思いはしまい。紫色の巨大な火柱が無実の男を包み込む。そこへ

「くらいやがれぇぇぇぇぇ!!!!」

きれいに決まった。(※1)

……現在死亡者一名。

(※1)ほんとうは仲いいんじゃねぇか?

黒焦げになったドア周辺を避けて机の周りに集まる一堂。

ここはとあるビルの一室。会議室なのだろうか、かなりの広さがある。

集まっているのは年齢も人種もまちまちな人々。強いて言えばがっちりした人間が多いということだけが一同の共通点であった。さらに言えばとんでもない格好をした人間や時代錯誤としか思えない人間(凶悪なことに彼らは銃刀法違反であった)もいる。

端から見ればかなり怪しげな集団であった。

彼らは実を言えばドラマへの出演を依頼され、集まっているのだが……

「だいたい、二人とも不満が多すぎるんでヤンス」

しゃべっているのは小柄で甲高い声をした男。黒い丸眼鏡に帽子をかぶっている。

「こないだだってKOFがギャルゲーになりかけたかと思うほど女性が増えたのに、あんたが二人も手篭にしてしまうし……」

「八神、そんなことしたのか!!」

「やーん、さいてー、女の敵!!」

「手篭になどしてない! それに、奴等はギャルではない!!」

吠えたとたん、背後に殺気を感じて庵は振り返った。

「八神……少々つきあってもらおうか……」

「八神くーん、お姉さんが気持ち良くしてあ・げ・る」

二人のそれぞれに魅力的な女性から「にっこり」と笑われ、ポンと肩を叩かれたとき、男は己の失言にやっと気がついた。

「あ……これは……」

そのままずるずると引き摺られていく哀れな子羊が一人。

「みさなーん、ちょっと待っててね。わたしたち、彼に用があるの」

「すぐ終わる」

3人は焦げた扉の外へと出ていった。パタンと静かにドアが閉まる。

「ギャルでなくて悪かったわね!」

その台詞が終わるか終わらないかのうちにホーッホーッホッホという甲高い笑い声、ドシン、と何かが壁にぶつかる音、さらに、バタン、バタン、バタン、バタン、バタンと何かが叩き付けられる音がした。(※2)

