ロンドンの目覚め 日の出は6時半ごろ |
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さすがに起きてみるとおなかが空いていたので,食べ残しのポテトを食べた.本当は僕,ミスドのお粥が食べたくて仕方なかったんだけども,そんなものはないもんね.
今日の9時に近くでマーケットが開くと tosch がフロントで聞き込んでいたので,今日はそこから始まるだろう.マーケットの場所はみゅうインフォメーションセンターの地図で知ったのだ.tosch はアンティーク小物を期待してるんだろうけど
Sousui「野菜売ってるんじゃない?」
とりあえずはご飯だ.昨日とはべつの席に案内された.すぐに給仕に来たお兄さんに2人で両方からステレオ状態で「Tea, please」と言ってしまい,笑われた.昨日と同じくパンを3つぐらい食べて出てきた.
今日はベーカー街に行って,夜はディナークルーズの予定だが,体調がよくない状態が続いているので観念して先に医者にかかることを決意した.
そこで,安田のフリーダイヤルにホテル1階の公衆電話で掛けてみるが,フリーダイヤルがかからない.コレクトコールもだめ.部屋の電話からもだめ.困ってしまってフロントで訊くと,外にある BTの公衆電話を使ってくれといわれる.その電話機がどこにあるかよく分からなくていったん訊きに戻ったので,電話をかけるまでにえらい苦労をした.
やっと電話をかけることができた.症状を伝える段になってはたと困る.
「今は元気だし,普通は元気だけど,食事を口にすると気持ち悪くなる」
自分で考えてみてもこれを病気というのかどうか自信がなくなってしまう.
「失礼ですが,妊娠という可能性はございませんか?」
といわれて,はたとそういえばそんなことを言われるお年頃だったんだな〜と軽い驚きを感じた.ともかく,ホテルの TEL と部屋番号を伝え,予約を取ってくれるというので,折り返しの電話を待つことにする.
ロンドンはすこぶる便利なところで,日本人医師がいるという.日本語が通じるというレベルでなく,日本人職員が働いてる病院があるという.そこに11:15に予約を入れてくれたそうだ.場所は Baker Street 駅から Jubillee線で1つ目の St. John's Wood 駅の近く,St. John & St. Elizabeth 病院内の日本クラブ北診療所だそうだ.あまりにもうってつけなロケーションに途中から笑いを含んだ声になってしまっていたから安田のおねーさんは「何事だ?」と思っていたかもしれない.
オペレーター「そこの third floor, 3階です」
Sousui 「third floor って3階なんですか?」
オペレーター「えっと,イギリスで third floor ですから…日本でいえば4階です」
分かってることなんだから,訊き返していじめんなよ(→自分).どっちにしろ行けば看板ぐらいあるだろうし.
予約は取れた,時間はまだあるので,近くのマーケットに行ってみた.
――本当に野菜だった(笑).他にあったのは織物と小型電化製品ぐらい.tosch ご期待のアンティークは皆無.でも,オクラを写したり(オクラって英語でも Okra なんだなぁ),ナスビを写して「朝日を受けるナス」と名づけたりしていたから,ロンドンのマーケットの雰囲気がわかったという意味ではまったく面白くなかったわけでもあるまい.それにしてもイギリスのマッシュルームは大きい.直径が5cmぐらいあった.不健康な食生活が続いている僕としては木苺かオレンジなどを買ってみようかとも思ったのだが,安いのはいいとして量が多かったのでやめておいた.
マーケットのたつ道にはお店が建ち並んでいて,このあたりのショッピング街といった様相である.なんだ,近くに本屋もCD屋もゲームショップもあるじゃん.tosch はお店で NIKE の帽子が £6ぐらいで売られているのを見て買いたがっていたが,手持ちの現金がない.帽子を見ながらカード使えるかな〜とウンウンいっていると,お店のおじさんが寄ってきた.ブラジル系かインド系かそんな感じの人で,ちょっと変わった発音である.
tosch「Can I use card?」(とカードを見せる)
おじさんは£10以上なら使えるよといったのだが,tosch は分かってないらしかったので通訳すると,
tosch「Oh, I see」
とあきらめて店を出た.店を出たとたん,僕はふきだしてしまった.
Sousui「"Oh, I see." って,分かったの俺じゃねーかよ」
tosch 「そっか.Oh, you see」
ぼちぼち戻って出かける準備をするかとホテルに戻る途中で Royal Mail の表示をコンビニらしき店で見つけたのが間違いの元だった.絵葉書を日本に送りたいから切手をくれといったところ,値段わかんないから郵便局に行ってくれと言われた.p40 というのは分かってたのだが,郵便局は近くのようだったので,そちらへ行くことに.ホテルのコンシェルジェに頼むとチップを取られてるのか p50 と言われるんだよね.ところが,郵便局が混んでいた.p40 の切手と Air Mail と書かれたシールをもらうのにずいぶん時間がかかってしまった.切手は日本の切手の糊と違う味がした.
