ねむくなれ、ねむくなれ

ベッドに入ってから、もう、ずいぶん経っている。

もうすっかり夜は更けて。

部屋の中は真っ暗で。

みんな寝静まっている。

イルイはひとつ寝返りを打ってからだの向きを変えた。

眠いはずなのに、いつのまにか目を()いて、ぼんやり暗い空間を見つめていた。

無理やり目をつむる。

体は眠い。でも、眠りがやってこない。

もう一度寝返りを打って、今度は反対を向く。

シーツがひんやりしていたのは最初だけで、すぐに体温であったまり、うっすら湿気を帯びてきた。その湿気がまとわりつくようで、イルイはまた寝返りを打った。

足をうんとのばす。縮める。

腕を曲げる。のばす。

そうやって、しばらくもぞもぞした後で、こらえ切れなくなって起き上がった。

ベッドの上に座る。

壁にもたれかかる。

壁にあたった肩がひんやりとする。

目を開けている。

じっと宙を見ている。

それもまた落ち着かなくなって、イルイはとうとうベッドからぬけだした。

だれも起こさないように足音を忍ばせて、ぺたぺたと歩く。

そうして、リビングのソファまでくると、イルイはそこに横になった。

いつもと違うところに横になって、手足を縮めてじっとする。

いつもと違う布の感触をほおに感じながら、ぼんやりと目を開けている。

それからどれだけ経っただろう。

戸口に人影が現れた。

――ゼンガー……

イルイは目を閉じた。

きっと、その大きな人は、こんな夜更けにこんなところにいるのを見とがめて、部屋に行くよう促すだろう。

気配が近づいてきた。

イルイは観念した。

でも、声がかけられることはなかった。代わりにソファの頭の方がしずんだ。

とん。

とん。

背中をゆっくりたたかれる。

軽く静かにたたかれる。

とん。

とん……

ずっと同じ調子で動く手をイルイはそっとつかまえた。

大きな手の動きが止まる。

イルイは顔を上に向け、そこに座っている人を見つめた。

薄闇の中に座った人が、静かに見つめ返していた。

視線を合わせてしばらく、イルイは顔を元の位置に戻した。

それから、つかまえた手をひっぱって自分の真正面に抱え込んだ。そうやって腕ごと自分だけの物にしてしまうと、額をそこにくっつけて、改めて目を閉じた。

平成十九年七月二七日 初稿

補足説明

ゼンガー,イルイを甘やかしすぎだと思った.いや,いちおう甘やかしてるつもりなんだが,どうだろう.

自分で書いておいてなんだけど,反応が動物みたいだと思った.