(※2)八神君は果たして何をされたのか。答えよ。

青ざめた一同がゴクリとつばを飲み込んだとき、扉が静かに開いた。

「お待たせ♪」

「あの……八神は?」

おずおずと京がきいてみた。

「ああ、あの男か」

「ちょっとした事故に遭ったみたい」

「気にするな。おおかたすぐに復活する」

教訓:美しいお姉様を怒らせてはいけない。

……現在 死亡者2名。

「もう、男どもときたらギャルゲー、ギャルゲーってねぇ」

「そうですよね、舞さん、キングさん」

「いや、私はどうでもいいけど……」

「もう、キングさんったらお堅いんだからぁ」

舞、キングは迷惑そうだぞ。

「でもねぇ、実際問題としてここに来る男どもときたら上から下までガキばかりなんだから」

「そうだな、30過ぎたらあれぐらい渋くてもよさそうだが」

とバイスが指差したのは先ほどからの騒ぎに動じることもなくひとり静かに新聞を読んでいるスーツ姿の男。

「ちょ、ちょっと、あれ誰?」

とたんにひそひそ声になる女性陣。

「ちょっと素敵よねぇ」

「でも、あんな人いたっけ? 髪型はロバート似かな」

「けど、あの左目の傷を見る限り相当修羅場をくぐってるよ、あの男」

「さすがキングさん、見るとこが違う」

「なに、もうすぐSNKの人間が来るだろう。そうしたらすぐに分かる。っと、噂をすれば影だな」

バイスの言うとおり扉の所に背広を着た男が一人。

「みなさん、お早いですねぇ。あ、八神さん、困りますよ、こんなところで寝てちゃぁ」

「来たか、悪魔のSNK」

「……草薙さん、次回作、真吾君主役にしましょうか(にっこり)」

「じょ、冗談だよ。決まってるだろ」

もろいな、京。

「時間まであと少しありますから、皆さん、くつろいでいてください」

その言葉にずいと前に出る男がひとり。無敵の龍ことリョウ・サカザキである。

「鍋は?」

「は?」

「鍋は?」

「いや、後で……」

「俺の鍋は?」

「いや、泣かなくても……」

「だましたな? 俺は鍋がたらふく食えると聞いて……」

「え! 鍋でないのぉ? そのときのためにタッパまで用意してきたのに!」

「ユリぃ……」

「お兄ちゃん……」

よよと泣き崩れる悲しき兄妹。

「わ、分かりましたよ、先に鍋やりましょう」

「やったぞ、ユリ!」

「これで1週間おかずに困らなくて済むのね!」(※3)

「ユリぃ!」

「お兄ちゃん!」

歓喜に打ち震える兄妹。

(※3)1週間分入るタッパを持ってきたのか。

「おい、SNKでもロバートでもいいけど、こいつらどうにかしてやれよ……」

ぽつりと京が言った。

「お料理なら、私しますよ。大自然の恵みを利用して体にいい鍋にしますね」

「貴様は触るな!」(※4)

「ちょ、ちょっと、庵、やめなさいよ、ナコルル泣きそうになってるじゃないの! ……あ、ナコルル、こないだは作ってもらったから今度は私たちが、ね? ね?」

(※4)いおりんの反応についてはDJステーション参照。

あわてて取り繕って鍋の用意をする舞。

「ちょっとぉ、みんなも手伝ってよぉ」

「めんどくせぇなぁ」

「仕方ないでやんすねぇ」

「いっちょやってやるか」

ずらりと並んで材料を切り刻んでいる様はなかなか笑える。

「隊長! 行きます!」

「クロスカッター!」

ずごしゃぁ!

「さすがです! いつもながら見事な切れ味!」

「飛び道具でキャベツを切るのはヤ・メ・ロ」

「流れ弾に当たったか、二階堂君。軍人たるもの……」

「俺は軍人じゃねぇ! それに普通の軍人は飛び道具でキャベツを切らねぇだろうが!」(※5)

「何故……切らないの?」

「……あんた、この娘にどういう教育したんだ?」

(※5)というか、普通の軍人は手から飛び道具はでない。

軍人'sと紅丸とのやりとりを見て見ぬふりで舞は各自の進行具合を見て回る。

「あ、うまいじゃないの、チョイ。さすが、元肉屋ねぇ。あらぁ、チャンもうまいもんね」

言われた方はふと手を止めて、二人で顔を見合わせた挙げ句……大粒の涙をこぼして泣き出した。……何かつらいことがあったらしい。(※6)舞はあえて聞かないことにした。

(※6)彼らに何があり、これから何が待ち受けているのか。

「ふう、準備完了!」

「サムスピの連中遅いわねぇ」

「タクシーが遅れてるんじゃないの?」

「そういう問題なの?」

「もう、キングさん、深く考えちゃだめですよ、深く考えちゃ。ね?」

箸を持つ手をふと止めた京がふと口を開いた。

「俺、いい詩が浮かんだ」

「貴様の愚にもつかん詩など誰がきくか!」

「あんだとぉ!」

しかし、この場にいるほとんどが庵と同感であった。

「ふ、それに、貴様より俺の方が上だぞ。俺は作詞に加えて作曲もできる」

「あんだよ、なら一つ作ってみろよ!」

「ひさかたの ひかりのどけき はるのひに きょうをころして こころさわやか」

「……なぜ俳句……」(※7)

(※7)それは短歌だ、京。

それをきいていて黙っちゃいない人間がいた。

「俺の歌を聴けぇ!

