たえてさくらの……

大戦を焼け残った古風な街並みを背の高い男が歩いていく。

人が振り返らずにいられないほどの鮮やかな赤色に染められた髪と今風の身なり。しかし、体温が一段低い所にある鈍さといおうか、独特の立ち居振舞いにはまだ若いというのに軽々しいところは見られない。いまは、黙々と歩みを進めている。

よく晴れている。夏にはまだ間があるが、じっとしているとじっとりと汗が浮かんでくる。湿気が体にまとわりつく。そんなようきだった。

道は片側が高い石垣に固められていた。石垣には放置されるがままに蔦が絡みいており、閑静な住宅街の一端を担っている。

石垣は急に途切れ、そこに招くがごとく横道がついていた。横道は車が一台通れるか通れないかぐらいの幅で、かなり急な坂道になっている。

青年はその横道へと入っていき、息を乱すこともなく坂をのぼっていく。石垣はいつのまにか板壁へと変わり、風雨にさらされ黒ずんだ板壁はだらだらと続いて青年を総門のところへと導いていった。

中へ向かって呼ばわることもなしに、青年はいきなり引き戸を引いた。

物音に気づいて家の住人がやってくる。

青年はこんどはおとなしく待っていた。

玄関をあけたのは家の主人。

静かな物腰の壮年の男性はやせぎすの体を和装で包んでおり、青年を見るなり、

「八神庵殿ですな」

と言った。

黙って青年はうなずいた。

「本来ならば、嫁がせるこちらから八神の家に伺うべきなのですが――」

石垣の所有者でもある主は庵を案内しながら話している。

「――御当主の具合がよろしくないとうかがって」

廊下は狭く長い。

「お父上の具合は?」

庵は黙って首をふった。

「左様ですか……」

その答えは予想していたのだろう、大袈裟な落胆の様子は見せなかったが、それっきり主人は黙ってしまった。

直角に折れて廊下は縁側に続いていた。窓ごしに見える庭は広いようだ。木々が日差しを遮っているため、大きな窓から差し込む光はわずかだった。

「娘は庭に出ております。今、呼びますからここでお待ちください」

いや、と庭に下りようとする主人を押しとどめ、庵は自ら庭に下り立った。主人は黙って庵の行動を眺めている。

飛び石の導くままに長い足を無造作に動かしていくと、必要最低限の手入れしかしていない木々の間からこもれ日が照らしたり陰ったりして、庵のからだの上を踊るがごとくまとわりついてくる。地面からの空気は土の匂いと湿気とを顔の辺りまで運ぶ。

濃い緑とよく晴れているがゆえの木陰の薄暗さが連なる道をぬけたところに、唐突に池が現れた。

池には菖蒲が咲いていて、その紫色がまわりの緑と鮮やかな対称をなしている。庵は足を止め、ふと菖蒲を眺めた。

と、そのとき、菖蒲が立ち上がった。

――いや……

菖蒲の花の向こうに人がいたのだ。そう、それは菖蒲と見まごう紫色の着物に身を包んだ、女性というにはまだ若すぎる娘だったのだ。

娘は野原にひっそりと咲くツユクサを思い出させた。美しいという顔立ちではない。ただ、頭の後ろでまとめたあとになだらかにたらしている黒髪だけはつややかな光沢を持っていて素直に美しいと表現できた。

娘は最初、庵に気づかなかったようだ。だまって水面(みなも)を眺めていたが、ふと顔を上げ庵に気づくと、ふわり、と笑みを浮かべた。

「八神庵様ですね?」

庵はこの娘の父親にしたように、またも黙ってうなずいた。

微風のようにそっと娘は歩み寄り、

「お掛けになりませんか?」

と池に面して置いてある、切り出したままの石でできた腰掛けを手で示した。

うなずきもせずに庵は腰をおろした。娘がその横にほんの少し距離をとってそっと座った。

腰掛けたまま双方ともに口を開かず、沈黙だけがゆったりと流れていく。庵は視界に入った大灯篭をぼんやりとみやっており、娘は娘でよどんだ池を見え隠れする黒く大きな鯉を目で追ってやさしい表情を浮かべている。

