Dichter Walt 〜鬱蒼たる森〜

銃声が轟く。

転がる薬莢。

「どういうつもりだ?」

護衛の働きで難を逃れた男が言った。

「ほんのお礼がわりだ。ほんのな……」

その時、男は唐突に「分かった」と思った。

なぜ自分が「余興」と称してまで見世物のごとき大会に出たのかを。

()いては下賎の者の血を引くこの金髪の男の動向がなぜかくも気になったのかを。

禿頭(とくとう)の男の素のままの憎悪と金髪の男の鮮やかな覇気にあてられたときにそれを目が冴えわたるように理解したのだ。

そうだ、この明快さだ。

己の野心に何の装飾も加えず行動する、この単純さだ。

これが卑しき者どもの活力か。

それとも……これが新大陸か。

自分の眼下で蠢く者どもに嫌悪を抱きつつ、憧れていたのではないか?

高貴なる血を引く自分には決してできぬこの分かりやすすぎる行動に。

禿頭が車の中に消え去った。

残る金髪の男を眺めながら男はひとり冷めた笑みを浮かべた。

そうだ、自分は厭いているのだ。血族が脈々と伝えてきた重みゆえに動かぬ己の生活に。ゆえに、次々と遊びを思い付くこの男に興味を払わずにいられないのだ。

叩き潰さねばならない、と男は思った。

美しい小鳥をひねり潰さずにいられないように。

だが、いまは。

いまは帰ろうではないか。あの空気さえ微動だにせぬ我が城へ。暗き森に存在を隠された古城へ。

「Das ist ein spannendes Gesellschaftsspiel.(なかなかの余興であった)
 Auf wiedersehen(また、いずれな)……」

この言葉にわずかながらも本当に感謝の念が込められていることに相手は気付くまい。

「帝王」と畏怖の念をもって呼ばれる男はマントを翻し、夜会の場を去った。

平成9年6月24日

Author's Note

「クラウザーも好きだな」と言われたときに思いついたネタ.

あ,あと,クラウザー氏にはドイツ語をしゃべらせたかった.それだけ.

一応説明すると,KOF'96のボスチームエンディング.(分かるかなぁ)


あのボスチームの中で一番落ち着いた雰囲気なのはクラウザーだと思う.

でもって,彼は他者を一段低い位置に見ていると思う.うごめく蟻を上から見下ろしてる感じ.やっぱり,自分が貴族であるということに誇りを持ってると思う.


こういう心情吐露系の文章ってのはポコポコいっくらでも書ける上,自分ではそれなりの物を書いたような気になるからあんまりやっちゃいけないなぁとは思ってるんだけど.

あ,あと,横文字を題名に使うの,あんま好きじゃないんすが……やってもうた.

誰か題名のセンスおくれ.