♪おーととい きーのうに まーた今日とー

♪つづく いたみーに へやのーなかー

♪ちっとーも はれなーい 胸のうーちー

♪いおりーん 一杯 お水で クイッ

♪いーおりん いーおりん さーわやか はーれた そらー」

(音声がお届けできないのが残念です)(※8)

(※8)歌える君は富山人かもしれない。

「やーん、社、ス・テ・キ」

きさまら、庵がいなくてもバンドの依頼 ねぇよ、と一同が思った瞬間、

「誰ですか! 酒入れたのは!」

「人生、酒無くして何程のものぞってねぇ」

「覇王丸さん、困りますよ、これから打ち合わせしなくちゃいけないんですから。とくに、今日は3種の神器を司る3家とオロチとのシリアスストーリーについて打ち合わせしようと思ってたんですからぁ」

「あ、はいはい、俺にいい案があるで!

19XX年、人類は突如復活した謎の生命体オロチにより滅亡の危機に瀕していた。しかし、ここにオロチを迎え撃つべくさだめられた人間がいた。哀れにダブりまくる京、鬼畜に笑いまくる庵、謎に踊りまくるちづる。人類の命運は彼らの肩にかかっている。果たして、人類は生き残れるのか? 人類滅亡の日まであと1244日! 」

「ちょっと待て、ケンスウ……」

「何なのよ、"謎に踊りまくる"って!?」

「あ、気づいちゃった?」

ケンスウがエヘッっと頭に手をやったとたん、

「これが見切れて!」

「これが草薙の拳だ!」

「あそびは終わりだ!」

見事な連撃。しかし、そこまでせんでも……

「ほな、さいなら〜……」

負け台詞さえ息も絶え絶えであるが、ちゃんと言いきった根性は見上げたものである。

ビリー・カーンが現れたのはそんな宴もたけなわの時だった。

扉を開けたとたん、硬直する。

哀れだな、ビリー。先に酔っ払われたときほどつらいものはないぞ。

「あ、ハゲ」

「こらこら、ユリ。はっきり言ったらだめだ。失礼だろ?」

「俺はハゲてねぇ! 対戦で見ただろ!」

「え? カツラじゃなかったのか? 俺はスペシャルにゲスト出演したときからてっきり……」

「リョウサカぁぁぁ」

ビリーが低くうめいた。

とつぜん、ラルフが走った。ビリーのバンダナをはぎとり、勝ち誇って、

「うらぁ! ズラじゃねぇんだ、コラぁ!」

ゴスッ!

いきなり伸びた三節棍がラルフのあごに決まった。

「何をやっているんだ、ビリー」

ビリーに続いて現れたのは……

「ギース! テリーさんがビルから突き落としたって聞いてたのに?!」

「あれは偽者だ」

「なんてこと?!」

つーか、偽者でなくても復活するぞ。ほら、アテナ、餓狼の面々が諦め顔に肯いてるじゃないか。

「……ギースを見分ける言い方法がある」

とつぜん、アンディが口を開いた。いやに自信が有りそうである。

「ギース!」

「なんだ?」

「ビリーが登場するときお前に言う台詞は!」

「I miss you, sweet hunnyだ」(※9)

「キャラが違うだろう、このおやじが!」

「説明しよう! I miss you, sweet hunnyは餓狼伝説のダック・キングの台詞で、ギースと同じ、コング桑田さんが演じているのだ!」

(※9)本当は本物なら「よろしくおねがいします」、偽者なら「I'm gonna bust you so bad.」である。一瞬で見分けるあたり、ただ者ではない。

「ま、舞、あんた、誰に向かってしゃべってるんだい?」

「やだなー、キングさん、お約束ですよ、お・や・く・そ・く。ねー、ユリちゃん」

「……日本には変わった約束があるのね」

違うぞ、キング。

「ビリー、何カリカリしれんだよ。あ、もしかして……」

爆裂能天気男・丈東、、いやに真面目にポンとビリーの肩に手を置くと、

「……あの日か?」

ガスッ!

