眠り給う、いと寧 く
病室は白い。
白くて静かだ。
マイはベッドに椅子を寄せて眠り続ける少女のそばについていた。
ドクターの話ではイルイが眠っているのは疲労のためであり、他に異常は見受けられないとのことだった。つまりは、心配いらないと言われたのだ。だから、マイが今、チリチリと感じている微かなざわめきは取るに足らない物であり、ここにこうやって座って見守っているのも馬鹿げたことなのかもしれない。
イルイは
マイがイルイと会話を交わしたのはわずかな間でしかなかった。振り回されたような観はあったものの、それは和やかで穏やかで暖かい邂逅だった。
マイは思い出して、ためらうように微笑を浮かべた。
――イルイ、私は礼が言いたい……
病室は白い。
白くて静かだ。
マイは壁際に視線を送った。
そこに男が一人座っている。
戦いにあっては圧倒的な強さを誇る歴戦の軍人。
マイはゼンガーのことをよく知らない。ゼンガーとイルイの関係についてもよくは知らない。
男はイルイが病室に運び込まれた直後から壁際を自分の居場所とでも決めたのか、戦闘の時以外はほとんどそこにいた。
男はいつも、目を閉じ黙ってそこに座っている。会話を交わしたことはない。座っているだけなのだから、なんとはなしに居心地悪く思うのは、自分の心持ちが悪いだけだろう。
目を閉じた男は、瞑想しているというよりも、何かの修行をしているように見えた。
と、男が目を開けた。視線がまともにかちあったので、無意識にマイは赤くなった。何か言わなければならないだろうかと口を開きかけたが、男の視線はマイを外れ、部屋のスピーカーへと向けられていた。
〈本艦はバロータ星系に到達しました。各員、第一種戦闘配備についてください。繰り返します……〉
――なぜ分かったのだろう。
男が立ち上がったのを見て、マイは慌てて自分も立ち上がった。
「イルイ、また来る」
眠る少女に言ってから扉へと向かったのだが、すぐに出てくると思った男が続いていなかったので、マイは振り返った。
男はベッドの側に立っていた。
真っ直ぐに、峻嶺のように嶮しい様で立ち尽くし、顔だけを下に向けて、
突然、マイはとても悲しい物を見ているような気分に襲われた。
そうやって男が少女を見ていた時間など、ものの数秒に過ぎなかっただろう。
「……出撃だ」
気づけば男はそう言ってマイの横を抜けるところだった。
「分かった」
――イルイ、早く目覚めてくれ。
そして、願わくばその声を聞かせてくれ。
他の何が無くても、それこそが福音なのだから。
平成十八年七月三一日 初稿
補足説明
ゼンガーさんは分かりやすい時は非常にストレートに感情出すけど、少し落ち着くと、なんだかよく分からない感情の表し方をするような気がする.
マイの口調がよく分からなくて困った.と言うより,マイ→ゼンガーの口調がよく分からん.