右門捕物帖(佐々木味津三)

『羅生門』観て芥川龍之介の『藪の中』と『羅生門』を読みたくなって青空文庫にテキスト取りに行ってみたら,急に『右門捕物帖』を読み返したくて仕方がなくなってしまった.(何故?)

それで,小学校以来で読み返してたんですが,あれ?こんなんだったっけ?いや,でも,オモシレー!

短編ばかり38編です.知恵伊豆さんの頃なので,時代は三代将軍の頃です.いちいち律儀に「○番手柄です」と冒頭に書いてある.

前に杉良太郎の右門は右門と認めんとほざいてたけど,ごめん,私が悪かった.まんまそんな雰囲気かもしれん.黙りだから「むっつり右門」なんぞと渾名つけられた癖に,いったん気が向いてしゃべり出したら伝六に負けないぐらいしゃべりさくってた.しかし,「おれが、むっつりとあだ名の右門だッ」と啖呵きる場面があって,それ,啖呵きるような立派な二つ名なんか!と吹き出してしまった.ああ,そうそう,末尾の小さい「ッ」書きって,最近の風潮じゃなかったんだねと目から鱗だった.

地の文はなんだか講談調で,好き嫌いがあるかもしれない.「~ような右門とは右門が違います」とか「疾風迅雷的」という言い回しが妙に好き.

だいたい,右門自体可笑しい.草香流柔術(やわら)と錣正流(しころせいりゅう)居合い切りの名人(捕り手らしく主には柔術の方.めったに刀は抜かない)だとか,若くて美男だってのはまあ普通だよ.ただ,たいてい顎をなでなでゴロゴロしていて,事件がないと外に出ない.伝六が遊びに誘っても返事もしないでゴロゴロしているくせに鰻食いに行こうと言うとむっくり起き上がる.おまけに,2,3人前がデフォルト.同心なので下級役人とは言え侍なんだけど,伝六や町人相手にしゃべっているときはかなりしゃべりが伝法で一人称が「おいら」になったり「あっし」になったりする.

伝六がまた負けていない.基本,右門は尊敬してるんだけど,扱いぞんざいにされたりすると言い返す言い返す.「いいえ、だんな、お黙り!」とか.あと渾名の「おしゃべり」に見合って,立て板に水のごとくに言葉流れて話が長い.基本的に賑やかで,たまに黙ってぼんやりしていると右門の方が心配して声をかける.

一話目二話目ぐらいはあんまり慣れてないような書きぶりで,さほどピンとこなかったんだけど,中期になると脂ののった小気味のいい会話の応酬が可笑しくて可笑しくてたまらない.事件とその解決自体は他愛なかったりそんなご都合主義でいいの?!と思うんだけど,それを補ってあまりある.

ああ,38話しかないのが残念だ.なんだかテレビ版も観たくなってしまった.(しかし,私が昔観た杉良太郎版でない右門は本当に誰だったのだろう?)

2010/3/5 読書開始 - 2010/3/26 読了

日時: 2010年3月26日 | 感想 > 本 |

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