そっこう、三節棍がとんだ。

「あんだよ! 軽いジョークじゃねーかよ!」

「笑えねぇんだよ、貴様のジョークは!」

それまで考え込んでいたアンディが口を開いた。

「ビリーと丈とLで」

「ビリー・ジョエルとかいったらマジ殺す」

「ごめん」

素直に謝られてビリーの三節棍は行き場を失った。とりあえず、壁を破壊している。かなりストレスが溜まった模様である。

「怒ゲージつけてみたいところね」

そっと舞が言った。

「えー、みなさんおくつろぎの所……」

「くつろいでるように見えるか! そもそも、このメンツでくつろげるか!!」

「そうだ、この万年留年男を俺の目の届かんところにやらない限り、俺は帰る! あと、台本をどうにかしろ!」

「あんだと! 主人公は俺だろう!」

「は! 俺の方が人気がある!」

あ、言ってはいけないことを!! ぐっと詰まった京、

「ちくしょう! ぐれてやるぅ!」

扉に向かって駆け出す。その目の前に飛び出す黒い影。

「いくぞ……・とわぁぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁ!」

くるりん、しゅた!

「ふう、間に合ったか」

「間に合ったかじゃねぇ!」

血をだらだら流しながら京が抗議した相手は柳生十兵衛その人である。

「んーー……」

十兵衛は上を向いたり下を向いたりして言葉を捜していたようだが、やがて京を真っ正面から見て一言。

「許せ」

「許せじゃねぇだろ! 突進技で入ってくるな!」

「おお、これはこれは半蔵殿」

「人の話聞けよ、このおやじ! ……て、半蔵?!」

京はキョトキョトと周りを見回したのだが。

「おお、十兵衛殿。子孫とは会われたか」

喋っているのは先ほどから正座して黙々と鍋をつついていた片目に傷のある男。

「え? うそー? てっきり、あのロボコッ○かボンバー○ンみたいカッコして来ると思ってたー」

「不知火殿、あれではここでは目立ってしょうがないではありませんか。忍びたるもの、なるべく目立たないようにしなければ」

「どこかのえせ忍者に聞かせてぇ言葉だ……」

「ちょっとぉ、アンディ、肯いてないで言い返しなさいよぉ!」

「あ、え? ごめん……」

ぼんやりとその様子を眺めていたホストにして進行役のはずのSNK社員、はたと恐ろしいことに気づいてしまった。内線に駆け寄る。

「あー、もしもし。きょうの打ち合わせ参加者で突進技を持っている人のリストを。え? はい、はい。どうも。(がちゃん) はいはい、皆様、扉から離れてください」

「どうかしたのか?」

「同じことをする人がいるかもしれないと思いまして……とりあえず、当て身のできる方にご協力願いまして捕獲作戦といきましょう」

「ほほう、そういうことなら協力いたす。お? はやくもやってくるぞ」

刀を構える十兵衛。え? 刀?

「ひえんせんぷう……」

「よ、ひよっこめが!!!」

ずしゃああ!

「ろ、ロバート!」

「き、斬っちゃだめですよ! あ、京さんあなたもだめです! 燃やしてどうするんですか! ギースさん、お願いしますよぉ」

「……・下段も取っていいのか?」(※10)

「いいですよぉ」

「必殺技の出がかりのモーションを取ってもいいのか?」

「もしかして、当て身弱体化したの、怨んでます?」

「いいや、それほど怨んではおらん。せいぜい切腹させられた浅野匠守ぐらいの恨みだ」

「めっちゃ怨んでますがな」

(※10)初代餓狼伝説ではどちらもできた。ゆえにギースの名は当て身技第一人者として燦然と輝いている。

なんのかんのといいながらも扉の前に立つギース。

「さあて、突然ですが、ギース・ハワード氏の当て身教室! 解説はユリ・サカザキさんです。」

いきなり番組を始めるな、舞。

「さて、ユリさん。ひさしぶりに初代餓狼で猛威を振るった当て身投げが見られるようですが、そのへんのところ、どうでしょう?」

「元祖だから、そのへんは よゆうっち だろう」

あ、役になりきってるぞ、ユリ。

「あ、そう言っているいるあいだに続々と捕獲されていきます。並んだ椅子につぎつぎと放り投げられ着席させられていくみなさんに話を聞いてみましょう。どうでしたか、マリーさん」

「……なに? 何が起きたの、いま?」

「ありがとうございました」

それでいいのか、不知火舞。

「あ、やってくるはサウスタウンの英雄……」

「ばーん……」

どんがらがっしゃーん!

