野良犬

その日は恐ろしく暑かった.

黒澤映画特集 in Stanford Theatre, Palo Alto, California, USA第5作目『野良犬』です.

気がついたら犬がハハハハ言ってて,いったい何が起きるのかと思った.

『醜聞スキャンダル』を観たとき,三船さんはいつも何かしら三船さんだなあと思ったんですが,これ観たときに,こんな役もできるんですね,すいません,と思った.刑事の役なんですが,素直で一途だけど繊細なところもある好青年.

村上刑事が人から話を引き出す手法はなんか泣き落としっぽい気がする.あ,いや,字義通りの意味ではないけど.根負けするスリとか,ダンサーとかね.どうも突っぱねきれない一途さを感じるんだろうなあ.私が一番好きな場面は屋根(なのかなんなのかよく分からないけど)の上で体育座り.この後,ビールをもらうんだけど,あげちゃう気になるのがなんか分かる(笑).「死なないでくれ,生きていてくれー!」ともう繰り返し繰り返し繰り返し叫んでるとことか,どうにも帰れなくて廊下で寝てるのとかね.

気のせいかしらんけど,三船さんずいぶん虹彩が薄く見える.これ,光の加減かなあ.光を入れてそう見えるようにするのだとしたら,ずいぶんまぶしかっただろうなあと思う.

そうそう,この頃の台詞回しで気に入っているのが「○○してくれたまえ」っての.それから,『醜聞スキャンダル』でも気になっていたのが「○○なの?」という台詞.がたいのいい若い男性の台詞にしてはずいぶん柔らかいなあと思って.

泣けた場面は夫がトマト抜いちゃう場面だな.つぶれたトマトもつぶした夫も可哀想で.

途中,巨人VS南海の試合(川上が出てくるよ!)が出てくるんだけど,主審が「プレイボール!」と言ったとたん,劇場内にどっと笑いが起こって,何が可笑しいんだ,アメリカ人?!と頭の中をはてなマークが飛んでいた.和製英語なのかと思ったら,そうでもなかったし.発音が可笑しかったのかなあ.バイバイでも笑ってたもんなあ.ただ,そっちは普通にユーモアの場面だったからなあ.分からない分からない.

それから,登場人物の名前が私の本名と同じだったせいで,途中から名前連呼.居心地が悪かった.

電話がなかなか通じないところは佐藤さんといっしょになって苛々していた.いいからためらってないでとっとと取れ!って.

印象深かったのが,遊佐がね,最後まで出てこなくて,それで乱闘になる.でも流れているのはドーミーソーソソソソードーミードドーシ,ってなんて曲か忘れたけど有名なピアノの曲で,何にも知らないで女の人が弾いてる,そこで村上と遊佐はもみあってる.ここ観て,昔バーナード・ハーマンのドキュメンタリー観たときのことを思い出した.バーナード・ハーマンは死の場面では死に相応しい音楽を入れるべきだという人で,それでどれかの映画の作曲を下ろされちゃうんだけど,ハーマンは新しい感覚に馴染めなかったからかなあと思っていた.けどね,この映画はもっと古い.おそらくバーナード・ハーマンが下ろされた映画(カラー作品だった)の10年は古い.これはもう主観の問題なんだろうなあ.私はどちらかというと対比で強調されるという感覚の方を取る.

それで,捕まってね,でも台詞はないんだ.遊佐はただ堪えきれない物を嗚咽のように振り絞るように呻くというか高く吼えるというか,そんなんなんだ.

アプレゲール,なんだろうなあ.村上と遊佐が復員者の二相なんだろうなあ.

2010.4.24追記:後で村上と遊佐を演じた三船さんと木村さんが復員兵だと知った.その上,木村さんは海軍に行っている間に広島原爆で家族全員を失っていると知った.そうやってみると,この最後の呻きなんか,とても「演技」で収まらなかったんじゃないだろうかと悲しくて仕方がなくなった.

野良犬 [DVD]

日時: 2010年3月 6日 | 感想 > TV/映画 |

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