祭囃子
こんな山奥に人はいるまい。
そう思われるような山の奥深くにその男はいた。
木々がとぎれ、森の中にわずかな空間を作って、
そこはちょっとした広場となっていた。
広場といっても、人の手の入ってない土地ゆえ、下草がかなりの高さになっている。
そこにその男はいた。
男はその広場にひとり、微動だにせず立っている。
目をとじ、手は印を組んでいる。
あたりは静まり返り、
風がふくたびに、ざーっと木々がゆれ騒ぐのがひどく大きく聞こえる。
静寂を破る者は永遠にないように思われた。
事実、男がこの地に現れてから彼の行を乱す者はいなかったのだ。
今日までは。
がさがさと下草を揺らす音が近づいてきた。
「えらくしけたとこだなぁ」
背後から静寂を完全に追い払う声がした。立っていた男はそのままの姿勢で答える。
「何用だ、ビリー・カーン」
「やはり、ここだったか、如月影二」
影二は印をとき、切れ長の目をゆっくりあけて振り向いた。
「何用だ」
「来てるんだろう、これが」
質問には直接答えず、ビリーは右手に持った白い封筒をひらひらさせた。
ふん、と影二は鼻で笑い、先を促すかのごとくビリーを見やった。
「去年はなんで出なかったんだ……って、おおかた見当はついてるがな。」
「ほう?」
「出場はしていなかったくせに、決勝の場には姿をあらわし、オロチ野郎が倒されたとたん、いなくなりゃあ、予想はつく」
「で、何の用だ?」
ビリーの口元にうかぶ皮肉ともとれる笑みを無視して影二は3度目の問いを口にした。
「用ってほどのもんじゃないがな」
「チームを組むという話ならお断りだ。出場するつもりもない」
「はっ! 招待状にも書いてあったろう? お前のチームメイトは俺じゃない。読んでもいないなら教えてやる、どこかの無名の人間だ」
「……なぜお前が知っている?」
またも質問には答えず、ビリーは言った。
「その2人、オロチだぜ」
瞬間、たしかに影二は驚いた。
その驚きはわずかに眉が動いたぐらいにしか現れなかったが、相手はそれを見逃すような人間ではなかった。自分の台詞があたえた効果にビリーは内心、ほくそえんだ。
「何を……考えている?」
あくまで冷静な声で影二は言った。
「何も。俺はただ元チームメイトとして教えてやっただけさ」
ビリーの顔にはりついたにやにや笑いはもはや憚るところを知らない。その笑いをしばらく見つめていた影二だったが、やがて一言、
「出てやろう」
と言った。言うなり、影二の姿はビリーの前から消えた。
「だが、貴様の飼い主に言っておけ。我はお前の思惑通りにはならんと」
捨てぜりふは木々の隠す頭上から聞こえたように思えた。
ビリーは影二が視界から消えた瞬間、とっさにえものを構えていたのだが、ゆっくり構えを解いてつぶやいた。
「へへ、せいぜい踊ってくんな」
ビリーと呼ばれる男は来たとき同様、下草を掻き分けて去り、この地はふたたび静寂につつまれた。
Author's Note
この作品はKOF'97の前に書いた物.
まだ,出場キャラクター全員が発表されていないころに,ビリーと山ちゃんとマリーが組むって聞いて,次のように考えた.
- ビリーとギースが両方出るなら,絶対必ず同じチームのはず.
- ビリー・マリー・山崎で一チームならギースの登場は有り得ない.
- 希望が残されるとすれば,「ビリーとギースでは格が合わん」という事実.
で,ゲーム的にはチームを分けて,ストーリーは
- ギース
- ふふ,役者は揃ったな.
- ビリー
- すべてギース様の思惑通りですね.
- ギース
- ふ,そちらの手筈はどうだ?
- ビリー
- は,おまかせください.二人とも俺の動きに気を取られてギース様の真意には気づいていないようです.
- ギース
- よし,そちらは頼んだぞ.
こんな感じ.
絶対有り得んなーと思いつつ,これを掲示板にアップしたところ,次は影ちゃんでというmkkjnさんご要望がありまして.
で,「勝手に作っちゃえオフィシャルストーリー=影二編=」と題して,ぱぱっと書いた物です.(にしても,私が書くんならオフィシャルじゃないだろう!)
ということを踏まえてご鑑賞ください.
この話では,えーちゃん+オロチな新キャラの「八神なんてやっちゃえ」チームへとつながるわけです.パワー不足でアラアラという感じですが,まあ,いいや.どうせ,えーちゃん,日のめ見なかったし.(泣)
ビリーが出てくるのははっきり言って趣味だけど,言い訳させてもらえば,新キャラの性格考えんの面倒だったのと,KOFでえーちゃんに絡めるキャラがビリーしかおらんかったからです.
えーちゃんはKOFの中で唯一まともに操れるキャラなんで,愛着があるんです.なんといっても忍者だし.忍者はいいぞ〜.