「おっと、失敗した。怪我はないか?」

「……ぎぃすぅぅぅぅ、貴様、わざとだろう!」

「ハハハハハ」

勝ち誇るギース。そこに、鋭く警告の声!

「ぎ、ギースさん、逃げてください!!」

「逃げろだと? !?」

「ひとつ(ずしゃあ、ずしゃ)、ふたつ(ずしゃあ、ずしゃ)、みっつ(ずしゃあ)、いのしかちょう!」

か、返し刃まで全部いれたな、幻十郎。

「斬った気にならんわ!」

斬ってる、斬ってる。

「あ……ともかく、これで全員揃いましたね」

「ちょ、ギースはほうっといていいの?」

「土に埋めて水をかければ復活するでしょう」

「復活するか!!」

とかいいつつ、ゆらぁりと立ち上がった所をみると、どうやら復活したらしい。さすが、ギース。復活も早い。

「というわけで、打ち合わせを……」

「まずは、酒だ」

どこから取り出したか、巨大な盃を手に持った幻十郎。

「あ、はいはい、ご自由にお飲みください。できれば、その抜き身の刀、しまっていただきたいんですが……」

震える声で言う某SNK社員。

「ほう、なかなかいけるな。おい、そこの異人、酒が入ってないのではないか?」

「なにしやが……!」

「ああ! ビリーに日本酒を飲ませてはいかん!」

「なんだよ、ギース。どうなるんだよ」

「ビリーに日本酒を飲ませると、身長57m、体重550tの巨大ロボットに変身してしまうのだ」

「なにぃ! マジかい!」

「そんなわけがあるか、愚か者め」

テリーの怒りの鉄拳がギースに飛ぶ前に、

「貴様もオタクか! くらえ、真空片手駒!」

「ぐ……いきなり何をする!」

「俺はオタクが嫌いなんだよ!」

「おめぇは黙ってろ! 破裏拳ベニマー(※11)が!」

「……みんな、みんな、だいっきらいだーーーーーー!」

泣きながら走り去る破裏拳ベニマーもとい二階堂紅丸。

泣かなくてもいいだろう、泣かなくても。

……ともあれ、現在、逃亡者一名。

(※11)♪ひっさつー しんくうかたてごまー

あっけに取られていたテリーだが話を戻して尋ねる。

「本当はどうなるんだよ」

「EX化する」

「は?」

「そうなると、私には制御できん」

「にいさーん、ビリーが犬みたいだよー」

見ると、ビリーが棒をなめまわしてカトリーヌちゃーんとかなんとか熱く囁いている。

「なさけねぇ声出してんじゃねーよ、アンディ」

とはいえ、カトリーヌちゃーん、いっしょに飲もう、とかなんとか言って三節棍にポン酒をかけてるビリーは気色悪い以外の何者でもない。

「でも、いいじゃねーか、とりあえずは人畜無害だし」

「やーよ、あいつ、あの棒に勝手に人の名前つけるんだもん」

「へぇー、あれが舞さんの言ってたEXビリー? 私がバビッとやっつけてあげる。ビリーなんて近づいちゃえば楽勝よ! とりあえず……超ナッコー!」

いきなり必殺技を出すか、普通。

「あ……言い忘れておったが、EX化ビリーには極悪潜在能力が……」

ガシッと三節棍で技を受けたとたん、

「Go to Hell! ヘーッヘッヘッヘ!」

炎を纏った三節棍で攻撃しつつ上昇する。3Hit!