時間はどこまでもゆったり流れ、沈黙は際限なく続く。

にもかかわらず、どちらも何もしない。何も言わない。

ツーツピーと冴えた小鳥の鳴き声がした。

「……シジュウカラ」

娘が洩らした吐息のような一言。庵は娘を見た。

「シジュウカラです。ほら、あそこに。スズメぐらいの大きさの、ネクタイをしたような小鳥がいるでしょう」

庵は娘の示す方に小鳥を探す。

横で娘がうふふ、とかすかに声を立てて笑った。庵が娘を振り返る。

「よかった」

「何?」

また、娘が笑い声をたてた。

「やっと しゃべってくださいましたね」

ちょっと息をついで、娘は続ける。

「わたし、頭から否定されると思っておりました。いまどき許婚なんて、いくら八神のお家とは古い付き合いだとはいえ」

「おまえはどうなんだ?」

「わたくしですか?」

娘は視線をそらして言った。

「父はわたしのためにずいぶん苦労をしてきました」

答えになっていない台詞の後で、娘は庵を真正面から見つめた。

「わたし、避けられないことを悪い風に考えないことにしているのです」

バタバタと羽の音がした。見ると、シジュウカラは逃げてしまったのだろう、木の枝が名残惜しげに揺れている。

「……名前はなんという」

背の高い青年の言葉に娘はちょっと驚いたようだったが、次の瞬間、はじけるように笑い出した。

「ゆう、です」

まだ笑いの余韻をひきずったまま娘は答えた。

「そうか」

会話はそれっきり途切れ、ふたたび今度は別の小鳥が沈黙を埋めた。

● ● ●

「アメリカ?」

緋色のゆかた姿の娘は手を止めて、びっくりしたような目を向けた。夜にもかかわらずひっきりなしに鳴いていた蝉が、そのとたんいっせいに静まったものだからその言葉は音量以上に大きく聞こえた。

庵は縁側に座って、いそいそと花火の用意をする娘を眺めていたのだが、娘が手を止めたのを見て、促すようにろうそくを渡した。再び蝉が鳴き出した。

「アメリカへいらっしゃるのですか?」

ゆうは再び手を動かしながら尋ねた。

「そうだ。格闘大会がある。キング・オブ・ファイターズとかいう、な」

「それに出場なさるのですね?」

「ビリーとかいう男が誘いをかけてきたのだ。それに……」

「それに?」

ゆうはマッチを擦った。しゅるしゅると音を立てて燃える火をろうそくに移す。それを虚ろに見つめながら庵は答えた。

「あいつが出る――草薙京が」

低いが、力のこもった語気に暗い情熱がこもる。おもわず庵を見たゆうは、彼が渇望に似た視線を虚空にさまよわせているのに気づいた。

「くさなぎ……あの草薙ですか?」

「そうだ」

視線をそらして、ゆうは線香花火を取り出した。

「あいつをこの手で……草薙京をこの手で倒せる」

うっとりしているようにも見える庵のそばでゆうは花火に火をつけた。

「八神と草薙の確執はまだ終わっていないのですね?」

ふん、と鼻で笑って、庵は言った。

「八神だの草薙だのは関係ない。京を倒したいだけだ」

しばらく押し黙っていたゆうがぽつりと言った。

「その方は庵様にとって重要な方なんですね……」

「どういう意味……」

ゆうの言葉を聞いたとたん、声を荒げて応じようとした庵は、ハッとなって押し黙った。ゆうがいつも浮かべている柔らかな笑みを消して、ひどく寂しげな表情を浮かべていたからだ。

「あ、落ちた……」

地面に落ちた小さな火の玉はみるまに溶けて闇にかき消えた。

● ● ●

暮色せまる池の端をふたりはゆっくり歩いていた。

池といってもちょっとしたもので、池からの靄で向かいにみえる建物の群れは根元が模糊としている。

ゆうが散歩に行きませんか、と言ったとき、庵はわずかなおどろきを感じたものだ。なぜといえば、この色白の娘が外出するのを見たことがなかったし、それゆえ外を歩いているゆうの姿なぞ思いつきもしなかったからだ。いつもゆうは家にいて、仕事場からの帰りにたまに現れる庵に、いつも変わらない笑みを浮かべるのだ。