ディナーのためのそれなりの格好をするのにも手間取って,出たのは10:45ごろ.11:15には間に合いそうにない.化粧はしなかった.看護婦をやってる友人が「化粧バッチリしてくる人がいるんだけど,顔色わかんなくて困るんだよね」と言っていたのを思い出したからだ.
West Brompton から Baker Street に着いた段階で11時ははるか昔に過ぎ去っている.壁紙がホームズだらけと訊いていたけど,Circle線のホームにはない.階段を上ると茶色・黄色・橙のホームズシルエット3つ1組で1つのタイルを構成したものがたくさん貼ってあった.けど,僕が辞書で見た大きいホームズのシルエットが向かいあったやつはどこにあるんだろう? でも,時間がないので探すのは後にした.
ありがたいことに,病院は駅のすぐそばだった.でも,着いたのは11:45.最初にカルテを作るというのでいろいろと書かされたが,基本的にロンドンに住んでいる人のための病院なのだろう,記入例を見てもどう書けばいいのかよく分からないことばかりだ.事務所(という言い方のほうがぴったりだ,窓口と言うより)はライティングデスクとはちょっと離れた場所だし事務の人はなんとなく質問しにくい雰囲気をかもし出している.面倒なのでテキトーに埋めた.そうしたら待合室に通された.tosch はライティングデスクのところで待つことになった.僕は30分ぐらいで呼ばれるかとたかをくくっていたのだが,ずいぶん待たされた.待合室には3日ぐらい前の新聞があったので,それをずっと読んでいてやっと診療室に呼ばれた.
すると,30か40代ぐらいのお医者さんで,事務の人とは違ってやさしそうだったので少し安心した.ところがね,考えないでもなかったけど,診療台に寝かされたわけ.――親指の先に穴のあいたストッキングはいてるというのに(苦笑). その上,ご飯を食べたのはずいぶん前だったから僕はそんなにひどい状態でなく,お医者さんもなんなんだか判断つきかねる様子だった.盲腸じゃないしと首をひねっている.妊娠しているかとまた聞かれたので,自信を持って
「それは絶対ありません」
と言ったら,
「絶対か…」
と呟いていた.旅行者だと知らなかったようだ.診療の最後にそれを知って,
「旅行中なのかぁ」
と意外そうだった.てっきり,知ってるのだとばかり思っていた.旅行中だと分かっていれば診断のつけようもあったのかもしれない.
そんなわけで,薬を大量にもらっただけだった.初診料だけでも£45と書いてあり,薬もすごい値段だったから,海外旅行保険料の元は取ってしまったことになる.保険会社は経営が苦しいとこが多いというのに,たいした症状でもないのに医者にかかってしまって悪いような気がした.
出て行ってみると tosch がグーグー寝ていた.ほんとにどこででも寝るヤツだ.ロンドンに着てからはそれでも気を張って地下鉄では寝なかったのだが,病院でと安心したと見える.終わったよと声をかけると,tosch はちょっと伸びをして,
「おなかすいた」
と発言した.ロンドンに来てから1番聞いたフレーズかもしれない.
Baker Street に引き返し,駅から出たとたん,でっかいホームズ像を発見.2m以上はある.ディアストーカーにフロックコートという定番の姿だ.シャーロック・ホームズ協会がたてたらしい.
驚きから立ち直り,シャーロック・ホームズ博物館を目指して歩き出す.シャーロック・ホームズ像があるのは Marylebone Road 側である.マダム・タッソーとその付属のプラネタリウムがあるのが見えるので方角をつかむのはやさしい.マダム・タッソーとは反対方向に歩き出し,Baker Street を北に折れる.ここで本屋を発見.思わず吸い寄せられる.他の本屋ではあまり見なかったのだが,さすがはベーカー街にあるだけはある,コナン・ドイルの著作が山盛りだ.でも,僕を惹きつけたのはそれではなかった.だって,ホームズ物なら日本でも買えるし,利便性を考えれば原文読みたければ講談社インターナショナルのルビーブックス出揃えるのが1番だ(ありがたいことに全部そろってるし).僕の目にとまったのは『A Tolkien Bestiary』だ.中をパラパラとめくるとトールキン世界に出てくる生き物の辞典のようで,美しい挿絵もついている.もう1つ目に止まったのは『Baby Name Book』.名づけの本だ.こういう本ってどこの国にもあるもんだなぁと思った.中を見てみると,名前の意味が書いてある辞書だった.俄然,欲しくなった.
