初めてにしちゃあリリィの料理は上出来。
 俺が家長として七面鳥を切り分けると、ミスターは「七面鳥(ターキー)という名前の国を知ってるか」と切り出して、見事な話術でリリィを楽しませてくれている。
こっちも上出来。

 シャンパンも入ってることもあって、俺はかなり上機嫌だった。

 ギース・ハワードが本当に楽しんでいるかは別として、リリィは本当に楽しそうだったし、俺にとっちゃあそれが最重要事項であって、ミスターのことはありていに言えばどうでも良かった。

「あ、忘れるところだった」
 そう言うなり、リリィは奥にひっこんだ。
「妹がほんとうに大事なんだな、お前は」
「ええ、そうですよ、ミスター・"ロックウェル"。あんたよりもずっとね」

 視線の端にリリィが入る。マフラーを手に持っている。俺に気づくと、こっち見ちゃダメとリリィは声に出さずに言った。
 そんときになると俺はかなりトロンとした目をしてたんで、ミスターは俺の様子に気づいちゃいなかった。

 俺はリリィに援護射撃。
「それが分かってるから今日は気を遣ってるんでしょう?」
「気を遣う、か」
ニヤリとミスターは笑った。
「そうだな」

 リリィが座っているミスターの背後まできた。そしてそっとマフラーを首にかけようとした。
 そのとたん、ギース・ハワードはビクッとしてガッとリリィの手首をつかんだ。

 敵を追い散らし、他人を狙い、狙われてのぼってきた者の悲しい性。

 リリィは怯えのあまり震える声で
「プレゼントです、ミスター・ロックウェル」
と言った。

 リリィと白いマフラーとを見て自分の勘違いに気づいたのだろう、ミスターは小さく 「ありがとう」と言うと、むっつりと黙り込んでしまった。
 しばらくもしないうちにギース・ハワードは、もうおそいので とかなんとか言って席を立った。

 玄関まで見送ったリリィだったが、ミスターの姿が扉の向こうに見えなくなるととうとう泣き出した。
「怒ったのかな」
「怒っちゃいないよ、驚いただけさ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 ポロポロと涙をこぼすリリィを抱きしめて俺は背中を叩いてやった。
「大丈夫、お前は悪くないよ。な? そんなに泣くな。後片付けはお兄ちゃんがしてやるから今日はもう寝な」
 それでもポロポロ泣きながらリリィはコクンとひとつうなずいた。

 俺はリリィがベッドに入るのを確認してから皿やら何やらを片づけ出した。
 片づけちまってから自分もベッドに横になる。

 ちっくしょう、ちっくしょう。

 さっきからその言葉ばかりが頭の中を回っている。

 ちっくしょう、殺気のあるなしぐらい分かれってんだコンチクショウ。
 そんなこと俺にだってできはしないんだが、腹立ちのあまり俺はかなり身勝手なことを考えていた。
 寝付けなくてゴロンゴロンと何度も寝返りをうつ。

 ちくしょう・・・


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