とはいえ、別に反対する理由もない。

こうして2人はこの「ちょっとした池」に行くことに相成ったのだ。

歩いてわずか5分か10分みちのりだったのだが、坂の多い街ゆえ、娘は少々疲れたらしかった。だが、ゆうは満足らしく、無邪気な笑みを浮かべている。

風がふくたびに落ち葉がかさかさと音を立ててころがってゆく。夕日は先を急ぎ、それにつれて景色は刻一刻と色を失ってゆく。

池に沿ってしばらく歩くとゆうは立ち止まって景色を眺めだした。庵も立ち止まると一動作で煙草を取り出し、口にくわえて火をつけた。

池からは生長しきった葦かなにかが群生していて、上に向かってまっすぐに突き出しており、鴨の類が何十羽と浮かんでいる。

「こういう頃合いを黄昏(たそがれ)どきって言うんでしょうね」

ゆうは弾んだ声で言った。庵は煙草の煙をゆっくり吐き出し、ふたたび口にくわえる。

「ほら、あの面白い顔をしたのがキンクロハジロです。近寄ってくるしっぽの長いのがオナガガモ。顔の赤い小柄なのがコガモで……」

はしゃいでゆうはしゃべり続ける。庵は再び煙を吐き出した。

何がそんなに嬉しいのか、ともかく笑みを浮かべてゆうは水鳥を眺め続ける。

見ていると、十数羽の鳥たちが夕空をこちらにやってくる。

「あ、雁金(かりがね)……ガンです」

雁たちは靄の立ち上る水面に次々に降りた。その様子が手前に生える葦の隙間から見え隠れしている。

うっとりとそれを眺めていたゆうは突然、柵によりかかって手をのばし、

「こぉい、こぉい」

と呼ばわった。しかし、手前にいる鴨たちが少々驚いて泳ぐ速度を速めるばかりで、雁たちにはさしたる反応がない。ゆうは小さくため息をついた。

憂いにも似た陰りを瞳にたたえてゆうが池を眺めていると、何に驚いたのか、鴨たちがバタバタと飛び立った。

「あっ」

思わずしらず手を延べたが、鳥たちは薄暗い空に完全に舞い上がってしまった。

「……飛んでいく、か……」

ぼそっと庵がつぶやいた。

ゆうは驚いて庵を振り返ったまま、不思議そうな顔をしている。

水面は最初から何もなかったかのように静まり返っている。

庵はまた煙を吐いた。

● ● ●

初詣に行こうと言われたときには思わず皮肉な笑みを浮かべてしまったのだが、幸か不幸かゆうは気づいていなかった。さして信心深いわけでもなかったし、初詣に特別な意義を見出しているわけでもなかったので一瞬の後には諾、と答えていたのだが。

元旦は少々まぶしいくらいに日の照る小春日和でちょうどよい気候だった。

心配顔の父の様子に気づいてもいない様子で、ゆうは純粋に日の光を楽しみながら歩いている。さすがに日ごろから和装だけあって晴れ着も板についている。

庵の方はいつもどおりのラフな格好でこれまたいつもどおりの歩調を崩していない。

かつて武家屋敷であったこの辺りは、また、寺社の多いところでもあった。

一番近い神社は将軍某だかの所縁のもので、それなりに大きなものである。いつもは賽銭箱の隣の机にトラ猫が寝そべっているのだが、今日は俄かに信心深くなった人々が境内を埋め尽くしている。

ゆうは人の群れを見て怯んだようだった。

「こんなにたくさん……いつもはどこにいるんでしょう」

ひごろ街に出ない箱入り娘的発言をもらしているのを聞いて、内心失笑を洩らす。そういえば、ゆうは人の多く集まる場所・人がいる時間に外出したことがないらしかった。

気を取り直してゆうは手を清めるべく人の列に加わった。庵もその後ろにつく。

砂利を踏みながら列はあくまでもゆっくりと進んでいった。ようやく水場に着くと、左手、右手、口と清めていって、また列である。背の高い庵はまだいいほうで、ゆうは完全に人ごみに埋もれてしまっている。もみくちゃになっているゆうをどうにかしてやるべきだとは思ったが、こればかりはどうしようもない。

ひたすらに耐えて本殿にたどり着くと、そこには水を張ったら泳げそうなほど大きな賽銭箱が人々をさばいていた。まだたどり着いていないのに賽銭を放り投げる人々の様子を見ているうちに、またも庵は笑いの衝動に襲われた。

ゆうもどうにか参拝を済ませたらしいのを見ると、今度はすみやかにここを離れるべく人波に身を任せる。裏参道は急な坂道で、道は日陰になっている。そこを人の波が降りていく。