「あれは、紅蓮殺棍(※12)!」

叫ぶ餓狼の面々。

(※12)最初の潜在能力にしてガードキャンセルに使える無敵技。そのうえ、最大ゲージ1本半を奪うそのダメージは半端ではない。

「おとうさん、ごめーん!」

「ユリちゃん!」

「なんだよ、あれ、見たことねーよ。あの掛け声のときは投網みたいな技だったじゃねーか!」

「ちょ……ちょっと! EXビリーの紅蓮殺棍はGCできないはずじゃないの! それにダメージもあんなに多くないはずじゃない!」

マリーがギースに食ってかかる。

「だからEX "化" ビリーだと言ったろう?」

「この野郎! わいのユリちゃんを……覇王翔吼拳!」

「ルルルルルァ……ファイヤー!」

「くそったれー!」

「うわー、あいつ、追いつめたときほど恐いんだよなぁ」

餓狼からやってきた人間はそれを思い出して、やべーといった顔をした。

それを見て取って、ラルフが動いた。

「とっておきだぜ!」

走りよって……持っていたボトルをビリーの口に注ぎ込んだ。

「うまい! 大佐、つぶしてしまう魂胆ですね!」

「あ……言い忘れておったが……」

ギースがまたも口を開き、一同の視線がギースに集まった。

「何かあるなら先に言え!」

テリーが吼える。

「……じゃ、後になったから言わない」

ますますテリーはギースが嫌いになった。

「いい年してすねてんじゃねーよ! いいから言えよ!」

「日本酒を飲ませた後さらに飲ませると、わけがわからなくなる」

「は?」

「こないだギースタワーが燃えた(※13)のはそのせいだ」

「なにぃ! ほんとうか!」

「嘘だ」

「……ギィスゥゥゥゥ」

(※13)餓狼伝説3参照。
地の底からわきだすようなテリーの怒りの声を知ってか知らずかギースは立ち上がった。

「というわけで、わたしは帰る。さらばだ、諸君」

あまりに自然な様子だったので、一同は扉が閉まるのを唖然と見ていたのだが、その直後……

「俺の納豆が食えんのかーーーーー!!」

「うわぁ! どこから出した、その納豆!」

「我が供給しておる」

ビシッと指を立てるエセ忍者。

「"ビシッ"じゃねー! 何しやがる、如月影二!」

「いや、元チームメイトとしては何かしてやらねば」

で、納豆か? 影二。

「ふふふ……テリー、きさま藁納豆みたいな髪型だなぁ」

「なんなんだよ、ワラナットウって! あ、人の髪の毛に納豆いれてんじゃねぇ!」

「おれの歌を聴けぇ!

♪ なっと、なっとーぃ!」

「それは歌じゃねぇ!」

「やーん、ねばねばー!」

その場は地獄絵図と化した。

納豆を片手に暴れまくるビリー。

逃げ惑う人々、瓦礫と化す机と椅子。

その瓦礫の下からのそのそと這い出した八神庵はふととなりで納豆をもしゃもしゃ食べているエセ忍者に気づいた。

「この状況でよく食ってられるな……」

「日持ちの良い物は好きだ(ビシッ)」

「そ、そうか……」

ガラガラ……グシャ!

2人のすぐ側に机が崩れ落ちてくる。

庵はまだ納豆を食っているエセ忍者をおいてほうほうのていで場所を移動する。ちょっとは落ち着けそうな場所に避難して、背中を瓦礫の山にあずけると、横から同じように納豆を避けて這い出す人物がいた。

怒号と悲鳴が飛び交う部屋の喧燥を避け、疲れきった様子でそいつは話し掛けてきた。

「なぁ、八神ぃ」

「なんだ?」

「そりゃ、この仕事、ギャラはいいよ? 貴様との喧嘩してるだけで金が出るんだ、待遇は確かにいいよ……」

京はそこでちょっと言葉を切って倒れている机にもたれかかった。

「でもよぉ、失いつつある物って大きいんじゃねぇかなぁ」

「……わかっていたさ、京……」

ふたりはそこで揃ってため息をついた。

平成9年12月12日

平成10年1月21日改訂

平成13年2月17日改訂

Author's Note

[Home] [SNK SPECIAL] [書架 -presented by 淙穂-]