本屋を出たのが13:20ごろで,そのまま Baker Street を Regent's Park 方向へ歩いていくと右手にシャーロックホームズグッズの店があった.けっこう品揃えがいいので,お土産にはいいかもしれない.シャーロック・ホームズ博物館はその斜め向かい.
入り口と思しき戸口が2つあり,toschが右の扉が開かないらしいしぐさをしていたので左に行ったら,「となり,となり」と言われた.右の扉は重かっただけだった.が,入ってみるもののどう見てもお土産屋だ.しばらく商品を眺めていると,別な人が入ってきたので,それを見ていてやっと分かった.入場料をここで払ってからさっき追い返された(語弊があるな)ところに行けばよいのだ.カードが使えるのでカードで払った.£6は高いと思うのだが,きっと私設だろうし仕方がないか.
ロイロット博士の最期 こんなぐあいに蝋人形がいくつかある.作品当てするのもまた一興.ずいぶん忘れてしまったと思っていましたが,けっこう当てることができました. |
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ここの係員さんは女性がメイド姿で男性が警官の姿である.なぜ?あ,そうそう,入るときおねーさんが「カメラ大丈夫です」と日本語で言ってくれた.日本人,多いんだろうな.実際,名刺受けにたくさん日本人の名刺があった.
中は思ったより狭い.蝋人形を使って場面を再現したもの,小道具,給仕のビリーの人形,居間の再現,なぜか Baker Street Irregulars の写真.メイド姿のおねーさんがシャーロック・ホームズの全集を読んでいた.この人も好きなんだろうね.日本語と英語の解説があった.やっぱ,多いんだな,日本人.4階ぐらいまであって,おしまい.やっぱ£6は高いかな.面白かったけど.
ダスティン・ホフマン? ホームズ博物館のお土産屋の壁にかかっていた写真.ダスティン・ほふまんだよねぇ? |
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改めてお土産屋に行って,目をつけていたグラナダTV版ホームズの絵葉書セットを買った.£10也.高いって? いやいや34枚セットだったからそうでもないよ.そうそう,驚いたのは宮崎駿のアニメ版ホームズのビデオがあったことだ.もちろん日本語.イギリスだとビデオの方式が違うだろうに買う人いるのかな? もう1つ驚きはダスティン・ホフマンとおぼしき写真だな.ダスティン・ホフマンもホームズ好きなのかな.
ABBEY HOUSE ABBEY HOUSE は金融関連の会社だときく.あまりにホームズ宛の手紙が多いので社内に専任の返事の手紙を出す係を置いているそうな. |
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ホームズのレリーフ 上の写真,ドアの右側にあるプレートの拡大図.tosch も「ああ,これこれ」と述べておりました. |
かくして出てきたのは14:30過ぎ.さすがにおなかがすいた.雨も降り出していて,僕は今朝の青空に騙されて傘を持ってきてなかったものだから,近くで食事をしてしまおうとサンドイッチ屋に飛び込んだ.
シャーロック・ホームズ・スペシャルというメニューがあって気になったけど,スペシャルだけに量が多そうだったのでやめた.飲み物のメニューはないのかね,と困った日本人2人,something to drink といったっきり,メニューはないのかとはどういえばいいのか分からなくなる.something to drink を繰り返す日本人相手におねーさんたちは辛抱強かった.いろいろと tea だの coffee だの言ってくれて,僕は薬のために still を買った.最初から still をくれと言えばよかった.
ガラス越しに通りを眺めながらむしゃむしゃやっていると,toschが言った.
「プレートがなかった」
「プレートって?」
「シャーロック・ホームズの横顔がついたヤツ.叔父さんが子供の頃写真見せてくれた」
「ああ,それはね,――アレだよ」
私は通りの向かい側を指差した.ちょうどまん前が ABBEY HOUSE だったのだ.
サンドイッチは多かったけど,無理やり押し込んだ.もちろん,僕は気分が悪くなった.tosch にもこのサンドイッチ(ベーグルだったかもしれない)は多かったらしい.
Sousui「残せばいいじゃん」
tosch 「だって,すぐおなかすくんだもん」
あまりおいしくもない still で薬を飲んだころには雨は小降りになった.ホームズのプレートをカメラに納めて僕らは Baker Street を後にした.