「満足したか?」

人が少し少なくなってきたところで、さっきから言おう言おうと思っていた言葉をいうと、ゆうはちょっと肩を落とした。

「人が多くて……何をしていたか自分で分かりませんでした。お願いしようと思ってたことも、すっかり忘れてしまって……」

聞いていた庵は、この日何度目かの皮肉な笑みをまた浮かべた。

「庵様は?」

「俺はまともに参拝などしたことがないからな、もともと。自分にできることは拝まなくてもできる。できない奴は拝んでもできはしまい」

それを聞いてゆうは柔らかな笑みを浮かべた。

「庵様はいつも庵様ですね」

太陽に暖められた道をふたりはゆっくり歩いていった。

● ● ●

病院の建物は灰色で薄暗く、闇に紛れてぼんやりしていた。

青年が中に入り会うべき患者の名を告げると、受付の看護婦は気の毒そうな顔をした。要領のいい説明を受けた後、案内しましょうかという申し出を黙って断ってゆっくりと歩き出す。

もう、すでに通常の面会時間は終わっている。冷たい廊下には非常灯の緑色の光しかついていない。もちろん、人影はない。

目的の場所はすぐに見つかった。

病室に入った時に目に入った物は、白い壁に白い服。白い顔に白い床。この場に色をもたらした自分がばかに場違いに思えた。

白い服の男――すなわち医者は難しい顔をしていたが、見つめる患者の視線に押されて看護婦ともども出ていった。

庵はその背中をぼんやりと眺めていたが、ゆっくりと視線をベッドにおとした。

見下ろす庵を下からの視線が捕らえている。

「来てくださったのですね」

大きくはないが、わりあいにしっかりとした声で娘は言った。それだけに、病院にいる、という事実が現実のものでないような気がした。

答えもせずに黙ってつったっている庵をゆうはしばらく見つめていたが、ゆるゆると視線を天井に移した。

沈黙が流れる。

庵はベッドに横たわる娘をぼんやりと眺めるままだ。

沈黙は長かったが、ふいにゆうが口を開いた。

「庵様、お願いがございます」

「何だ」

「笑ってください」

「わら……う?」

困惑した庵がそう言ったとたん、ゆうはひゅうひゅうと喉を鳴らした。笑っているらしかった。よく笑う娘だ。庵は不機嫌そうな顔をした。

笑いの発作が終わると、

「ごめんなさい、庵様」

そして、急に表情を消した。

それからしばらくは黙っていたのだが、視線をさまよわせた後、消え入りそうな声で言った。

「もうしばらく……ほんのしばらくだけ、そばにいてはくださいませんか」

庵ははっとなった。ゆうと目が合う。瞬間、沸いてきた感情はいままで味わったことがない奇妙な物だった。

庵は椅子を引き寄せて腰掛け、ゆうの左手を握った。か細い腕だった。

ゆうはわずかに微笑んで、目を閉じた。

弱々しい生命の鼓動を感じ続けようと、庵は軽く握られているゆうのこぶしを両の手のひらで包んだ。そのまま、うつむいて交差する3つの手を額にあてる。その姿勢のまま、念じた。何かが起きるように、と。何が起きればいいのか分からなかったが。じっと、その姿勢を保ちつづける。

とつぜんに、ゆうの手が微妙な重みをもたらした。

ばっと顔を上げ、目を閉じたゆうの顔を見つめる。みつめること数分の後、ぎゅっと目を閉じてこれでもかというほどゆうの手を握り締める。

やがて、ゆっくりと力を抜き目をあけると、庵はゆうの腕を布団の中にいれてやった。そして、またもゆうの顔を見つめていたが、やがてけだるげに立ちあがり、病室の外へと去っていった。

青年は灰色の建物から出てくるとすぐに歩き去ろうとしたのだが、顔にかかる白いものに気づいてふいに立ち止まった。

降りかかる柔らかいそれが落ちてくる先を見あげる。

――さくら……

青年は霧雨に濡れそぼるように、はらはらと舞い散る白い花弁を肩に顔に享けつづけた。

見上げる視線の先には真っ白な桜の古木。さらに先には、ほんの少し前まで灯のついていた病室の窓。

じっと佇む青年の表情を見た者はいない。

ただ、振り向いた彼の表情は特筆に価する。

固い決意を表すきっと結んだ口元と、暗い情熱に浮かされたような瞳。その奥のうつろな衝動。

一度として振り返らず、一度として立ち止まらず、青年はその場を去って闇に溶けた。

この日より街から八神庵という青年は姿を消した。

平成9年6月 初稿

Author's Note

これ,私にしちゃぁけっこう,早く上がったんだが.(でも,一ヶ月かかってる)なんか,自分の風景描写能力に挑んでみたかっただけのような気がしてきた.(笑)


実は,これを書く前に,caretakerさんが「庵の彼女がちづるさんのお姉さんだったら」という設定の話を書いたってのを聞いて,「うーん,庵の彼女ねぇ.ぜったい,許婚だよなー.で,現代じゃ天然記念物もんの大和撫子でさー」などと想像を始めた.

で,最初思いついたのが「笑ってくれと言われて固まる庵」.

でも,きっと微笑みなんか浮かべられない人間なんですよ,彼は.で,相手はすごく気弱な人だから,お願いなんて最期のときじゃなきゃできないだろう,と.

「なら別れのシーンを書いたら短編になるかなー.桜がいっぱいでさー」
と思ってたんだけど,別れのシーンだけじゃ弱いか・・・じゃ,出会いもつけるかと思い直して.さらに,
「うーん,出会いと別れだけじゃ2人の関係がどんなものか分からないか.じゃ,四季にしてしまえ!」
とネタがないのに枠を作ってしまっていた.(しかし,こんときは書き出す気がさらさらなかった./笑)

で,重要単語をひねり出して無理矢理そこへ持っていくという手法を取った.取ったはいいけど,書いてくうちに冗長に思えてきて,しかたがない.(特に秋と冬)

ちぎってしまおうと何度も思ったけど,いまさら思いついた文章構造を放棄する気にもなれない.

冬なんて,どう筆を運べばいいのか分からなくて,先に別れを書いてしまって,あとから無理矢理つけ足した代物なんで,なんか庵が饒舌になってしまって嫌だった.(こんときは,夜眠れなくて,頭がボーっとしてるときだった.こういうとき書くと,根性ないから仕上がりがどうでもよくなる./苦笑)

でも,夏と秋を書いてしまった労力を思うと,消す根性もない.最初,考えていた初詣の話はゆうに貧血になってもらって,こいつ病気なんだーと印象づけようと考えていたんですけど,どうもあまりにもベタベタかなーと思って,やめたら,ああなってしまって, ほんと,ここ,いらないよなーと何度も何度も悔やんだもんだが,あとで,伏線になってると指摘され,削るに削れなくなってしまった.

まあ,いいや.いおりんだし.(謎)


「ゆう」のことなんですが,書き出すと情が移ってきちゃって自分で設定しておきながら最後の場面では可哀相で仕方がなかったデス.


この文章,実はギャグになりかけてた.

その1:「笑えといわれる庵」

「庵様,笑ってください」
「笑う?……フフフフフフ,ハハハハハハ,アーッハッハッハッハッハッハ!」
「先生,脈が止まりました!!」
「何ぃ!?」

八神庵 大切な物:彼女.いまは訳あってこの世を去る.

その2:最初,私はこう書いてました.
夏の場面.

「ビリーとかいう男」→「ビリーとかいうハゲ」

(何度読み返してもそこで笑ってしまうので止めた)


あ,そうだ.場面設定書いておこう.

ゆうの家のあたりは東京にあった実家.文京区の白山ってところで,交通の便がいい住宅街,てぇとこ.近くに神社が多く,また,歩いて神保町に行けるという,すこぶる良いところ.

だから,近くの池ってのは不忍池で(といっても,実際はうちから三〇分かかったけど.散歩に行ったよ,良く)神社ってのが近所の根津神社をベースに明治神宮(賽銭箱)+神田明神(裏参道).


最後に庵について語っておこう.

私の頭の中のいおりんってのは,すごくぼーっとした人だ.たぶん,設定にある,「嫌いな物:暴力」のせいだと思うんだけど.

ともかく,日常のいおりんはすごくぼーっとしてる.

満腹になったライオンといおうか,卵飲み込んだばかりのヘビといおうか,何もやる気がない.

感覚がぼんやりしてて,反応が鈍い.

バイト先なんかでも,ただもくもくと作業してる.

もちろん,無口.無愛想だというよりも,ぼーっとしてて,言葉が浮かんでこない.

で,ひとたび戦いの気配に触れると,豹変する.ぐわーっと狂気に飲み込まれ,大暴れ.暴れだしたら,もう,手が付けられない.

だから,普段のいおりんってのは,手を出されない限り,自分と無関係な人には暴力を振るわないと思う.

たまにね,八神家が暗殺を請け負っているという設定を思い浮かべてる方もいるんですが,私の中のいおりんは,そゆことしない.

他人のために人なんて殺せない(というか,めんどくさい)

彼が暴力振るうのは,暴力に酔いしれてるときだと思うんです.

そういうときは,笑いを浮かべながらザシュ,ザシュっと.