ベーカーストリート駅壁紙 |
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駅であきらめきれずに辞書にあったホームズの壁紙を探してホームからホームへと渡り歩いた.Baker Street 駅はホームごとに造形が違っているので,ホームズ抜きにしても興味深いと思う.結局,捜し求めていた壁は Bakerloo線のホームだった.地下鉄マークをはさんで向かいあうホームズのシルエットは小さなホームズのシルエットで構成されている.大喜びで写真に撮った.本当は2つを1画面に納めたかったのだが,そうするには線路に転落するしかないのであきらめた.
そのあと,大英博物館に行った.Jubillee 線に乗り,Bond Street で乗り換えて Central 線で Tettenham Court Roadへ.tosch が Bond はあの Bond かと訊いてきたが,それはないんじゃないか?
1度行っているので,迷わなかった.道すがら僕はメソポタミアのなんかってなんだろうと話した.
Sousui「楔形文字ぐらいしか思いつかないよ」
tosch 「何で書くんだろうね,アレ.書くというより彫るのか」
Sousui「楔形文字?ああ,あれはね,ステイルで――ステイルじゃ分からないか,植物の茎なんだよ.それをまだやわらかい粘土に押し付けて書くんだ.そうだ,それこそステイルぐらいあればいいのに」
ステイル型ペーパーナイフとかさ.もしくは楔形文字ノート.ギルガメシュ・サーガの一部が表紙に書いてあるなんてどうだろう.
あとで考えてみると,この大英博物館行きは大失敗だった.雨に濡れたからなのか,疲れすぎたためなのか,僕は気分が悪くなってしまい,ホテルで一服することしか考えられなくなった.朝,「戻ってこないから,最初からちゃんとした格好で」と行ったのは僕だっただけに申し訳なかったけど,僕らは急いで帰った.大英博物館ではコインとギリシアの像や赤い壺を見ただけだった.
時間が差し迫っていたから,ホテルでできた急速はわずか.復調できなかったが,Embankment Peer へ向かう.途中の地下鉄の中でまずいなーまずいなーと思いつづけていたのだが,気分はすぐれぬまま着いてしまう.レセプションのお兄さんは愛想がよく,「楽しんでください」と日本語で言われて嬉しかったけど,やはり気分は悪い.
テーブルで食前酒を飲んだ.この酒はうまかったのだ.不思議なことに.飲んでもこの酒が効く間は気分がよくなった.すぐにアルコールのもたらす熱い感じはひいてしまって再び胃がもたれた感じになるんだけど.
僕はさんざん考えていた.もったいない,けど船が出てしまってからどうしようもなくなってしまったら周り中の迷惑だ.1人で置いていって tosch は大丈夫だろうか.大丈夫だろう.この船に乗ったからにはスリや置き引きである可能性も乱暴狼藉を働く人間である可能性も低い.それに,下船後はホテルまで日本人係員つきのバスが送ってくれる.tosch は大丈夫だ.むしろ,ひっくり返りそうになりながら地下鉄で帰ろうとしている僕のほうが危険度はちょっぴり高いかもしれない.
僕は体調に負け下船した.係の人々がオヤオヤという顔をしてたし,受付のお兄さんも残念そうな顔だった.何より僕自身がとても悔しかった.生演奏もあって素敵だったろうに.
だが,これらは後からの感想だ.この時の僕はベッドに横にななることしか考えられなかった.
地下鉄では席を譲られた.僕はカメラをウェストポーチに入れてたうえからコートを着て前を閉めていて,昼間に tosch に「お子さんは元気ですか?おなかを蹴ったりしませんか?」とからかわれていただけに,ちょっと笑ってしまった.はたして僕は妊婦に見られていたのだろうか?
ホテルに帰り着くと,僕は日本から持ってきていたカロリーメイトじみたものを2切ればかしかじった.Vitamin Salad だったかな.上をしのぐつもりなわけだが,食うと気持ち悪い.なんてこった.
拾ってきた番組表を見ると,BBC で The Inspector Lynley Mysteries というのをやっていた.つけてみた.Inspector Lynley はなんでかしらないけど,貴族じみたパーティに出席していている貴族じみた人だった.特別親しそうな女性と語っていた.その部下の Detective Sergeant Haver という女性は Lynley の下で捜査なんてとんでもない!というそぶりを見せていた.Haver は年老いた母親の世話をしなければならない人らしい.どっちも悩みを抱えているようだった.事件もとある農村で男が納屋かどっかで殺されていてそのそばで血まみれの怯えた女の子が見つかるというもので,なんだか重苦しかった.その上,話が半分ぐらいしかわからなかったので,途中で消した.
tosch が帰ってきたのを夢うつつで気づいた.帰ってきたなーと思いながら本格的に寝た.